<2007.07.17 K.Kotani>「ピピアめふアニメーション教室」特別講座 27


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2007年07月17日

「ピピアめふアニメーション教室」特別講座 27





 動きの秘密 6「オリジナルな動きを作る」

  アニメーションによる「らしい動き」の追求

 アニメーション映画が始まって以来、「本物らしい」「説得力のある」動きを作り出す事がずっと追求されてきた。ディズニースタジオに代表されるように、「実際の動物の動きなどを観察してスケッチする」「実際の動きを映画に撮り、その一こま一こまをトレスして写し取り、コマ撮りしてキャラクターの動きに置き換える。」などの方法で、リアルな動きが追求された。
 また、極端に誇張された動きが特にギャグアニメで多様された。大きな金槌でたたきつぶすとキャラクターがぺしゃんこになる、つかんで引っ張るとびよーんと体が伸びる、大声で叫ぶ時に口が体より大きくなる、大きな声で叫ばれると強風にあおられたようになる・・・・これらのケースでも、基本の動きはリアル系であり、リアルな動きをベースとして誇張する事によって大げさな動きとして表現された。

 動かないアニメーション

 動かないアニメーションとしてはリミテッド・アニメーションが上げられる。ディズニー系のとにかく画面が続く限り細かくなめらかに動き続けるフル・アニメーションに対して、とにかく必要最小限の部分しか動かさない。UPAの「近眼のマグー」「ジェラルド・マクボイン・ボイン」のシリーズなどで、止め、口パク(体はそのままで口の部分だけを置き換えてしゃべっているように見せる。)繰り返し(循環した動きの動画を繰り返し使用する。)引っぱり(止めのセルを少しずつずらしてコマ撮りして動いているように見せる)などの方法が用いられた。後に制作期間・費用に制限のあるTVアニメーションに使用された。
 初期のアメリカのTVアニメは本当に単純で、キャラクターのしゃべるシーン、走る繰り返しのシーン、止めのシーン、引っぱりのシーンがやたらと多く、画面にも変化がなかった。
 日本ではTVシリーズ「鉄腕アトム」がこのリミテッドアニメーションを大々的に採用したが、当時は東映動画の長編フルアニメーションの全盛期であり、東映のアニメーターが「鉄腕アトム」を「こんなものアニメーションではない」などど酷評したという。しかし、TVの番組欄などの評価は意外と高く、「手塚は日本の伝統的舞台表現の静止したポーズによる表現を多用して効果的な表現をした」などの記述が残っている。

 その後、日本のTVシリーズは世界アニメーション界の中でも独自の発展をとげ、動画枚数は最初の3-5000枚/30分から、現在は1500-2500枚程度の枚数となったのにもかかわらず、各種のオリジナルな表現方法を次々に開発して十分鑑賞にたえられる作品を生み出す事が出来るようになった。(多人数で大量の作業を行うという常識も近年は破られつつあり、新海誠氏の「ほしのこえ」や、蛙男商会の「フロッグマンショー」など一人で作った商業アニメーションも最近は製作されるようになった。)

 動かないアニメーションに関する極論として、日本アニメーション学会大会における押井守氏の講演が上げられる。「アニメーションは動かす必要なぞなにもない。」「「止め」の映像を観客に呈示して観客に記憶付けさせていく事だけで表現は出来る。」とぶち上げた。大会関係者は狼狽したが、確かにそれで表現が出来る事は間違いない。それが「アニメーション」と言えるかどうかは別だが。

 オリジナルな動きの創造

 オリジナルな動きを持つアニメーター達

 大塚康生 「大塚アクション」の異名をとる動きの達人。ディズニー的な動きとは違うメリハリの効いたアクション。

 板野一郎「板野サーカス」の異名、カメラが空中移動しながら空中を乱舞するミサイルをアニメート。無数の模倣者がプロ・アマを問わず出現。ロケット花火を打ちながらバイクを走らせたり、動きのイメージを「体感」して獲得、表現につなげた。

 ユーリ・ノルシュテイン 世界的アニメ作家、映像の詩人。ここ数年は毎年日本に来日していたが、日本の若手作家の作品をNHK BSで酷評。「動きに実際の経験から抽出したオリジナリティがない」と指摘。

 アニメーションの原理と動きの魅力

 アニメーションの原理はコマ撮りであって、少しずつ動かせばゆっくり動き、大きく動かせば早く動く。この原理を理解すれば誰にでも出来る事で、少しも難しいものではなく、四歳児でも理解出来る事は、「ピピアめふ子どもアニメ教室」で立証されている。



 また、「動かないものが動く」という事が大変面白い事である事は子どもアニメ教室の子ども達の反応を見ても明らかであるし、大変手間がかかる作業であるにもかかわらず、多くの人がハマってしまっている状況からも推察できる。

 アニメーションの「罠」

 この、「動くだけで面白い」という事がアニメーションの魅力でもあるし罠でもある。最近の若いアニメーション作家に大体共通して言える点として、平面、あるいは立体の表現は経験を積んでおり高いレベルにあるが、「動き」のコントロール、時間軸を使っての映画的表現については初心者レベルにとどまっている。しかし見れる作品に仕上がっているのは個々の画面のレベルの高さと、動く面白さに支えられているためだと思われる。
 この点をノルシュテインが酷評している。

オリジナルな動き

 自分の「体験」から抽出したオリジナルな動きを作り出すためには、コマ撮りの経験を積み重ねる事により、「動き」の感覚を身につける事が必要だ。野球でいえばキャッチボールに該当するが、どの程度動かせばどんな動きになるか、という事が分からなければ動きを作る事はできない。ただし、これはそれほど難しくはない。

 もっと大事なのは、自分の目で見た動きを抽象化してイメージできる事である。実際のものの動きは無数の動きから成り立っており、その中で表現に必要なものを取り出して動画化しなければならない。


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