一瞬の技

 

  友達の昔話である。
 細身でスタイルがよくオシャレな彼女は東京・山手線の座席に座っていた。夜8時頃でそこそこ混んでいる状態の中、彼女の前に立つ男性が“○×”をご披露してきたのだそうだ。周りは混んでいるせいか全然気がつく気配がない。

 それをいい事にいい気になる男性に友達はついに怒り爆発。 静かに一瞬のチャンスをうかがって彼女がとった行動は、サッと男性の後ろに回りこみ、片手は首にまわし、残りの手で男性の急所を掴む事だった! 掴まれた男性はジタバタし逃げようとするが彼女は意地でも放さない。

 ジタバタする男性と抑えつけようと奮闘する細身の女性の図は、回りの人々にとって奇異に見えただけなのか、関わり合いにならないようにしているのか誰も助けてくれなかったそうだ。タイミングがいいことにすぐに次の駅につき、男性は彼女の手を振り切って必死に逃げたのだった。

 確かに護身術&攻撃術で男性の急所を握るというのはあるけれど、普通 パッとはできないと思う。なのに一瞬でこの技をキメた(?) 彼女はすごい。華奢な身体(体重40数キロ)のどこにそんなパワーが秘められていたのだろうか?(※ちなみに日常の彼女は上品なタイプだ)

 「よくそんな事ができたねぇ‥すごすぎる」と言うと冷静に「あの時なんであんな事ができたか自分でもよくわからないの。でもあの男性には本当にキレたからだと思う。」 「座っている間、回りこんで抑えつけるのに一番早い方法は…と考えていたの」と淡々と言われてしまった。な、なんて冷静な。そして無意識にこんな技が出てしまうとは……恐るべし!  

  世の中には無抵抗な女性ばかりだと思ったら大間違いだ。私は関内駅でも男性を押さえ込んでいる綺麗な女性を見かけているし、私自身も捕まえようとして逃げられた事がある。しかし彼女のような事ができる人はまずいないだろう。

 彼女の別の友人曰く「相手が悪かった」と男性に同情するような口ぶりだったとか。それを聞いて男性に同情はしないけど彼女の前で「確かになぁ…」と思わず大きくうなづいてしまった私であった。