5月4日(月)雨 夜9時くらいからパラパラと雨粒の当たる音がテントに響き、あ〜あ…と思う。しかし 起きる頃には止んだようで静かになっていた。 外に出るとさらさらと雨は降っているようだが停滞するような降りではない。テント場 からすぐ上の岩を上がって行くが、岩が雨で濡れていて傾斜もあるので、一度戻って ロープを出す。 岩を上がってガレ場に下りてコルへと登りかえす。恐らく、テントを張った所はP2の 下で、登り切ったところがP3とのコルと思われた。 コルから2ピッチロープを出してP3のピークに抜ける。そこから歩いて下り、次のP4 も2ピッチロープを出して登る。そしてピークから懸垂を3回して悪いザレ場を下りコル に下りる。このコルからは、ロープを出したものの、プロテクションなど取れないボロ ボロの岩を怖い怖いとギャーギャー言いながら登り、P5を目指して進む。 P5でも2ピッチロープを出して登り、懸垂の残置支点から湯俣側のルンゼに懸垂下 降する。足場の崩れるルンゼを25m+α下って雪の斜面に下り、トラバースしてコル に向けて登り返す。先行は男女2人組だが、彼らはピークからこのコルまで岩通しに 来たらしい足跡が残っていた。 P5まで数えてきたが、このコルから先は「千丈沢側に5m程下ってルンゼを直上する」 ようになっており、これはP8の登りのようだ。ここまでの岩もそうだったが、ルンゼの 岩は不安定で、動かない岩を頼り、動く岩はだましだましバランスを取る程度に押さえ 慎重に登る。残置支点はほとんどなく、カムを使える箇所も限定的だった。 ルンゼの取付きから3ピッチロープを出してやや開けた所に出るが、その先が不明 瞭。雪の残るところに付いた先行者のトレースを追って岩を登ったらハングした岩に 突き当たってしまい恐る恐るクライムダウン。雨が降っていて風もあって寒く、時間 も15時を回りビバークの話も出るが、もう少し粘ってみると、千丈沢側に回り込んだ 所にルンゼがあり、その上にあるピークがP8と確信する。これから天候がさらに崩 れると予想されるので、やはり安定した場所にテントを張りたい。もう少し頑張ること で合意してルンゼを登る。 ロープの流れの関係からピッチを切り、2ピッチでP8のピークに抜ける。眼下に広々 とした中山沢のコルが見えた。あとは懸垂してあそこに下れば本日は行動終了だ。 目の前の岩に真新しいスリングが残置されている。先行している男女2人組のもの かも。自分たちもそのまま使わせてもらい、25m懸垂する。で、ロープを回収しようと 引っ張ったところ…ロープがこない…まじ??? 取り敢えず、荷物を下ろし、ルベルソを使って自己確保しながら登り返す。ロープを 確認して下りて引っ張ってみる。…こない。もう一度登り返して今度はカラビナを付け てみる。…こない。待っている松野さんが寒そうなので、先にコルまで下りてテントを 張ってもらうよう頼み、三度登り返す。結局、この支点の場所がだめなのだろうと思い、 少し下の残置支点までずりずりと下り、腐った残置スリングの束の隙間に先ほどの 新しいスリングを通して支点を作る。 この間、ずっと独り言というか、声を出して動作を確認しながら作業していた。こんな 時間まで行動していて絶対事故は起こせない。状況的には最悪だけど、体力的には まだ余裕があり、割と平常心だった。(最悪な状況に慣れているわけではない) 支点を付け替えて懸垂をしたら無事にロープも回収できた。もう靴は沢靴状態だし、 ロープ回収時には雨具の袖口から水が入ってくるし、不快。水を吸ったロープをザック に付けて背負うとズシッと重かった。コルまでの下りも気の抜けない足場の悪さで コルに下りた時にはテントが張られていて有難かった。 ガスに余裕があったので、テントに入ってからは惜しまず暖を取った。夜は風雨が強く なったがテントの中は平和だった。寒かったけど。 (タイム) 4:48 テント場〜8:17 P4〜12:44 P8のコル〜15:30 P8ルンゼ〜18:44 テント場 5月5日(火)晴れ 丸一日かけてしまったが、ともかく赤岳前衛峰の核心部を抜け、下山の見通しが 立ったことと、前日の行動時間が長かったことから起床を5時としていたが寒くて寝 ていられず4時に起きて火をつける。濡れたテントの中は霜ができていて冷え込ん だことが分かる。起床予定の5時まで、昨夜脱ぎ捨てたままの靴下を絞ったり、靴を 少しでも乾かそうと火にかざしたり、うとうとしたりして過ごす。 昨日びしょ濡れのまま外に置いておいたロープはカッチリ凍っていてパッキングに 困った。日がだいぶ高くなってからの行動開始となったが、かなり寒さにやられて いたので太陽が有難かった。これから第二の核心となるわけだが、まぁ昨日ほどの ことはないだろうとタカをくくって1峰の取付きに向かう。 1ピッチ目の出だしは、もういい加減慣れた感も出てきたプロテクションの取れない ボロボロの岩の凹角。押さえつけ気味に恐る恐る登る。2ピッチ目は足元の悪いフェ ース、3ピッチ目は比較的安定した岩場で、4ピッチ目フォローで登って行くと松野さ んが岩屑のリッジをまたぐようにビレイしていた。そこからぼろぼろの岩をクライムダ ウンして雪上に下りて休憩。 1段上がったところから3ピッチで1峰のピークに抜けた。スタートが遅かったとはいえ まさか半日仕事になるとは予想外だった。 1峰から下ると雪上に下り、先行者の足跡が雪の上を点々と続いていた。松野さんが 斜面のトラバースに備えてアイゼンを着けている。そういえば、昨日今日とアイゼンを 着けていない…春山なのに…山行目的である「積雪期登山の総合力を高める」の 達成あやうし。(先行者の足跡を追ってる時点で既にだめかも…) その先、先行者の足跡は雪と岩を縫うように進み、その先に白樺台地らしきものも 見えてきた。これでやっとボロい岩や藪から解放される…と安堵しながら進んで行く。 しかし雪面のトラバースで行き詰まり、藪に突入して尾根に上がる。そこから反対側に 下りて藪漕ぎしていくと岩屑の斜面に突き当たり尾根に上がるとまたまた岩屑のナイフ リッジ。 リッジの反対側も岩屑斜面で、トラバースを試みるも傾斜が強すぎて断念。ロープを 出して斜めに懸垂しながら藪のあるところまで下りて登り返す。 ここからもう尾根上をひと登りで白樺台地だと思ったところ、先行者のトレースは尾根を 避けて雪面を大きく巻いていた。げーっと思いながら後に続く。 やっとのことでたどり着いた白樺台地はわりと吹きっさらしで、ダケカンバや這い松に 囲まれたところにいい場所があり、槍ヶ岳と対面するようにテントを張った。 (タイム) 7:56 テント場〜8:25 1峰取付〜12:55 1峰〜14:48 3峰〜17:33 テント場 5月6日(水)晴れ 予備日に突入してしまった。 昨日のうちに西鎌尾根に抜けられると思っていたけどこの展開。甘い見込みが覆される のはいつものことだが、この尾根では特に手厳しいような気がする…。一方で槍ヶ岳を 越えたい思いはまだあり、2時半起床。テントの隅に置いていた靴の外側が凍っていた。 テント場からアイゼンを着けて締まった雪面を登って行く。傾斜の強い斜面を登って 行くとやがて藪に突き当たる。ここへ来て…と思うが前も横も藪の濃さは変わらず、 取り敢えず上を目指す。途中から横に逃げて巻いて行くが、まず松野さんが持っていた 枝が折れて落ち、そのまま雪面に下る。自分もトラバースしながら上の雪面を目指すが、 やはり枝が折れて落ち、松野さんに助けられながら雪面に下りる。 その先2回、藪に突き当たるも、突入はせずに下部の比較的藪の薄いところを大きく巻 いて雪面を登る。かなり急傾斜で雪も締まっていて疲れたが、姿を現した雷鳥に癒され る。オコジョも現れたが、シャッターチャンスを逃してしまった(すごい残念)。 で、何とか西鎌尾根に合流。ここから見る槍ヶ岳はやっぱり格好いい。ここまできてやっ と携帯が通じ、朝早くて申し訳なかったけれど、ずっと気にかかっていたため、3日前の 事故者の緊急連絡先に電話して無事に病院に搬送されたことを確認する。あと、会の 残留当番の方へも一報入れておく。 ここから千丈沢乗越まではほぼ夏道で、一旦アイゼンを外す。千丈沢乗越までの間に 槍ヶ岳は無理という現実を受け入れ、想いは残ったが飛騨沢へと下る。 アイゼンを再び着けて吸い込まれそうな飛騨沢の斜面を自由に下り槍平を目指す。 スキーを担いで登高している人がいる。飛騨沢は、かなり下の方まで日差しを避ける 場所がなく暑さで消耗した。 槍平小屋から下は、正月のイメージで八ヶ岳なみのばっちりなトレースを想像していたが そんなものはなく、滝谷小屋から白出沢出合までの間はルートが沢沿いから尾根の方へ 上がる辺りでロスト。トレースもテープもほとんどなく、時間に余裕がなかったり暗くなったり した場合には厳しいと思った。 濡れた靴で足先がふやけて痛くて、泣きそうになりながら何とか新穂高に下山、タクシー を待つ間に靴下を替え、新島々駅まで18,000円ほど(安房トンネル代含む)。松本電鉄 とJRを乗り継いで大町まで。そこからタクシーで七倉まで6,300円。 七倉に22時では温泉は望めず、お互い翌日は仕事だし、交替でひたすら運転して帰宅 したのが午前3時過ぎ。なかなか大変な春山でした。 (タイム) 5:04 テント場〜7:00 西鎌尾根〜9:52 千丈沢乗越〜11:50 槍平〜14:41 白出沢出合〜 17:00 新穂高 *大町駅で利用したアルプス第一交通の運転手さんによると、このタクシー会社では 大町の会社の駐車場に車を置かせてくれるそうです。そうすれば下山後に七倉まで 行く時間は省略できたかな〜 |