鬼人伝承
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 …と、羽目を外そうとしたときだった。
「あれ?もしかして…耕一?」
 いきなり、後ろからそんな声で呼び止められ、俺は振り返った。
 そこには俺と同じくらいの背格好の男が立っていて、振り返った俺の顔を見て、納得したような顔をした。
「やっぱり耕一だったか…」
「あれっ、君は…」
 その男の顔には、確かに見覚えがあった。
 俺は社交的な笑顔を返すと、
「えっと…誰でしたっけ?」
 頭の後ろに手を当てて訊いた。
「おいおい、俺を忘れたとは言わせねーぞ」
 男は、しょーがねーな…という顔で、ニヤッと笑った。
「ゼミで一緒じゃねーか」
「……解ってるって、ボケに素で返すなよ…」
 俺は苦笑した。
 彼の名前は御神苗優(おみなえゆう)。
 同じ大学に通っている同期生で、この俺とは、同じ教授のゼミを受講している、 いわゆるクラスメイトのような関係だ。
 何度となく一緒に遅刻したことがあるし、補講を一緒に受けたこともある。
 俺とは同い歳で、もう一人「佐々松小十郎(ささまつこじゅうろう)」…ってヤツと3人で良くつるんでいるんだが、「バイト」とやらでよく長期間行方不明になってる…
 その優が、いったいどうしてこんなところにいるんだろう。
「…ったく、そうやって借りを踏み倒そうったって、そーはいかねーぞ?」
「違う、違う。だって、普通、こんなところに大学の同期生がいるなんて、思いもよらないだろ?」
「どーだか…ちゃんと返せよ、この前のメシ代…」
「わ、わかってるって……って、幾らだっけ?」
 正直、お互い「借り」が多すぎて、どっちがどっちに貸しているのかなど、まるで覚えていない。
「ま、まぁ…今度メシおごってくれればいいぜ」
 優はしてやったり…という顔で悪戯っぽく笑った。

「ところで優…。どうしてお前が、こんなところに?」
 俺が訊ねると、優はため息をついて、疲れた…という顔をした。
「俺が…、こんな観光地に来る理由なんてひとつしかねーだろ?」
「ということは、やっぱり…バイト?」
「ああ、まぁ…今日はまだ本格的には始まらねーみたいなんだが…」
「え?本格的には?」
「あ、いや、なんでもねー……うん、今日はまだ始まってない」
 優は何故か、妙に狼狽して言い直した。
「そうそう、バイトといえば…いつも疑問だったんだけどさ…」
「あ、耕一、メシまだだろ?おごってやるからなんか食おーぜ」
 急に俺の言葉を遮って、優が言った。
「……」
「そっちは、なんか用でもあんの?」
「あっ、いやっ、ああ、いいぜ。丁度、腹減ってたし」
「なんか嫌そーだな…」
 優は冗談っぽく苦笑した。
「そんなことないって、是非お供します」

 そんなこんなで、俺と優は、目の前にある喫茶店に入ることになった。


解説など

御存じ(?)「スプリガン」と「痕」のクロスワールドSSです。
「ヨークって…”遺跡”だよなぁ…」という、単純な連想から発展したお話ですね。

若き日の柏木耕平とティア・フラットの出会い。
50年の沈黙を破って動き出す”遺跡”
「封印」と「奪取」という、相反する目的を持つ2つの勢力。 双方に牙を向く”遺跡”
遺跡の呼び寄せた天よりの厄災

妄想は尽きないんですけどねぇ…(笑)

予告

「なぁ、ティア…」
「なぁに?耕平…」
「俺…戦争が終わったら故郷に帰って…旅館でもやろうかと思ってるんだ…」
「あら、素敵じゃない?」
「で、ものは相談なんだが…」

「アレは…50年前に発掘が打ち切られた…って聞いたぜ?」
「どうも…遺跡の動力系統に異常が有ったみたいね、ここ2〜3日、閉鎖空間の綻びが観測されているの」
「ふん…いよいよ寿命なんじゃねーのか?」
「ええ、そうかもしれないわね」
「それに…奴等のオリハルコンチップ搭載型の探査衛星は、思考波を探知できるからな…どっちみち、隆山が次の舞台ってわけか」

「その娘を離しな」
「グルル…」
「ほぅ、日本にもライカンスロープがいたとはねぇ…」

「じいさんが…日本人初の…?」
「ええ、まだ脆弱だった当時の私たちには、彼の力が必要だったの」
 彼女は少しうつむいて続けた。
「それに…彼を戦争に行かせるわけにはいかなかったから…」

「これは…?」
「ああ、50年前の発掘品ですね…確か…当時の鶴来屋会長に寄贈されたはずですが…」

 信じられない…「人」が…素手で…
「…"天地万物、気を以て成らざるもの無かりけり"…ですよ」
 俺はよほど驚いた顔をしていたのだろう、男はそう言って、ふっ…と笑った。
「人という種は…自分で思っているほど低スペックではないのです」

「喰らえっ!」
 そう叫んで優は、光る掌を怨霊に叩きつけた。
「グオオオオオォォォ………」

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