<2006.11.13 K.Kotani>「ピピアめふアニメーション教室」特別講座 11


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2006年11月13日

「ピピアめふアニメーション教室」特別講座 11




アマチュアのセルアニメ

 セルアニメが「本物のアニメ」だった時代

 アマチュアアニメの初期には、セルアニメが本物のアニメで、その他のペーパーや切り紙アニメなどは亜流、安物・・・などと思われていた時代が長く続いた。(嘘ではない)
 現在のようにアート系のアニメが多数上映される時代では無く、目に入るものはほとんどすべてセルアニメ、しかも当時のアマチュアアニメの作家達はほとんどTVアニメファン上がりだった。
 しかも、そのセルアニメをまともに作る事がほとんど不可能という時代が続いた。

 セルアニメの始まり

 そもそも、最初のアニメはペーパーアニメであったり、黒板に描いては消しのアニメであったりした。ところが劇場用に短編の需要が出るようになり、量産とともに質のアップが要求されると、一枚の絵に全てを書き込むペーパーアニメでは一枚の絵の質が維持できず、また簡単な背景にしても一枚一枚書き込むと膨大な作業量となる。そこで、透明なセルロイド板(当時は本物のセルロイド)にキャラクターを描き、背景の上に重ねるというハイテクが開発された。
 セルアニメが開発されたのは戦前であり、当時の日本は本当に貧乏な国で、ディズニーが現在上映してもそん色のない豪華長篇フルアニメを製作していたのに、セルを使えないので切り紙で代用したり、一度使ったセルを洗って再利用したりという時代が続いた。(しかも白黒)
 セルロイドは引火性が強く、セルロイドの下敷きを削ったくずを鉛筆の金属キャップにつめて鉛筆をさし、ろうそくであぶって爆発させて遊んでいた小学生が警官に怒られたりしていた。
 (現在ではセルというのは名前だけで引火性のない材料が使われている。)
(「男おいどん」では主人公のメガネのふちがセルロイドで出来ており火気に触れて爆発的に燃焼するところが描かれている。)


アニメ・ブームとセル・ブーム

 1970年代後半、「ヤマト」「トリトン」などの作品から中高生中心にアニメブームがおこると、アニメのセルをコレクションするという事がファンの間で広まった。それまでは産業廃棄物として捨てられていた撮影済みセルが徐々にアニメショップなどで販売されたり、製作会社と関係の深いファンクラブで会員に配付されたりした。夏休みになると全国各地からファンが東京の製作スタジオを訪れ、アニメーターに「サインしてください」「セル下さい」と要求するようになった。爆発的に需要が拡大しているのに供給は細々なので、必然的に価格はあがり、プロダクションに夜間侵入してセルを盗むという事件まで発生した。
 どうしても手に入らないとなると、自力でセルを製作するものもあらわれた。当時はビデオデッキなどはないので、作品を記録するのに画面をカメラで撮影し、大きく引き延ばしてセルをのせてトレスし、色を塗ったりした。また、お気に入りのキャラクターを自分で動画用紙に描いてセルにする人もいた。当時東映の大阪のアニメショップでは、セルに原画をコピーする機械(後述)を置いて会員はそれを利用する事ができた。

セルアニメの技術革新

 何十年もの間、セルアニメのセルの製作方法は、原画を描き、原画にセルを重ねてアニメ用の絵の具をつけたペンでなぞって絵を転写、それにアニメ用絵の具で彩色するという方法で作られてきた。
 最初に技術革新を行ったのはディズニーで、鉛筆描きの原画を複写機でセルにコピーするという方法でトレスの機械化を果たした。これに東映動画は、縮小拡大ズームという技術を導入、遠ざかっていくものの作画の省力化に成功した。(空飛ぶ幽霊船に採用)この変更によりかっての味わいのあるハンドトレスの線は見られなくなったが、アニメーターの原画のニュアンスがそのまま残ることになった。このへんはファンにも賛否両論がある。その後、さらに小型のトレスマシンが登場した。原画とセル、カーボン紙を重ねてトレスマシンに通し、セルからカーボン紙を剥がすと原画が転写されているという仕組みである。ただし、この方法でトレスした線は、だんだん茶色くなって消えてしまうので、保管には要注意である。

アマチュアアニメの原始技術

 まずアマチュアが直面した問題は「トレスができない」という点である。ペンに絵の具をつけてきれいになぞるのは難しく、時間が大変かかる。結果として、ほとんど動かないセルアニメ群が出現した。また、絵の具の塗りも簡単ではなく、セルが波を打って照明が乱反射するというトラブルも続出した。また、紙と違ってセルは表面がつるつるなので鏡のようになり、「画面にカメラがうっすらと写っている」という作品も多かった。
 そんなことならペーパーにすればよいと思うのだが、「セルアニメが本物・最高・至高・究極」と思い込み、(ペーパーアニメの原画を「紙セル」と呼ぶ人までいた。)下手な原画でもセルにして撮影すれば良いアニメになるとちがいないと思い込んだ人々の懸命な努力は続いた。
 また、セルは高く、そのへんで売っているものでもない。サランラップで代用しようと試みた人もいたが、絵の具が乾いたとたん、「絵が絵の形のままぱらりと剥がれ落ちた」そうである。
 トレーシングペーパーにキャラクターを転写してアニメを製作した人もいた。トレーシングペーパーは水性のサインペンののりも良く、トレスは簡単にできたが、水分に弱いため、キャラクターの周辺がしわしわになり、また、背景も完全に透けて見える訳でもなかった。
 セルに油性のペンでトレスする事も試みられたが、マジックインキなどでは完全な黒い線は出なかった。また、手差しで事務用のコピーでコピーしようという事も試みられたが、事務用のコピーはアニメ用のセルと相性がよくなく、セルが熱でしわしわになってしまい実用にはならなかった。

デジタル化直前 苦肉の策

 現在ではデジタル化によってアマチュアでも簡単にセルアニメが作れるようになったが、その前に最後に試みられたのが、「厚紙に原画をコピー、着色して切り抜いたものをセルにスプレーのりで張り付ける」という方法である。まあ、なんとか見られるようなものが作られはした。

セルアニメの革命、デジタルペイント

 現在のTVアニメの大半と、アマチュアのセルアニメのほとんどすべては「デジタルペイント」によって製作されている。これは、パソコンに原画データを取り込んで着色、別に取り込んだ背景データと組み合わせてビデオに出力するというもので、原画と背景を描けば、高価なセルはいらない、アニメ絵の具はいらない、面倒なトレスもいらない、撮影も不要というすごいものである。アニメの撮影をしていた会社はたいていデジタル系に転向するか廃業し、「アニメの撮影」という仕事自体が激減する状態となっている。


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