<2006.11.05 K.Kotani>「ピピアめふアニメーション教室」特別講座 15


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2006年11月5日

「ピピアめふアニメーション教室」特別講座 15




アニメーションの撮影

-自主アニメーション撮影事情-

自主制作アニメーションの撮影(平面動画編)

アニメの撮影とは



 アニメの撮影とは、基本的に少しずつ形の違う絵をムービーカメラの前に置いて1枚ずつコマ撮りしてゆき、連続して再生すると動く映像のメディアにするものだった。長い間、メディアはフィルムに限られており、ビデオが登場してからも、アニメーションは一旦フィルムに撮影され、それからビデオに移しかえられるのが常識だった。ビデオでの直接コマ撮りの試みはなされたが、実用化して普及する前に、コンピュータ化の嵐の前にほぼ吹き飛ばされてしまった。
 フィルムでの撮影時に用いられた技法は、現在のコンピュータによるプロセスの中でもほぼ踏襲されている。

 オーバーラップ 前の画面が徐々に消え、次の画面が徐々にあらわれる事。フィルムでは、徐々に露出を減らしながら撮影し、真っ黒になったところでフィルムを巻き戻し、露出ゼロから徐々に露出をノーマルまで開いていって撮影する。

 フェードイン・アウト 真っ暗な画面から、普通の画面まで徐々に明るくなっていく事。または、逆に段々暗くなって真っ黒になる事。絞りやシャッター速度をを徐々に調整する事で露出を加減した。実写のビデオの時代には、フィルムではできなかった「白へのフェードアウト」が可能になり、当初は斬新な表現のため多用された。

 トラックイン・アウト カメラが徐々に被写体に近付いていったり、遠ざかったりする事。当然、近付くにつれてピントの調整が必要。

 ズームイン・アウト レンズの焦点距離を徐々に調整する事により、被写体の大きさを徐々に変化させる。トラックイン・アウトと効果が非常に似ているが、被写体との距離が変わらないため、例えば10メートルの距離から3メートルの距離に近付いた場合、元々5メートルの位置にあったものはトラックインではカメラの後ろにあるが、ズームインでは依然前にある。また、8メートルの位置にあったものはトラックインでは1メートル先で10メートル先のものに対して3倍大きく見えるが、ズームインでは両方同じ比率で大きくなる。

 パン カメラを上下左右にふる。

 二重撮影 一旦撮影したフィルムに別の画像を重ねて撮影する。夜景の中の家屋の中の撮影でブルーフィルターをかけて全体を撮影し、家の中だけを通常の露出で2重撮影するとリアルな光の表現が出来た。

 マルチプレーン カメラの前に数層に距離をおいて重ねた動画を撮影し、動画の間のピントのずれ、カメラ移動による劇的な立体感の表現を可能にした技術。もちろん巨大なクレーンのようなスケールの撮影台を必要とし、本格大型アニメスタジオの象徴としてスタジオの中心に君臨していた。現在では過去の遺物の代表として歴史の古いスタジオの博物展示スペースなどに君臨しているものと思われる。

 実写における「クレーン」(カメラを上下左右中自在に動くクレーンに載せ、被写体の周りを回りながら撮影する。金がかかるので、日本ではCM位しか多用されない)については、平面アニメでは撮影では使えないため、作画の「回り込み」と、マルチプレーンの併用によって擬似的に実現された。

 現在、コンピュータ化によって「フィルムで出来た事は全て出来る」というところまでアニメの撮影は進化しており、かってのフィルムで作られた作品とコンピュータ上で作られた作品はほぼ見分けがつかない。ただ、「コンピュータでなければ出来ない」という部分は極一部分に限定されており、(3DCGアニメと2Dアニメの融合など)手間がかかっている割に効果が上がっているとはいいがたい。その原因として技術開発をしている人がコンピュータ畑の人で、技術開発そのものの進歩に満足をえる傾向があり、制作をしている人がコンピュータに対する知識が乏しくコンピュータに何ができるかを理解し切れていないため、十分な要求を出し切れていない事があるのではないかと思われる。また、最近の分業化が進んだアニメ制作の現場の形態にも原因がありそうだ。しかし、個人制作の現場ではかってパソコン研究会などが独占していたアマチュアCGアニメの世界でも映像制作系の作家の進出が進んでCG技術のみの作品が駆逐されつつある現状を見ると、遠からずの未来に大きな革命がありそうだ。

自主制作アニメーションの撮影の歴史

 アニメーションは映像である。だから、自主制作アニメーションの撮影は、個人が使える映像メディアで作られてきた。
 1.16ミリフィルム もっとも古い個人用の映像メディアである。とはいえ、個人用としては非常に高価であるため、使えるのは極少数の人(お金持ちとか超マニア)に限定されてきた。

 2.8ミリフィルム 16ミリフィルムの1/2サイズのメディアで、フィルムの使用量が16ミリの1/4であり、安価であるため急速に普及した。両耳の16ミリフィルムをそのまま使うレギュラー8から、フィルム送り用の穴を小さくした8ミリ専用フィルムのスーパー8(コダック)、スーパー8と同じフィルムサイズで巻き戻し自由のカセットを使うシングル8が登場すると、画面サイズの拡大で画質が良くなった事もあり、ビデオの登場までアマチュアの映像制作といえばほぼ8ミリフィルムであった。二重撮影などの使い勝手からいうとシングル8だが、コダックフィルムの独特の発色を好んでスーパー8を使う人も多かった。

 3.その他のフィルム 9.5mmという企画のフィルムがかって存在し、個人制作のアニメーションに使われた事が記録に残っている。フィルムは現在博物館などで保存されている。また、紙フィルムなどもあったようで、博物館で保存されている。

 4.ビデオ アマチュア用としてもっとも古いのはUマチックビデオだが、物凄く高価なためほとんど使われた形跡がない。元来放送用の機材であり、コントローラーを装着する事によりコマ撮りも出来た。放送用としてはベータカムもあるが、さらに高価なため、一部の公共機関などで用いられた程度である。
 VHSやベータマックスなどの家庭用1/2インチのビデオデッキが発売されたが、コマ撮りのできる機種はほとんど存在しなかった。一部の人は一時停止ボタンをちょんちょんと押す事によりコマ撮りを試みたが、テスト段階に留まり、作品制作までは無理だったようである。
 8ミリビデオが発売されると、一部の機種にフィルムでの3コマ撮りに該当するコマ撮り機能が搭載され、多数の作家が利用を試みたが、結局8ミリフィルムに取ってかわるまではいたらなかった。
 8ミリはHi8に進化し、さらに現在はミニDVのカメラが主力となっているが、コマ撮りの機能は進化せず、8ミリで4フレーム単位でのコマ撮りが可能であったにもかかわらず、6コマ単位でのコマ撮りしかできないため、極めて限定された方法でしか使えない。

 5.パソコン 80年代初め頃にPC8001などの8ビットパソコンが急速に普及すると、これを使用してアニメーションを作ろうという動きが広まった。しかし当時のパソコンのアニメ制作は、1枚ずつ画面に表示した動画を8ミリフィルムで撮影したり、プリンターで打ち出した動画を撮影したりする程度で、パソコンから直接アニメーションを出力する事はできなかった。
 個人用のパソコンは16ビット化し、さらに32ビット化して、ウインドウズ95の発表されたあたりから映像の取込み出力編集機能が搭載可能な容量とパワーをもつにいたった。当初は個人用としては限界に近いワンセット200万程度した機材だが、現在ではその10分の1以下で手に入る。
 6.パソコンによるアニメ制作の推移 最初のAVパソコンは、パソコンの画面をそのままテレビに出力できるというもので、低い画質の絵を毎秒数枚の出力しかできず、あまり実用的ではなかった。
 いわゆるフルモーション・フルスクリーンで、ビデオと同等の画質でビデオと同じ毎秒30枚の再生を可能にしたのは、1枚の画像データを急速に圧縮したり解凍したりするモーションJPEGのハードウェアの登場をまたなければならない。当初に出現したTARGAシリーズなどは非常に効果であったが、一般向けのMiro DC20,30シリーズや、ブラバト1000などの十数万で購入できるボードが登場すると、一挙に普及した。
 最近では、DVDやビデオCDに用いられている「MPEG」方式の圧縮伸張カードがメインとなってきており、パソコンをビデオデッキの代わりに使用したりする事ができるようになってきた。

自主制作アニメの撮影の実際

1.フィルムによる撮影 フィルムによる撮影は、基本的に写真撮影と同じである。カメラの前に動画を置いて撮影していくのだが、一度撮影するとフィルムの上から消えないため、基本的に全部の撮影要素を完全に並べた上で撮影する必要がある。また、カメラによってファインダーに見えている画面と、フィルムに撮影される画像が微妙にずれるため、(同じ機種でも機械ごとに微妙に違う)あらかじめテスト撮影しておく必要がある。また、ビデオと違い、撮影される画像がモニターできず、現像しないと結果が分からないため、ピンぼけや露出不足で暗い・露出過多で真っ白の作品などが取り直しが間に合わず上映会に出品される事があった。ただし、フィルムは切って必要部分だけをつなぎ直す事により1コマ単位での編集が可能であり、ビデオ登場後もアニメーションのジャンルでは優位を保ち続けた。

2.ビデオデッキによるコマ撮り撮影 ビデオカメラをデッキの入力端子につないで、ビデオカメラから送られてくる画像をデッキでコマ撮りする。基本的にはビデオデッキはコマ撮り機能を持たないため、一時停止ボタンをちょんちょんと押してコマ撮りしていくのだが、不安定きわまりない。

3.ビデオムービーカメラによるコマ撮り 一部のビデオムービーカメラは4コマもしくは6コマ単位でのコマ撮りが可能なため、その機能を利用して撮影する。気をつけないといけないのは、ムービーカメラの本体のスイッチを押してコマ撮りするとカメラが動いてしまうため、必ずリモコンを使用する事である。
 ビデオカメラによるコマ撮りでもっとも注意しないといけないのは、後での編集が非常に難しい事である。例えば動画の順番を間違えて撮影した場合、フィルムではその一こまを切り取る事は可能だが、ビデオでの編集は非常に難しい。(最近のパソコンによるノンリニア編集では容易になった。)
 また、8ミリフィルムカメラでは、撮影時に二重露出やFOFI/オーバーラップなどの操作が可能だが、ビデオカメラによるコマ撮りでは基本的にできない。
 なお、VHSデッキには2倍速再生という機能を搭載したものがあり、ビデオカメラでコマ撮りした映像をVHSにダビングして2倍速再生すると2-3コマでのコマ撮りと同じ滑らかな動きが得られるが、ダビングをくり返すため画質の劣化が激しく実用的ではない。

4.パソコンによる直接コマ撮り 画像入出力のできるパソコンとビデオカメラを繋ぐと、パソコン本体でコマ撮りが可能である。ピピアめふアニメ教室で使用している機種ソフトでは、毎秒30/24/15/12/10/8コマでの撮影が可能である。(撮影中のコマ数の変更はできない。)

5.パソコンによる間接コマ撮り パソコンに取り込んだ画像データをアニメスタジオ2などのアニメーション作成ソフトを使って動画データに変換する。このさいに背景・動画・前景などの組み合わせと動きの指定・カメラワークの指定ができる。また、取り込んだ後に画像データの加工ができる上、取込みに際してカメラでなくスキャナーで取り込む事もできる。この方法によってアマチュアでもプロ並みのカメラワーク(前後セル間のピント移動、マルチプレーンなど)が簡単にできるようになり、個人制作のセルアニメが量産されるようになった。一方、カメラやスキャナによる取込みはもはや撮影ではなくなり、素材から映像をつくり出すプロセスの一部となった。


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