こういうのは難しいと思う。魔法がなんでもできることになっていたら、即座に事件は解決するし、また、どんなに事件を回避しようとしても、やっぱり魔法で殺人が行なわれたら、どうにもならない、っていうところはあるんだけれど、一方で、現在の社会のいわゆる技術っていうのもそういうところがあって、要人警護とかで、完璧はあり得ないし、昔の米ソの冷戦構造の中での互いの軍事競争も結局競えば競うほど、どんどん肥大化していって、留まるところを知らない。
まあ、物理的な現象も、昨今の技術の進歩によって、どんどん幻想に近い方向にいっているのだから、これからのミステリーはさらにさらにどんどんファンタジー的になっていくのかな。ようするに、携帯電話がある世界と、それがなかった世界では、事件の起こり方も違うし、DNA診断ができる時代とそうでない時代では事件捜査の方法が違う。だから、ミステリーも違ってくる。
さてさて、この作品、世界に七頭いるという、竜。いつから生存しているのかも知られていない、人間が現われて魔法文明を築いたときから、存在した竜のうちの一頭が、殺された。人間よりもよほど賢く、なにもかもお見通しだったはずの竜が殺された。ではその理由はなんだろう?その犯人は誰だろう?っていうことが発端になって魔法文明社会の中でのミステリーと冒険が始まるっていうもの。
「界面干渉学」という妙な学問がでてきて、どうやら、この魔法文明社会において、ときどき「発掘される」ものがもつ非魔法的な仕組みを探る学問らしいが、これがどうやら、科学なんだ、というあたり。一方において、我々の住む科学文明社会があり、その科学文明社会において、ときどき古代の遺跡や、あるいは現在のなんらかの宗教の中に、非科学的、超科学的なモノ、現象の存在を、あたかも示唆するかのようなものがときどきあるわけだけど、でも、その結果としての魔法が存在するかどうかは、現在の科学では、一部を除いてわかっていないし、わかってしまった一部はもはや魔法とは呼べない。では、逆に魔法文明社会があれば、そこでは科学が謎にみちたものとして出てくるのではないか、という裏返しの発想によるもので、なかなか面白い。
ストーリーそのものは、いろいろな要素をごった煮にしたようではあるが、それなりにテンポもよく、面白い。最後に竜を殺した犯人もまた、あんがいあり来たりなもので終る。でも、描いている社会のありかた、そこでの人間の考え方のようなものが、なかなかうまくできているのではないか。
ちいとばっかし、魔法の効果とその限界のようなものの設定が曖昧なので、とんでもない謎が、あっさり「魔法です」でとかれてしまったり、一方で、魔法の効果について、矛盾が繰り返されていたりと、ちょっとやっぱりなんか雑な印象があり、ストーリーの一貫性みたいなものが薄く、全体として、まとまりがないっていうか、なんていうか。
でもまあ、今回は本格的な密室の殺人みたいなものを魔法ばかりの世界で扱っているあたりが、ちょっと面白い。スケールとしては、殺竜事件ほどではないし、みみっちいですけど。
うーむ、やっぱりもう少しプロット段階でねって欲しいなーという作品ではあります。部分部分をとると、結構緻密にできているようなんだけど、全体がぼろぼろな感じ。まあ、十分面白いですが、ところどころで、「ええ?そうくるのか?だめじゃん」とか思ってしまう箇所があっちこっち。
次の作品に期待しましょうかね。