剱岳〜小窓尾根より〜


L:大山、設楽







最初に小窓尾根に行ったのは花村さん&池田Tさん。『あかいし』に花村さんが「完璧な山だった!」と
ワードアートで記していたのが印象に残った。2006年には曽根崎&広瀬チームが行き、2007年に
松野さんと計画したが、自分の都合でドタキャンとなる。その後、松野&坂野チームが行き、何となく
行きそびれ、積雪期の剱岳のピークをも踏むことなく10年経過してしまった。

去年、沢山行で設楽さんと何回か山に行き、岩場などでの身軽さを見てキラリと目が光った。話を持ちか
けると積極的に乗ってきてくれたところで、去年の夏の終わりに今山行が決定した。


5月3日(水) 晴れ

山行前日も残業で出発前に仮眠が取れないまま、途中、飲酒検問に遭遇しながらも何とか設楽さんと合流。
運転交代の際に貴重な睡眠を取る。何回目かの交代の後、目を開けると目の前に朝日の当たりかけた立山
連峰が連なっていた。剱岳はすぐそれと分かる顕著なピークだった。テンションが上がるが、半面、雪が
多そうとか、やはり険しそうとか、不安もわいてくる。




馬場島荘の前の駐車場は満車で、林道を100mくらい戻った所の駐車場に停める。馬場島周辺の道路に
雪は無かった。計画書を提出する際、昨夜は下界では雨、上の方では雪だったと聞く。


正面に小窓尾根の稜線のシルエット


池ノ谷方面へ林道を入ると路面は雪に覆われており、一気に季節を引き戻される。白萩川の左岸を歩き、
橋を渡り、堰堤を過ぎてすぐ取水堰堤に着く。崩れかけた雪渓を登って切れたところからぐずぐずの斜面
に取りつき、上に見えるフィックスロープを目指す。




そこには踏み跡があり、赤谷尾根に付けられた巻き道に入れたようだ。出発前に研いできたアイゼンの歯
が丸くなるのを気にしつつも雪のない踏み跡を進む。次第に雪も多くなり、小尾根を乗っ越して再び白萩
川に下りる。ここまで来ると谷は雪に覆われていてデブリの跡を超えながら二俣を過ぎ雷岩へ。単独男性
が休憩していた。




小窓尾根の取り付きであることを確認して登り始めようとしたとき、突然「ブロック雪崩!」とその男性
が叫んだ。登ろうとしていた谷筋の隣の細い谷の雪が落ちる音が聞こえてビビる。比較的広い谷の左端を
登り始めると先行者の足跡も出てきて急斜面を尾根上めがけて登る。




尾根上にもそこそこの雪はあり、心配された下部での藪漕ぎはほとんどなかった。ただ虫が多く、防虫
ネットが欲しかった(おでこを2箇所刺された)。登りは暑さで消耗した。




当初予定していた2260ピークは、計画書チェックの段階で、その手前に急斜面があるから朝イチに
登る方がいいというアドバイスがあり、2121ピークまで行ければと思っていたが、1980ピーク
まできた所で、2121ピークへ上る斜面と時間を考慮してここで行動終了とした。

曽根崎チームの時は、悪天で、積んだ雪ブロックが翌朝にはすべて無くなっていたというのを聞いてい
たので、しっかりしたブロックを積むためにスノーソーは必須と思っていたが、手ごろな値段のものは
売り切れで、ネットで探しているうちに、「ゴム太郎」の替刃と自己融着テープとで格安に自作できる
というのを見つけ、早速入手して作った(3000円弱)。




普通のノコギリの替刃なので、扱いには気を使うが、不要なファイルケースを潰して作った鞘に入れて
おけば特に問題なかった。固い雪もざくざくと気持ちよく切れ、半分お遊びで、風もないのにテント周
りをブロックを積んで囲んでみた。




自分たちだけの貸し切りと思っていたところ、5時頃に別のチームが到着して少し下にテントを張った。
ちょっとうるさかった。

(タイム)
7:03 馬場島〜8:28 取水堰堤〜10:15 雷岩〜11:00 尾根上〜12:12 1614ピーク〜14:07 1980ピーク




5月4日(木)晴れ

2時半起床。下に張ったチームは既に起き出している様子。朝のラーメンは、九州ラーメンに限らず、
いつもながら設楽さんはスープに苦戦している模様。2人分に対してスープは1袋だから、そんなに濃
くもないはずだが…。今度はサバ味噌ラーメン(みそラーメンにサバ味噌缶のトッピング)をご馳走し
ますね。評判悪かったけど…。


2121ピーク(手前)への登り


出発する頃には明るくなり、締まった雪面にアイゼンを効かせて登る。赤谷尾根の向こうの毛勝山と思
われるピークに朝日が当たる。




2121ピークでは、昨日の単独男性がテントの撤収をしていた。もう1張あった模様。ここから小窓
尾根の核心部に入って行く。


奥の岩峰がニードル


なだらかで広い山頂部から一旦下る。途中からかなり急斜面になり、バックステップで慎重にコルまで
下る。その先の登りの斜面に先行の4人が取り付いている。傾斜は急だがしっかりと締まった雪で悪く
はない。緩んでいたらイヤだけど。





2260ピーク手前の急斜面は一部凍っていた。地形図だけ見て初日にここまで来る気であったとは…。
ここからニードルの右側を通って岩稜帯を抜けると懸垂ポイントがあった。ちょうど4人組が懸垂をし
終わったところで、2260ピークで先行した単独男性は懸垂をせずに残置ロープを使ってトラバース
した後に下りていた。かなり際どい感じに見えたので、真似はせず、ロープを出して懸垂する。


2260ピークから見たニードルの岩峰。先行者が通過していく。

懸垂ポイント手前の岩稜


コルからは雪混じりの草付き斜面を登り、ドームに抜ける。広々としたピークで休憩。




この先のピラミッドピークは、一段上がった所から左に行って行き詰ったという記録を見ていたので、
間違えないように、ルートを確認する。先行者はちゃんと右側から雪上を巻いている。だんだん景色が
迫力を増してくる。




ピラミッドピークを越えて雪稜を行くと、マッチ箱へ続く岩稜帯に出る。ここはロープを出したり、岩
に馬乗りになって通過している写真を見たりしていたので、場合によってはロープを出さなければいけ
ないかと思っていたが、行ってみると一部フィックスロープがあり、左側には普通に通過できるくらい
の足場があり、特に問題なかった。




その先の岩場もお助けスリングが残置されており、それを使って上がれば難なくクリア。しかし油断は
禁物で、そろそろ日差しも強くなって雪が緩んできており、足を下ろしたステップが崩れてヒヤッとす
る場面もあった。


マッチ箱への登り。どこがどう「マッチ箱」なのかは
分からないが、越えてきた順番からいってこれがマッ
チ箱と思われる。                


マッチ箱は急な雪の斜面から巻き、抜ければもう悪いところはなく、景色を楽しみながらの稜線歩きと
なる。




小窓の頭まで来ると、前方に見覚えのある小窓の王の岩峰が見え、今日のゴールが近づいていることを
実感する。明日登る池ノ谷ガリーも全体が見えてきた。


小窓の王(左端)

池ノ谷ガリー


三の窓への懸垂ポイントまで来ると、2260ピークで会った4人組が懸垂をしているところで、その
後ろに池の平の方からきたと思われる単独男性がいた。4人組はロープ2本で50m一気に下りている
らしい。後ろの男性のロープが40mであると聞いて、その人にロープを使わせてやっていた。後ろで
待っていた自分は心の中で「わたしらもっ!!」と叫んでいたが声は掛からなかった(挨拶と短い会話
はしたんだけど…)。


トレースの先に三ノ窓が見える。


事前に松野さんから、50m1本でも、25m下りたところに次の支点があると聞いており、そのつも
りで下りて行くと…。支点に数メートル足りない!今回、岩に付けられた支点から懸垂をスタートした
が、足元に、雪に埋もれた残置支点らしきものがあった。そっちを使えば足りたのかもしれない。見た
ところ、バックステップでも下りれそうな感じだが、取り敢えず、設楽さんに下りてきてもらい、確保
しながら下りてもらって雪の状態を確認する。下りきったところでロープを回収したが、その先のトラ
バースの方が悪かった。

三ノ窓に登り返して本日の行動終了。テント場の整地を始めかけたところ、下にテントを張っていた人
が、これから撤収するのでここを使ってくれてよいと言う。お言葉に甘えて…と答えたが、なかなか撤
収する気配がない。手持ち無沙汰でスノーソーを取り出し、雪切りを始めるとそのままブロックを作り
始め、下の人が撤収する頃には大分テント場が出来上がってしまった。まぁ仕方ない。




テントに落ち着いて、小窓尾根をトレースし終わった設楽さんの感想は、「本番の方が平和ですね〜♪」

確かに、昨日も今日も比較的早い時間にテント場に着いて行動に余裕がある。昨年の12月から始まっ
たトレーニング山行を振り返れば、駐車場に戻って19時とか(天狗尾根)、20時とか(南駒)、行
動時間14時間とか(石尊稜)、結構厳しかったね〜。

時折聞こえるブロック雪崩の音を聞き、これが春の音なのかと思う。本日も暗くなる前に就寝。

(タイム)
5:04 テント場〜5:32 2121ピーク〜6:32 2260ピーク〜8:15 ドーム〜10:45 小窓の頭〜13:09 三ノ窓



三ノ窓から見下ろす池ノ谷。



5月5日(金)晴れ

昨日と同じく2時半起床。出発の支度をしているうちに日の出を迎えた。




三ノ窓には昨日同じテント場だった5人組もいた。先に出発して池ノ谷ガリーを登る。ステップはしっ
かり刻まれているので問題はない。




池ノ谷乗越に登りきると、5人組の先頭が設楽さんのすぐ後ろまで来ていたので、先に行ってもらおう
とゆっくり休憩を取る。しかしなかなか出発する気配がないので先に出発する。これならもっと早く出
ればよかった。


背後に八ツ峰、その後ろに双耳峰の鹿島槍ヶ岳。


高度を上げていくと八ツ峰が見渡せ、トレースがあるのも確認できた。遠くに剱沢や、さらに遠くに
後立山連峰の山々も見え、絶景。前方には剱岳本峰も見える。


剱岳への稜線

雪庇の張り出した稜線…雪庇の上にトレースがあるような…!?


岩はすべて雪に埋まって、ひたすら雪稜を歩くのみ。無雪期よりもラクかも。いよいよ剱岳本峰への
登り。出だしはかなりの急登だが、ステップがしっかりとあり、丁寧に登る。登り切ったあたりから
山頂部はガスに包まれる。すぐかと思った山頂はもう少し先で、山頂の神社の屋根が出ていた。ガス
で真っ白で視界なし。


山頂手前の急斜面

山頂神社


下りの早月尾根は、山頂から下りて間もなく鎖場があった。既に早月尾根を登ってきている人が何組
かいて、登りの通過待ちもあり。視界がよければ綺麗な雪稜だろうにと思うと残念。2700m付近
まで下りてくると人が溜まっていたので、その手前で休憩してから行くとまだ溜まっていた。どうや
ら懸垂ポイントのようだ。途中で先行した例の5人組が懸垂をしている最中で、その後に学生っぽい
3人組が待っている。

それにしても長い。やっと学生たちの順番になったが、この中に1人新人ぽい人がいて、すごく時間
がかかった。横の斜面を見ると、登ってきたようなステップがあり、この斜面を降りられないかなと
も思ったが、既に自分たちの後ろにも1組ついていて、失敗したら恥ずかしいのでやめておいた。

そのうちにこのステップを付けたらしい人たちが下りてきて、ロープで確保しながら斜面を下り始め
た。自分たちは学生の後に1ピッチ懸垂をして、後は雪の斜面をバックステップで下った。1時間以
上ロスした。


懸垂下降したピーク


明日の予報は雨なので、早月小屋に午前中のうちに着けば今日のうちに下山するつもりでおり、後は
特に悪いところもなく順調に下り、11時少し前には早月小屋に着いた。


すっかり晴れた山頂部


早月小屋から下は、最初こそ尾根上を下るものの、1600mより下は広大な雪の斜面を自由に下っ
たり、また尾根に戻りなどしながら高度を下げ、一部アイゼンをしていても滑るような急斜面もあっ
たが無事に下り切り、松尾平手前でアイゼンを外す。松尾平は一部不明瞭なところがあったり、変な
ところにテープがあって惑わされたりする。最後の急斜面を下り、登山口に出る。「試練と憧れ」の
碑を過ぎるとそこにはたくさんの観光客がいて、登山者の方が異物のようだった。


早月尾根中間部からの小窓尾根


下山後は、当てにしていた湯神子温泉が外来終了してしまっており、富山市のスーパー銭湯を目指す
途中で目の前に現れた「湯めごごち」なる大規模な日帰り温泉施設で3日間の汗を流す。そして計画
書の食料計画の通り、富山市内の回転寿司で忍耐強く順番待ちしてお腹を満たし、帰路についた。

今回は、天気が良く、ルートの雪の状態も良く、条件としてはかなり恵まれていたと思う。まさに山
に登らせてもらったという実感。また良いパートナーにも恵まれ、良い春山でした。

(タイム)
5:09 三ノ窓〜5:53 池ノ谷乗越〜7:16 剱岳〜8:40-10:10 懸垂下降〜10:57 早月小屋〜14:29 早月尾根登山口




設楽さんの山行報告