結局のところ、一種のシミュレーションですね。ものすごく幾何学的に配置された国家があり、その国家にはそれぞれ王がいる。ふつうならば、互いに侵略して、最後に世界を支配するのは、みたいになろうものが、それが許されない世界。非常に変わった制約のもとでの王や側近たちや、そのほかの人々のいろいろな生き方を、描くというか。まあ、おもしろい設定ではあると思います。
- 「月の影 影の海」
- 暗いですねー。唐突な感じで話が始まり、で、唐突なまま、主人公の陽子は、悲惨な目にあって、そのまま悲惨なまま、悲惨で、悲惨で、暗くて、だまされて、行き倒れになって、で、鼠が出てきて、介抱してくれたら、実はシンデレラな話です。上下二冊に分かれていますが、とにかく、上巻なんて、ひたすら悲惨です。これでもか、これでもか、というほど悲惨で、しかも、ちょっと不自然なのは、この悲惨な中で、主人公は、それでも自殺とかしようと思わないところ。うーん、どうなんでしょう。
いまどきの一般のルーソ(もうこれもファッションとしては古いが)で、茶髪な女子高生とかが、たとえば、アマゾンのジャングルに一人ぼっちになって、で、もちろん、マシンガンくらいはもっていて、要所要所で弾丸の補給ができるとして、それで、はたして、生き残るでしょうか?みたいな話ですね。いや、べつに、アマゾンのジャングルじゃなくて、サバンナの砂漠でもいいですし、タクラマカン砂漠でもいいですよ。で、もちろん、人にあえば、捕まって、あるいは騙されて売られそうになったりするわけでしょ。で、気が狂いませんかね?うーん、ちょっとあまりにもあまりにも、な感じがするわけです。
で、こんな始まり方をした小説が、どうすればおもしろいのか、よくわかんなかったんですよね。つかみ悪い。まあ、ストーリーとしては、いろいろあって、それなりにおもしろい感じにはなっているけれど、やっぱり暗い、悲惨、どうにもならない。しかも、それを主人公がなんとか乗り越えちゃうところが、なんか今一現実的ではないっていうか、なんていうか、そんな感じがした、最初のお話でした。
一応、12の国の中では、慶東国の物語。でもって、ついでというか、隣の大国の雁州国と、滅びる寸前の巧州国の話も多少登場します。とくに、雁の延王、延麒が最後のほうで活躍するっていう話です。
- 「風の海 迷宮の岸」
- 子供のなる木があって、動物のなる木があって、っていう発想は、他の小説でも見たけれど、どのあたりから出てきた小説的題材なんでしょうか?麒麟が生まれる話です。うまれて一つのお仕事をし終わるまでの話です。で、しかも、麒麟さんは、日本生まれで陽子と同じくらいの年です。あっちの世界にいって、麒麟になります。うーん、なんか理不尽です。子供のなる木があって、でも、どうして、夫婦っていうのがいて、そもそも、そういうところで、どういう理由で男女が、あるいは雌雄があって、なんでしょうか?結局のところ、木になる子供の果実が、流れていくという現象を演出するためにのみ存在する、物語の仕掛けなんでしょうね。これにこだわらなくてもよかったんじゃあないかなーと思うわけです。
で、これは、北東にある戴極国の物語で、やっぱり、延王、延麒も登場します。あと、慶国の景麒もまた登場。
- 「東の海神 西の蒼海」
- さて、話は、前二作で、適当に出てきては、なんとなく助けてくれる正義のヒーローとでもいうべき、延王と、延麒の物語。話は500年くらいさかのぼって、ということで、日本の戦国時代の瀬戸内海の小国の国人(国主)のせがれが、最後に国主となったところで、滅びるわけです。で、滅びると同時に、あっちの世界にいって、延王になる。それと、延王になってから、20年くらいして起こった反乱を、どう収拾させるか、っていうことで、ある意味では、水戸黄門な話でしょうか。もちろん、日本において、山に捨てられた子供であった延麒(六太)と、やっぱり、あちらの世界で人に捨てられて妖魔に育てられた更夜の出会いっていうのが一つのテーマにもなっている。人と人との出会いが中心ですね。
主に、雁国のみの話ですね。
- 「風の万里 黎明の空」
- さて、ここで、前三話の一つの纏めといいましょうか、慶の景女王となった陽子が王になってから試練を受ける話で、王になったものの、その世界のこともなにもわからない陽子が、修行をするために、王宮を離れて、市井で賢人からいろいろ聞いているうちに、、、。で、そこに流れるテーマとしては、三人の少女の物語です。たぶん、明治のころに家が貧しくて年期奉公にいくことになった鈴という少女が、あっちの世界に流されて、悲惨な人生になっているところから逃げ出す話と、さらに、芳極国の峯王の娘で公主という立場であった少女祥瓊と、そして、日本からやってきて景王になった陽子の三人のストーリーです。
最後はまあ、その、「この紋所が目に入らぬか」ってな水戸黄門な話なんですけれど、ストーリーの展開は非常におもしろくて、ここまできて、ようやく、おもしろい、っていう感じがしました。こりゃすごい!名作かも、って思うようになったお話。
ここでは、12国のうちの、慶を中心に、鈴がずっといた才州国と、その女王黄姑、また祥瓊の国である芳極国、そして、一時的に祥瓊がいた恭州国の話もでてきて、次の「図南の翼」でその生い立ちが語られる珠晶が供女王として登場。もちろん、例によって、延王、延麒も登場。
- 「図南の翼」
- 恭州国で、王になるために立ち上がった12歳の珠晶が、王になるまでの苦難を描いた物語、なんですけど、まさに、RPGな感じの物語。ゲームっぽいですねー。妙にませた12歳の少女が、周りの大人たちをてんてこまいさせつつ、最後には、供麒に選ばれて、王になるっていう話。
さて、ここでは、12国のある世界のまんなかの黄海について、かなり語られています。そして、また、最後の最後で、これまであまり登場しなかった奏南国の宋王の三男の利広が登場。うーん、この人も延王と非常に似た感じの風来坊でして、またあとで登場しますが。
- 「黄昏の岸 暁の天」
- なんとなく、陽子が、王になったという事態が反映された作品というか。そのわりに最後は違うっていうか。ようするに、陽子は、20世紀の女子高生だったわけです。で、その20世紀の女子高生であるから、世界に国際連合があって、国と国が力をあわせて、問題のあった国に援助するとか、介入するとか、そういう発想が出てくる。で、20世紀の日本にちょくちょく出向いている六太こと延麒が、やっぱり、そういう発想があって、それで、国際連合みたいな組織ができて、という話だというと、なんだか違うかもしれませんが、、、。
戴極国で、泰王が反乱鎮圧のために出向いていってそのまま行方不明、さらにその麒麟である泰麒が、やっぱり行方不明。前後関係から、もともと日本で育った泰麒が、なぜか、日本に戻ってしまったんではないか、っていうことになって、で、日本にいったりきたりができる六太(延麒)とかが、陽子の発案のもとで、あつまってきて、いろいろな国の麒麟も王も力をあわせて、泰麒を捜索しようという話ですね。で、最後にみつかるわけですが、私的発想からすれば、陽子が、女子高生にもどって、日本でのストーリーがあるのか、と思ったんですけど、そうはなりませんでした。まあ、いいけど。やっぱり、ほとんど、日本のことは描かない方針なのでしょうか?っていっても、延王の話のときは、ずいぶんといろいろかいていたんですけどね。そのあたりが、ありがちな小説とは違うっていうことなのかも。
いままで登場しなかった、範西国の王や麒麟、漣国の麒麟なども登場しまして、結構いろいろと登場人物が出てきたな、という感じです。
- 「華胥の幽夢」
- で、これは短編集。派手なアクションも、スリルもサスペンス(は多少あるか)もないが、なんともいえない話があって、結構おもしろいと思いました。
- 冬栄
- 最初は、前の「黄昏の岸 暁の天」で、泰王が泰麒を漣国につかわしたときの話。でまあ、子供である泰麒の想いのようなもの、そして、始めて登場する漣国の廉王もちょっとおもしろい農夫で、、。まあそんなところです。
- 乗月
- これは、なかなかすごいっていうか、おもしろいっていうか、芳国で、祥瓊の父であった峯王を殺した月渓という男。恵州という地域の恵州侯であった彼は、王を殺したあとも、王になることもせずにいたわけで、そこに、慶国から景王の使者がやってきて、慶国にいる祥瓊の話もからんで、なかなかすごいことになる話。とくべつなアクションもなにもないが、いわゆる君主とはいかにあるべきか、君子とはどうするべきか、という儒教的な規範、道徳みたいなことをえんえんとお話するというか、なんていうか、、、。これ、地味な感じですが、なるほど作者はこういうこともこのシリーズの中でかきたかったのかなーと思わせるものでした。
- 書簡
- 陽子が、行き倒れになっていたときに助けた鼠、楽俊は、陽子の友達。今は雁国で大学生になっていた、ってことで、即位後間もない景王陽子が、楽俊に手紙を出し、そして、その返事がくる、というだけの話。お互いに手紙の中ではつらいことなどをかかないが、それを互いに思いやるというストーリー。地味だけど、なんかふわっと心温まる話でした。
- 華胥
- 理想とするものを夢みることのできる華胥の枝をみて、良い国を作ろうとした才国の采王、しかし、彼の必死の努力、そして、志を同じくする人々の必死の努力にも関わらず、才国は、どんどんおかしな方向にいってしまい、やがて、麒麟である采麟が倒れた。そこでおこったミステリアスな事件。やがて、ほとんど狂乱状態になったかにみえた采王は、しかし、自ら王位を禅譲し、崩じた。そして、そのあとなにが悪かったのか、ということを、いろいろと考える側近や近親者たち。王の養母である黄姑が次の王になるまでの話?かな。
- 帰山
- 柳北国は、雁国の隣。そこは、劉王の治める国。法治国家として名高い柳国がなぜかおかしい。現王になって120年。ふつうならできて30年くらい安泰だった国は、300年はもちそうだ、というにも関わらずなぜか120年にして、滅びようとしていた。ってことで、すでに現王になって600年の奏国の人と、そして、現王になって500年という雁国の人(もちろん、二人とも、王、あるいは王子である)が、身分を隠して、柳国について柳国の宿で語り明かす。やがて、奏国に戻ってきた王子利広は、その見聞を、王家のものたちに話して、、、。
国とはどうあるべきか、どうすれば、長くもつのか、などなどのもろもろをいろいろな角度から話し合うというおもしろい話。
- 「魔性の子」
- これは、新潮文庫に入っているもので、ちょっと違うんですけどね。十二国記そのものというか、その裏話なのかもしれませんが、出版された順序からすると、これが、一番最初らしい。「黄昏の岸 暁の天」で、戴極国の麒麟である泰麒が蓬莱国(日本)にとばされた、っていうときの、日本における話。つまり、高校生としてふつうにしかし、異常な生活をしている泰麒が、周りの人々とどうしてどうなっていくか、っていう話です。陽子が、日本にこなかったのは、結局、このストーリーが先にあったからなんでしょうね。
純粋ホラーもの、ってことになっていて、しかも、泰麒の周りで起こる事件はかなりスプラッタなのですが、なんとなく、十二国記の内容を知った上で読んでしまうと、いまいち、ぱっとしない感じもしますかね。ただ、「へえ、日本ではこんな大変なことがおこっていたんだ」というのを知りたい方には、おすすめな本です。「黄昏の岸 暁の天」と一緒に読むとおもしろいでしょう。