踏鞴の主

 私が踏鞴の里に着きました時、頼人様は川を見ておいででした。
 真新しい堤に腰を降ろされて…光の無い瞳を水面に向けておられました。
「頼人…様?」
「ん…」
 気の抜けた返事と共に顔を上げた頼人様は…別人のようにやつれておりました。
「おぅ、三郎か…どうした、こんな所で…」
「"どうした"はこちらの台詞でござまいすよ、頼人様。
 どうなさったのです?もう、夏もすぐそこだと申しますに…」
「そうか…もう、そんなに時が経ったか…」
「…」
 魂が抜けてしまわれたかのような頼人様のお姿を見るに耐えず、私は堤に目をやりました。
 この雨季の直前に完成したのでしょう、堤は固めた土も新しく、雑草もまばらで、しっかりした造りが良く解りました。
「それにしても立派な堤でございますな…かような山奥で援助も無く、よくぞここまで…」
「立派だと!こんな…こんな…」
 私としては、他意はございませんでした。
 見たままを申し上げたのですが、頼人様は突如、烈火の如く激高されました。
「…」
 返す言葉もなく立ちすくんでいると…お怒りはいつしか、別のものに変わっていました。
「援助も無く…か、そうだな…十年前にこの堤があれば…狭霧の両親も…狭霧も…
 そうか…我々、久世の責でもあるわけか…」
「は?」
「いや、詮なきことだ…」

 その時、堤の下から呼びかけてくる者がありました。
「おぅアンタ、その他所モンの知り合いかい?とっととソイツ、連れて帰ってくれや…出来たばかりの堤から人柱は抜いちまうし…ロクなことしやがらねぇ…」
 声の先では、通りすがりの農民と思しき男が、訝げな視線を私に向けておりました。
「ぶ、無礼者っ!この御方をどなたと…」
「よせ、三郎…」
「いえ、久世の次期当主ともあろう御方が、領民にソイツ呼ばわり等…許されることではありませぬ!」
 私は思わず、大きな声で一喝してしまいました。
 頼人様が身分を隠されていることを、すっかり忘れていたのでございます。
「ひえっ!?」
「なに?どういうことだ?父上は…俺の留守中には決めぬと申されていたが…」
 あわてて平伏する男と、頼人様の険しい声で、私は我にかえりました。
「はい…半月ほど前、一輔殿から書状が届きまして、一読されました大殿は、私に頼人様を迎えに行く様、お命じになりました。
 文の詳しい内容は存じませぬが…私が出発する直前、兄上様たちの乗られた牛車が突然…」
 そこまで口にしたところで、頼人様が私の言葉を遮りました。
「…そうか、わかった。そういうことか父上…そこまでして…」

 頼人様はしばらく黙考しておられましたが、やがて平伏したままの男に声を掛けました。
「狭霧の望みは…"里の者が幸せに暮らせますように"…だった…
 細工されたくじで…無理矢理押し付けられた役目と知ってなお、そう願っていた…
 そんな彼女に、貴様達は…」
「お、恐れながら…何の役にも立たぬあのような小娘に…」
「!」
 頼人様が息を呑む音に続いて、この世のものとも思えぬ大音声が響き渡りました。
「だまれぇっ!」
「ひぃっ!」
 私は…頼人様のあのように恐ろしい形相を見るのは初めてでした。
 いつも…どこかに余裕を残していた頼人様からは想像もつかぬ…深い哀しみと…激しい怒りと…どうしようもない絶望と…大きな自責の念が…ない混ぜになったお顔でした。

「行くぞ、三郎…家は大騒ぎなのであろう?」
 しばらくして私にそう告げて歩き出した頼人様は…もういつもの平静を取り戻しておいでのようでした。
「…」
「は?何かおっしゃいましたか?」
「いや、何でもない…」
 私の聞き違えでなければ…頼人様はこうつぶやいておられました。

「狭霧…俺は…どうすれば良い?」

 その後、踏鞴の里は…


解説など


どうなるんでしょう?(オ
狭霧の願いどおり…"里の者が幸せに暮らせる"ように尽力するのか…
己の恨みを、"久世の家"と"彼等"にぶつけるのか…
どうすべきなのか、僕にも良く解りません。

狭霧の願いが叶うのであれば…頼人との出逢いが…銀糸の力だったということか…

しかし…「踏鞴の社」はヤバかったっす。
まんま、マルチシナリオですからねぇ…(しかも、帰ってこない)
主人公側から見ると、心がHM-12には反映されないことや、彼女の存在そのものが長瀬の悪意の結果だと、事前に知ってしまうようなモノで…
さらに、彼女自身がソレを知っていて、あえて受け入れてることも知ってしまう…
う…わぁ…(涙)


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