<2000.08.17 K.Kotani>真空管のページにようこそ

鉄腕アトムの真空管


 1950年代のマンガ「鉄腕アトム」では、未来の時代の事として、人型ロボットが開発され、一般の人間に混ざって生活している。鉄腕アトムは50年代から手塚治虫の死の直前まで延々と書き続けられ、また、3回テレビ放送されている。一番有名なのは最初のアニメーションシリーズで、国産初のテレビアニメとして大ヒットし、一般的に「鉄腕アトム」といえば、このテレビアニメを指す事が多い。
 マンガの鉄腕アトムはジャングル大帝やリボンの騎士のような長編でなく短編連作として書き続けられたため、一貫したストーリーというものはなく各話の間の時間的前後関係も不明確である。  しかし最初のテレビシリーズ放送後に書かれたものについては、テレビシリーズの最終話(アトムが太陽に突っ込んで死ぬ)を意識して書かれたものがある。こういうふうに長い期間にわたって書かれ続けたシリーズなので、遠い未来の事とされてきた事がいつのまにか現在になっていたりする。1978年には、ロボット用電子頭脳「電子脳」が開発される事になっているが、22年たってもその気配はない。
 また、50年当時の生活環境がそのまま残っている(武蔵野がそのまま残っていたり、ヒゲオヤジが長屋に住んでいたり、フラフープがはやったり)一方、未来都市の高層ビルの間をエアカーが走っていたりする。

ところで、テレビシリーズで、お茶の水博士がこわれたアトムを調べて「こりゃいかん、真空管が切れておる!」と叫ぶシーンがある。真空管というのはトランジスタ開発前に電子回路に使われていたもので、電源をいれるとじわじわと赤くコイルが光って動くようになる。電線に電気を通して加熱して電子を飛ばして動作させるため、電球と同じで寿命がくると切れるし、動作中に衝撃を受けると加熱して柔らかくなったフィラメントが切れたりする。また、側がガラス製なので当然衝撃には弱い。

とって替わったトランジスタは電源オンですぐに動作するし切れる事はないしコンパクトだし(真空管は大小はあるが、まず細長い透明な電球と思えば良い。トランジスタはトーモロコシ一粒くらい。)消費電力はすくないしあっというまに真空管利用の機器を市場から駆逐した。「ソリッド・ステート」という(安定して動作するという意味か)表示が初期のトランジスタ採用のテレビに誇らしげに表示されていたのが懐かしい。
そのトランジスタも本体はアルミ製の小さな缶に封入されている砂粒のような物で、すぐにそのトランジスタ本体を複数組み合わせて直接配線した集積回路(ICといった)が作られるとトランジスタ本体を直に使った機器は一部をのぞいてあっという間に駆逐されてしまった。いまでもそうだが黒い長方形の本体に左右対称に足のような端子がずらりとならんでいる姿はまさにゲジゲジである。
ICは集積度が進むとLSI、GSIと名称が変わり、パーソナルコンピュータのCPUになると、何千万個というトランジスターが入っているそうである。
さて、鉄腕アトムが初めて描かれた頃には当然LSIはもとよりトランジスタもなかったから、精密電子機器である人型ロボットには当然真空管が使われると考えたのは自然な所だろうか。
最初の電子計算機「エニアック」は当然真空管を利用していた。しかし、数千本も真空管があると当然どれかが切れたりするし、一ヶ所でも切れると動作しなくなるので、一定期間毎に全部を交換していたし、また、サイズ自体も小さなビルくらいあり、こんなものが鉄腕アトムの電子頭脳に使えるはずもなく、性能的にも今の電卓にも及ばない。手塚治虫もその程度の科学知識は当然あったはずで、アトムの胸の中にあるハート型の電子頭脳(「電子脳」、とよばれる物で、電子計算機とは別のもののようである。)の中にずらりと真空管を並べさせていたとは考えづらい。また、それを外から見て「こりゃいかん、真空管が切れておる!」と判定できるとは思えない。
さて、現代でも真空管は少数ではあるが使用されている。ノイズが少ないという点から、高級オーディオアンプに採用されていたり、また、現代科学技術の塊であるパーソナルコンピュータでも、たいていのデスクトップモデルには一本だけ使用されている。CRTである。液晶モニタにとって替わられつつあるが、表示速度の速さ、色調の再現性等の性能ではまだCRTにはおよばない。
アトムは「世界最高のロボット、芸術作品」とされている。なるほどアトム以後に開発された同クラス(10万馬力級)の戦闘ロボットに比べて非常にコンパクトに作られており、天馬博士の子供の代わりに作られただけあって精密に出来ている。暑ければ汗をかくし、悲しければ涙を流す。

また、戦闘用ロボットとしてはまことに困ったことにも首を絞められると苦しむのである。

また、人間を見ただけで、善人か悪人か判定するという機能まである。
この高性能を実現するために、戦闘時に衝撃を受けて破損する可能性を甘受してまで、一部の回路に真空管を使用したというのが真相ではないだろうか。真空管は切れやすいため、交換しやすい場所に配置されるだろうから、胸の蓋を開けただけで「こりゃいかん、真空管が切れておる!」とわかるし、また、マンガシリーズ「火星探検」の巻では、こわれた場合の簡易修復方法が胸の蓋の中に記述されているという描写がある。真空管破損はアトムのもっとも多い故障であり、まわりの関係者もよく知っていたと思われる。
(テレビシリーズ「ばかでかいロボット」では、「この程度の故障なら俺でも直せるんだ」といってヒゲオヤジがアトムを修理するシーンがある。切れた真空管を、内蔵の予備の真空管に差し替えるだけな らそれはヒゲオヤジでも直るだろう。
鉄腕アトムに真空管が使われていたというのは笑い話ではないのではないか。

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