剣岳〜剣尾根より〜

L:坂野、大山








9月12日(晴れ/雨/曇り)

当初、8月の夏山に計画した山行だったけれど、天候不順で一旦は中止となった。しかし
1回くらいはトライしてみたく、行ってないけどリベンジ山行と位置づけた。

高速の割引率が下がったので、下道で行くべく夕方6時過ぎに浜松を出発、途中、恵那の
吉牛で夕食を取り午前2時前には馬場島に着いた。

池ノ谷を行くのは初めてなのでちょっとわくわくでもないが、楽しみな感じ。白萩川沿いの林
道を歩く。正面に見える大きなコルは大窓だろうか。やがて林道が取水堰堤に突き当たる
と赤谷尾根に付けられた巻道に入る。いかにも巻道といった感じの急傾斜と足場の悪さだっ
た。

再び白萩川に下りてしばらく川沿いに進むと先を行くリーダー坂野が岩をひょいと飛んで川
を渡ってしまった。結構流れが急な所で岩も滑りやすい(実際リーダー坂野も着地のときに
少しバランスを崩していた)。そこから少し下流の川幅の広がったところに渡渉の目印のコー
スマークがあり、靴を脱いで裸足で渡る。冷たかった。

渡ったところから小窓尾根への登りが始まる。自分のイメージでは池ノ谷にはみっしり雪渓
が詰まっている感じだったので、ここで水を取って行かなくては!と思い、湧き出ている水を
2Lのプラティパスいっぱいに詰める。リーダー坂野は自分が渡渉している間に水を汲んで
いたらしい(言ってくれよ…)。

小窓尾根にあった道しるべ


小窓尾根にはしっかりした踏み跡が付いており、尾根はまだかぁ〜と呟きながら急登を登る。
尾根に出て池ノ谷へと下る。雪がみっしり詰まっているはず(イメージ)だった池ノ谷には水が
豊富に流れていた。雪渓の末端まで行きアイゼンを着ける。

雪渓の切れたところをガチャガチャとアイゼンで歩いていたら、アイゼンが外れてしかも前後
を連結している金具も外れてしまった。いくら戻そうとしても元に戻らず、仕方なく片足だけで
雪渓を登って行く。二俣で休憩しているリーダー坂野にアイゼンが壊れた旨伝えて手渡すと、
少しいじって元に戻してしまった。えぇっ!と驚くと、そういう風になっていると説明書で読んだ
覚えがありますとひと言。さすが道具マニア。(賞賛)

剣尾根末端(正面)の二俣


二俣から左俣に入り、R10を見落とさないよう、注意しながら登る。20分も登らないうちにル
ンゼというよりは凹状の広い斜面が現れる。先を行くリーダー坂野が立ち止まっている。手元
の資料にR10取り付きの写真はなく、これはルンゼ?という疑問をお互い持ったものの、リー
ダー坂野は靴とアイゼンの相性が悪く、自分も雪渓にうんざりしていたため、尾根に上がれる
ものなら早く上がってしまいたいという思いがあり、そこから取り付くことにしてしまった。

コルEが尾根の末端の方という思い込みもあり、早く尾根に乗ってもそんなに変わりはないだ
ろうという安易な考えの下、草付の急斜面を登る。足元は不安定で斜面にバイルを突き刺し、
草の束を掴んでだましだまし登る。絶対これはR10ではないという確信の下に…。

尾根に上がると今度は壮絶な藪こぎが始まる。藪の中に頭まで入って枝をかき分け、リーダー
坂野の位置はがさがさという藪を漕ぐ音で把握。尾根上には露岩もあり、中には、えーっ…と
思うものもあったが、リーダー坂野はとっくに先に行っているし、当然自分で何とかするしかな
く、登り切って「紙一重」と息をつくところが数箇所あった。

ロープを出したのは2回。1回目は左側が落ちている斜面を上がるところ。残置ハーケンが
あり、他にも入り込む人がいるんだなぁと思う。リーダー坂野の突破後、テンションをもらいな
がら越える。2回目は薄かぶりの岩場。リーダー坂野が登った後、抜けが悪かったので確保
してくれた。

藪の中のリーダー坂野


時間も午後4時を回り、そんな状況でさらに雨が降り始め、濡れた草付は滑りやすく草付斜面
のトラバースで2回くらい足を滑らす。5時を回り、しかし相変わらずの藪こぎの急登でテントを
張れるような場所はなく、「悪いパターンですね」とリーダー坂野。

薄暗くなる頃にやっとテントを張れそうな場所に至りテントを設営する。半日藪こぎしてコルE
にも辿り着けなかった…。

テントに落ち着いたところで今日の行動を振り返り、ぼそっと「途中で、リタイアって言いたくなっ
たよ」と本音を漏らすと、「リタイアって言われても…」との返事。恐ろしくテンションの下がった
一日の終わりだった。


(タイム)
6:21 馬場島〜8:15 小窓尾根取付き〜10:03 小窓尾根1614ピーク〜12:21 二俣〜
12:55 剣尾根取付き〜18:00 テント場



9月13日(晴れ/曇り/雨)

本日は取り敢えずコルEまでは行き、そこまでの天気で池ノ谷へ下るか先へ進むか判断する
ということに。早月小屋まで行くのは無理だろうからもう1日尾根上でビバークすることになる
が、気温が高くないのでそれほど大量の水を行動用に必要としないことと、水を節約できる
食料計画なので、朝の時点でそれぞれ2Lの水ないしお茶があり、十分と思われた。

テント場付近から見た剣尾根上部


朝から再び藪こぎをすること1時間弱でコルEと思われる場所に着く。池ノ谷の雪渓を相当
上がらないといけないんだなと思った。コルに上がってきているルンゼには藪も草付もない。
しかしテントを張れそうな場所も見あたらなかった。

コルEからの尾根には今までとは明らかに違う明瞭な踏み跡があり、正しいルートに入った
ことを実感する。

コルDの先には岩場があり、ガイドには「簡単な岩場」とあったが、傾斜もあり、普通にロー
プが必要なレベルの岩場だった。

コルDから先の岩場


さらに先に進むと威圧的な岸壁が前方に現れる。コルCから先の核心部の岸壁だ。



コルCは2人が立って並んでいっぱいの狭いコルだった。荷物を落とさないよう注意しながら
フラットソールに履き替える。コルから右俣側に下ったところにテント場らしきものがあった。

このピッチはアブミを使うのだが、リーダー坂野は念のためアブミは用意したものの、フリー
で行くことに決めていたらしく、「緊張する」と言い残して登っていった。核心のトラバース部分
で苦しそうな息遣いを発しながらもとうとうフリーで抜けてしまった。

写真を撮っていることは了解してもらってます。ビレイはしてます


自分はアブミデビュー。しかし、立岩での練習のようにはいかず、A0のスリングを掛けたり、
セルフビレイを取ったりして何とかトラバースを抜けた。そこから直上する所もそんなに楽で
はなく、疲れてしまい、セルフビレイを取って休みながら登り切った。

次はいよいよ"門"のはず。今回の山行で一番楽しみだったのが"門"を間近で見ることだっ
た。それなのに、ここからみるみるガスッてしまい、ガスのなかコルに下りて岸壁の基部を
トラバースして行くとなんだかよく分からない所に突き当たってしまった。

ガイド本の"門"とは景色が違う。一旦コルまで戻ってみるが左俣側をトラバースして取り付
くと書いてあるからルートは間違ってない。でも「左上するクラック」が分からない。

取り敢えず、突き当たりの凹角を登って上の様子をみるという話になり、リーダー坂野が
ロープを付けて登って行った。上で「ぅわ、動く」という声が聞こえた。

セカンドで登っていく。凹角はスラブで細かい。A0を使いながら登って行ったものの、抜け
はハングしていた。ここへ来て!?上のガバを掴んで身体を上げようとするが、掴んだホー
ルドが動き、うわ、動いた!と思わず呟く。

「取れないと信じて上がるしかありません!」という声がする。しかしどうやっても身体を上げ
ることができず、結局リーダー坂野に3分の1で引っ張ってもらうことに。ロープは1本しか
着けていなかったので、摩擦がかかることへの不安はあったが仕方ない。

何とかハングを越えて、さてここはどこだろうと見回すと、ガイド本の写真で"門"の後ろに
写っている岩峰が目の前にある。てことは、門を越えてしまったということ!?

その頃にはすっかり晴れて様子が見えた。自分のいる位置が分かるとどのラインを登った
のかも分かった。予定していた「左上するクラック」のルートは迷っていたトラバースの途中
から取り付くようになっていて、自分たちはその左のルートを登ってしまったのだ。

"門"を登ったところから見下ろす


"門"を見渡せるところでガスに巻かれてしまったためルートの確認ができなかった。残念。

この時点でもう午後3時だったので、先に進みながらそろそろテント場を探そうと言っている
そばから先を行くリーダー坂野が適地を見つける。本当にテント場に打ってつけの平らなピー
クで行動終了。テント設営後、雨が降り始めた。


(タイム)
5:53 テント場〜6:45 コルE〜7:20 コルD〜9:55 コルC〜14:25 "門"の上〜15:16テント場




9月14日(晴れ)

夜には富山の夜景がきれいに見えた。馬場島にヘッドライトの明かりも見えた。しかし冷え込み
も厳しく、テントの外に置いてあったリーダー坂野のアイゼンのケースは霜で白くなっていた。

三の窓から差し込む朝日と鹿島槍ヶ岳


陽が昇ると朝日を正面から受けることになり眩しい。日陰の岩は微妙に滑る。テント場からすぐ
コルBに至る。ここに下るところが不安定で、残置の懸垂支点があったくらいだが、ほんの数メー
トルなのでなんとかクライムダウンする。その間にもリーダー坂野はその先の岩場をどんどん登っ
て行ってしまった。

前夜、この事態が一番心配だったので、ガイド本の写真で上半部もロープを着けて登っている
写真を見せておいたのに…。

ロープ出したくてもビレイヤーがいないしなぁと思いながら、取り敢えず足元に注意しながら慎重
に登る。登り切ったところで、様子見に懸垂の準備をしているリーダー坂野の姿があった。

コルBからの岩場を登るリーダー坂野


その先のチムニー。リーダー坂野はロープを着けずに登って行き、ちょっと狭くて登りにくい
ということで確保してもらって登る。

チムニーへ向かうリーダー坂野


剣尾根の頭からは剣岳の本峰が見えた。そこからもろくて信用ならない感じの岩をクライムダウン
して長次郎の頭へ。

剣尾根の頭に立つリーダー坂野と剣岳本峰


長次郎の頭で40分近い大休止。三連休の中日で快晴。八ツ峰からはクライミングしている人の
コールが聞こえる。そして剣岳の山頂が大賑わいなのも見て取れた。

長次郎の頭から一旦下って剣岳に登り返す。山頂写真は順番待ちの状態だったので諦めて通過
して早月尾根を下る。

大繁盛の剣岳山頂


早月尾根を登ってくる人も非常に多く、上りの通過待ちで時間がかかる。登った先が渋滞して
いるのにあくまで上り優先で登ってくるのにイラッとして「先に下らせてもらっていいですか?」
と口調もついきつくなる。それに対して、後ろの若者二人の、のほほんとした関西弁の「お先に
どうぞ〜」「ゆっくりどうぞ〜」な余裕をかました口調にもイラッとしつつ早月小屋まで。リーダー
坂野は20分くらい待ったとのことでテントなど出して干していた。

早月小屋から馬場島まで途中で足を合わせるより馬場島で集合ということで、先に早月小屋
を出発する。40分くらい下ったところでリーダー坂野に追い越される。1ピッチで下るのは無
理なので中間地点の1400m標識のところで水飲み休憩。松尾平の長さにキレながらその後
の急坂を下って登山口へ。「試練と憧れ」の碑の辺りにリーダー坂野がいた。30分くらい前に
着いたとのこと。もちろん休憩なしで。まじ?

車に戻って荷物を下ろしてしばらく動けないくらい疲れた。

下山後は、富山市内に向かう道を1kmほどそれたところにある湯神子(ゆのみこ)温泉に行く。
温泉旅館の日帰り入浴で500円。山行の締めくくりは回転寿司でお腹を満たして帰路についた。


(タイム) 5:28 テント場〜5:46 コルB〜6:10 チムニー〜7:53 長次郎の頭〜9:05 剣岳〜
11:13 早月小屋〜14:15 馬場島駐車場