笠 谷










10月5日(土) 晴れ

新田次郎の『槍ヶ岳開山』の中で幡隆上人が笠谷から笠ヶ岳に登っていた。何
年か前の山岳雑誌で服部文祥氏が往時の登山ルートを探索していた。そんなと
ころから笠谷への興味があり山行を計画した。

金曜日までぐずついた天気だったが、下界の観測点での降水量はそれ程でもな
く、取り敢えず出かけた。それより、途中のパーキングでのあまりの寒さに、
保温性のアンダーを持ってこなかったことを後悔する。毎度のことだが、浜松
の気温で判断してしまう。もう10月、秋山なのに、やばいかも…

笠谷はナビにも出てきたので、林道にはすぐ入れた。最初、国道沿いの入り口
付近に停めたが、やはり心配なので未舗装の林道を数百メートル入ったところ
の路肩スペースに移動する。思ったほどには寒くなく、安堵する。

歩き出し、小雨がぱらついていたが、すぐに止む。30分くらい歩くと林道が
ヤブ化してきて草が濡れているため雨具のズボンを着ける。複数のネットの記
録で林道は3時間でこなしている。しかしかなり激しく荒れている林道で、自
分のペースでは4時間かかった。(坂野氏だけだったら3時間で行っただろう)
登山体系には4時間と書いてあるから、まぁ標準ということで…(^^;

遡行開始から30分くらいで大きな滝に出る。水量が多く、すごい迫力。右の
斜面を巻いて登る。結構登って沢から離れてしまったので、ぐずぐず斜面をト
ラバースして軌道修正。沢に下りるのに懸垂を2ピッチ。

そこからわりとすぐに自分の中での今山行のハイライトの洞窟の滝に突き当た
る。荷物を置いて滝の裏に回る。坂野氏はあまり興味ない様子でその場に留まっ
ていた。滝の裏から上を眺めると被さる岩壁が迫力。崩れたら一巻の終わりだ
けど。楽しんだ後は右の斜面を高巻き。今度はかなり悪いぐずぐず斜面で、左
寄りに岩を頼って登るが、上部で岩が途切れ、足元が崩れる急な斜面を紙一重
でこなして左に逃げる。そこからは木がある斜面を登り、最後は1ピッチ懸垂
して沢に下りる。すぐ目の前にまた次の滝。

坂野氏は滝の近くの急斜面を登っていく。足場が悪く、上部は段差が大きく1
ポイント坂野氏のヘルプで登りきる。その先は大きな滝はなく、苦手系のつる
んとした岩の乗越で数回ヘルプをもらいながら先へ進む。気が付くと途中から
坂野氏が極力水に入らず岩を飛びながら進んでいる。今回はメタを忘れたし、
木は濡れているし焚火はほぼ無理。ウエアを濡らさない作戦だなと思うが、自
分はそんなに身軽に進めないので水の中を進むなか、終盤で足を滑らせて1回
水没。

1500m二俣付近、沢は平坦だが、なかなか幕営適地がなく、天気の崩れは
ないという見込みで沢の近くのヤブの中にテントを張る。

(タイム)
7:02 駐車場〜11:11 林道終点〜11:47 入渓〜16:22 テント場



10月6日(日) 晴れ

神経が昂っているのか、寝不足なのにほとんど眠れなかった。

気温は寒くはないが、朝から雨具の上を着けて行動する。歩き出し、沢の傾斜
は緩やかだが、当初幕営を目論んでいた1700mの広河原付近も特にこれと
いった幕営適地はなかった。水量は昨日より少なくなった気もするが、減水し
たのか、単に上流部にきただけなのか。出てくる滝は巻いたり、越えたり、所
々で坂野氏のヘルプあり。

やがて辺りがガスッてくるなか、地形図上の2079m地点の二俣を左に進む。
小さな二俣だが、ルートは大きく分かれる。大きな岩の積み重なるなかを進ん
で行くと、ガスの中に大きな岩壁が現れる。坂野氏はフリーでひょいと登って
行ってしまう。そこを登れず回り込んで登るが行き詰まり、ロープを出しても
らう。坂野氏の登った方を見るとのっぺりとした岩を越えてきている。この高
度感でここをフリーで越えるか!?と思う。

下から見て2段だった滝だが、上がってみるとさらに垂直に落ちる滝がある。
滝寄りは岩しかないじゃんと思うが、坂野氏は滝から離れず登って行く。落ち
口に登る所でロープを出して坂野氏リード。斜上する岩に身体を入れてずりず
り上がっていくのを見て、自分にできるかとビビる。1段上がってロープが止
まる。思ったより悪いと言いながらも突破。

自分の番だが、確保してくれているロープが左へぐいぐい引かれるため、岩に
取りつけない。登るのを諦め、スリングアブミで何とかしようと思うも、ダブ
ルロープにテンションをかけるとさらに細くなり、巻きつけたスリングが効か
ない。セルフビレイのスリングがずるずる落ちる。結局、3分の1で坂野氏に
引っ張ってもらいながら足場を探して何とか越える。坂野氏が悪いと言ってい
た2段目は、手掛かり足掛かりほぼナシの1枚岩で、そこも引っ張り上げても
らいながら越える。坂野氏のメンタル恐るべし。

そこから少し登るとまた岩壁が現れる。ここは滝をそのまま登る。大した水量
ではないが、標高2350mで水を浴びるのは嫌だなぁと思った。雨具を着け
てたので濡れ感はなかったけど。

そしてまたすぐに次の岩壁。岩場をトラバース気味に坂野氏はさっさと進んで
行くが、こっちは段差の大きいところで行き詰まりややプチ切れ。ここまで戻
れない坂野氏のアドバイスに従いなんとか越え、さらに大きい段差は確保して
もらいながら越える。

沢は段々狭くなってくるが、傾斜は相変わらずで、ひとつひとつ越えていく。
そんななか、坂野氏は難なく越えて行ったところがちょっと嫌だなと思い、軽
い気持ちで右に巻いたら案外悪くて、右へ右へと逃げて沢から離れてしまった。
直上は這い松が被さるように生えていて無理。坂野氏の声もするが戻れないし
もう少し右へ行ってみると凹状の窪地が下から上がってきている。這い松にテ
ンションしてそこに下りて藪をつかみながら上に上がる。踏み跡らしきものも
あった。少し登ると様子見にきていた坂野氏と合流し、沢に戻る。スンマセン。
巻いたところをそのまま登っても、その先ハングしていたとか。フリーでハン
グ越えたの!?

その先は水流も少なくなり、時刻は16時近い。坂野氏に、南西尾根に出たら
ビバークしないかと持ちかける。同意したように見えたのだが、沢の水がどん
どん細くなっていくのに坂野氏は止まらない。水が切れたところで、ビバーク
するなら水を汲まないと…と呼びかけると、もう3リットル汲んで背負ってい
るという返事。えぇー!!!?いつの間に!?

沢が終わると、次に出たのは足場の崩れるガレ斜面。疲れた足にはキツイ。そ
して何とか南西尾根に出る。笠ヶ岳、見えてるけど遠いー!!!

ビバークできる所がないか、少し下って見てみるが、どこも傾斜している。諦
めて笠ヶ岳に向かうことにし、靴を沢靴から履き替える。南西尾根を登るが、
疲れ過ぎて激しく吐き気がする(吐かなかったけど)。南西尾根を登り切りク
リヤ谷登山道に合流、槍ヶ岳、穂高連峰がずらっと見えた。少しすると日が沈
みかけ、アーベントロートに赤く染まった。そして日没。ヘッデンを点けて力
ない足取りで笠の山頂を目指す。

笠の山頂から笠ヶ岳山荘はスグだと思っていたら、はるか下の方に明かりが見
える。よたよたと下り、やっと山荘。テントの受付に中に入ると別世界のよう
に暖かい。そこからテント場はまさかと思うくらい下り、長い一日が終わった。

テントの中で、明日の下山について坂野氏から笠新道の提案が上がる。明日ま
た笠に登り返すのは嫌だし、賛成。早速残留の設楽さんにメール。しかしその
後地図を見ていた坂野氏が、笠新道も案外距離ありますね、と言い、やっぱり
クリヤ谷下山に戻す。またまた設楽さんにメールして就寝。

(タイム)
6:01 テント場〜9:26 2079m地点二俣〜12:27 ロープを出した滝の上〜16:29 南西尾根
〜17:15 クリヤ谷登山道〜18:10 笠ヶ岳〜18:32 笠ヶ岳山荘〜19:00 テント場



10月7日(月) 曇り/雨/曇り

昨日よりは寝れた。朝からガスと強風。小屋泊の人たちが早くから次々と下山
して行った。こちらもテント撤収して山荘まで登り返す。そこから笠ヶ岳へ向
かう途中、下りてくる人から雷鳥いましたよ♪との情報をもらうが、山頂まで
の間に見ることはできなかった。

ガスで真っ白、視界のない山頂を通過し、クリヤ谷方向へ下る。南西尾根の合
流点は、登山道が少し下の方を通っているため気付かずに通過してしまった。
笠谷を上から眺めたかったが、無理だな〜と思っていたら一瞬ガスが晴れて上
流部だけ見えた。

クリヤ谷登山道は岩が多くて歩きにくかった。しかも途中から雨が降り始め、
濡れた岩があり得ないほどに滑る。これは滑らないだろうと足を置いた土に埋
もれた小さな石さえ滑る。傾斜もきついから気が抜けない。悪い!と誰にとも
なくぼやくと、坂野氏から「悪いって言ったじゃないですか」と返事が返って
くる。確かに昨夜、そんなことを言っていた気がするが、そのレベル。やめた
方がいいくらいの勢いで言ってほしかったよ。1月前に笠新道からクリヤ谷を
日帰りしたって言ってたけど、わたしは既に二度と下りたくないと思っている
のに、1月前に下ってまた下ろうという気になる坂野氏がすごい。

余計な力が足にかかっていつもより足の疲労が激しく、下山したときには足に
力が入らず、アスファルトの道路もよたよたと歩いて槍見温泉の駐車場まで。
ここからタクシーに乗れると思ったら、この辺で営業しているタクシー会社3
社に電話してもいずれも回せないとの返答。高山まで出るしかないとか言われ
たが、取り敢えずバスで平湯まで移動する。そこでもう1度かけたら1社回し
てもらえることになり、安堵する。

平湯から笠谷まで6100円。一体どうなるのかという不安から車を回収でき
た安堵感が一段落つくと、高くない?と冷静な判断が戻る。後で地図を確認し
たら、槍見温泉から笠谷まで10km。歩けたかも…とも思うが、下山後のあ
の足では2時間以上かかったかもしれない。平日のせいもあったかもしれない
けど、タクシー利用の際は事前の確認が必要だと思った。

温泉は平湯の森。往きは高速を使ったので、帰りは下道で帰る。41号線で帰
る場合、いつも困るのが食事場所で、前は高山に「だいこん亭」っていい店が
あったんだよねぇ〜などと話して、坂野氏に今はない店のことを言っても仕方
ないなどと冷たくあしらわれながら、下呂市で目に留まって入ったお店が「だ
いこん亭」レベルに良かった。(値段は「だいこん亭」の方が安かった気がす
るけど)

(タイム)
6:23 テント場〜7:05 笠ヶ岳〜8:51 雷鳥岩〜13:23 登山口〜13:32 槍見温泉P




<ねぎとろ丼+ヒレカツ定> ヒレカツ厚くて柔らかかったです

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