「帰ってきた りんりのくたんぶる」

昨夜散歩に出かけたときに、
俺は確かに見かけたのだ。
電線の上めざして
電柱をのぼるあいつを
ずるずる ずるずる のぼって行って
電線にゆれるあいつを。
どうせ言葉は通じない
あの孤独な夢遊病者に
呼んでみたって答えやしない
だけどあいつは りんりのくたんぶるさ
犬や、猫や、イタチじゃない
ましてや「うどん」や「そば」じゃない
電線にゆれるあいつのことは
カエルどもが言っていた
りんりのくたんぶる。

俺はあわててあたりを歩き
見かける限りのニワトリを
絞め殺してまわったんだ。
あわせて二十と六、七羽
あいつはまだのんびりと
月を見上げているころさ
いつもの仏頂面をして
朝日が昇れば消えちまうけど
それでもやつは帰ってきた

あいつの名前を覚えておくんだ
孤独の夢遊病者のな。
カエルどもが教えてくれた
「りんりのくたんぶる」

目次へ