安曇異聞

「あれは良いダイザイだね」
 小説家の戒田氏はそう言って笑った。
「あくまでダイザイ…ですか。ヤマノカミそのものの正体には興味が無い…と?」
 私の問いで、戒田氏は難しい顔になった。
「いや…ソレがイチバンの難問でねぇ…」
 戒田氏は言葉を切り、身体を回して資料用と思われるファイルを手に取ると、パラパラとめくり始めた。
「私が調べたどんな伝承にも…"ヤマノカミそのもの"が描写されていないんだ…」
「はぁ…」
「例えばコレだ…"月食の夜はよく吹雪く。絶対に外に出てはならん、吹雪と共に穂村山から下りてきたヤマノカミに喰われるぞ。"」
「あぁ、なるほど…確かにこれでは、結果しか解らないですね」
 戒田氏は肯いて続けた。
「他の伝承や記述も…"ヤマノカミに…"とか、"山神の元…"とか、意図的に正体をぼかしている節すらあるんだ…」
「あるいは…伝承を残した者にとっても、"ヤマノカミ"は謎の存在だったのかも…」
「うん、もちろんその可能性も在るだろうね…"穂村山に棲む、人の理解を超えたモノ"を総てひっくるめて…"ヤマノカミ"と称したのかもしれない」
 戒田氏は肩をすくめた。
「その辺りの判断は素人じゃ頼りないからね、その道のプロにも相談したんだが…一蹴されてしまったし…」
「いえ、そうでもありませんよ」
「ん?」
「公式には、ああ答えざるを得なかっただけで…教授個人としては戒田先生のレポートに、随分興味を持たれていたようですよ?」
「そうなのかい?」
「ええ、ですから私が来たんです」
 私はそう言って笑った。

――数日前――

「あ〜…由美子君、ちょっとコレを読んでみてくれないか?」
「はい?また何か企んでるんですか?教授…」
「なんだよ、人聞きが悪いな…」
「だって、そんなに楽しそうな顔見るの、久しぶりですよ?」
「ふん、まぁ…とにかく読んでみたまえ、コレは僕よりも…君向きだろう」
 私は教授が差し出しているレポートを受け取ると、目を通し始めた。
「ヤマノカミ…」


解説など


うい、いつも通りの…クロスワールド物っす。
伝承・民俗といえば…由美子さんってコトで、御登場願いました。
…。
青空は…多分にSF的な要素を持っています。
高度に知的な「墓守」…ソレを配置した「我等」…彼等とエルクゥの意外な関係…
そして穂村山地下構造物の本当の姿は…
う〜ん…妄想は尽きないんですけどねぇ…(笑)

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