かつて光学式果実用糖度センサーの開発をしていた研究会社:果実非破壊品質研究所の略称
1990年に農林水産省の外郭団体であったと生物系特定産業技術研究推進機構によって創設され
果実の糖度を非破壊で計測する光学センサー・システムの開発を行っていた
FANTECは、国内初(おそらく世界初)の透過計測式の内部品質検査装置 →
→ Fruit−5を開発し、これを製造・販売していた。
現在、FANTECに関する情報が極めて乏しいことからここに記載し備忘録とする
2000年にFANTECが建設したかつての社屋
>>> # 透過式計測システム
>>> # 糖度計測以外も重要!?
>>> # 小型システムの開発
>>> # NIR−GUN
>>> # 大臣賞の受賞!
# 糖度センサーの開発!? |
1990年頃はまだ、果実の糖度を計測できるセンサーは存在しておらず、
カラー・カメラで果実の外観を撮影し、表皮の色合いなどを指標にして品質管理を行っていた
しかし果実の食味(甘さ)は果皮の着色具合とは比例しないケースも多く、
客観的に果実の甘さを観測することができる技術の登場が望まれていた
これに対して米国で小麦の品質管理に用いられていた近赤外線分光計測技術(NIR)を応用した
光糖度センサーの研究開発が官民の複数の研究者によって進められるようになった
その先鞭は食品総合研究所の岩元先生が構築したIQソーターという実験装置であった
IQソーターは搬送システム上の果実の反射スペクトルを計測して果実の糖度を算出する装置だった
この装置によって光による果実の糖度計測の可能性が示され、多くの研究者がこれに追従した
このような背景の元、農水省(生研機構)は当該技術の実用化を図るべくFANTECを創設した
(農水省以外にも、浜松ホトニクス、旧マキ製作所、愛媛青果連などからも出資されていた)
創設時は、所長の前田弘・博士、以下7名という少数スタッフでのスタートだった
目的 → 光を使って果実糖度を非破壊計測するセンサー・システムを造ること
# 透過式計測システム! |
FANTECも当初はIQソーターを手本にした反射方式の装置を検討していたが、
1992年頃に”三井金属鉱業”さんが糖度センサーの実験施設を立ち上げたとの報がもたらされた!
山梨県の某所にて桃の糖度を計測するセンサーを設置して試験運用を開始したとのことだった
その後、三井金属さんの計測装置も反射スペクトルを計測する方式であることが確認され、
後発となることになったFANTECは、より高難度な”透過計測方式”で装置開発を目指すことになった
反射方式は、果皮下数ミリの部位の糖度を観測するだけで、それより深い部分の情報を得ることができない
これに対して、、
透過方式は、果実の中心近くの情報も得ることができるのでより客観的に果実の状態を知ることができる
ただし、、果実を透過計測するには、より強力な光源と、高感度なセンサーが必要になってくる
ハードルは一気に高くなったけれど、所長の前田博士の指揮の元、チーム一丸となって開発に邁進し、
1995年にラジアル透過計測方式の内部品質検査装置:Fruit−5を完成した
95年頃、製品型のFruit-5の完成披露展示での様子
成果 → 日本初のラジアル透過計測式光センサーを完成した!
# 糖度計測以外も重要!? |
Fruit−5は、代表的な5つの果実(桃、梨、リンゴ、柿、ミカン)を全て検査できるようにと
所長の前田博士が命名した装置名であり、これを実現するためにラジアル照明方式を採用していた
ラジアル照明方式は、果実の全周囲から照明をあてて、果実直下から観測する全周透過方式
同方式は果実の糖度分布差の影響を受け難く、食味に対してより客観的な結果を得ることができ、
同時に果実の姿勢(方向)が制限されない為、供給者の作業負荷を低減させる効果もあった
また、透過方式を採用したことで果実中心部の情報を観測できるようになり
これによって果実内部の異常(褐変、水浸、芯くされ、など)を検出し、排除できるようになった
異常果実は商材として無価値なだけだななく、逆にクレーム対処にコストを発生させるため
極力出荷しないようにするべき対象であり、これを検出・排除できる機能は市場から歓迎された
また、異常果の排除は産地(生産者)の信用を高めるうえでも重要なQC要素となっていった
Fruit−5は糖度以外に異常果の検出機能もあったため後発の光センサーながら良好に展開できた
Fruit-5 が検出した梨の水浸異常(ソルビトールによる水の過剰滞留)
効果 → 内部異常の検出機能が市場のQC要件に歓迎された!
# 小型システムの開発 |
Fruit−5の稼働実績が増えると会社は実用光センサーのメーカーとして認知されるようになり
分光計測に関する新しい開発要件が持ち込まれるようになっていった
その一つが、小型の可搬式糖度センサーの開発に関するものだった
当時の糖度センサーは選別施設の設備としてプラントに設置される大型の装置となっていた
こうした体裁を見直して小型化し、屋外(圃場)へ持ち出せるようにしようというのが課題であった
この課題に対しては、当時の研究部長であった水野氏が中心となり研究開発を進めていった
NIRによる糖度計測の基本システムは既にFruit−5で完成していたので
コレを小型化する再構築が進められ、2001年頃に小型糖度計測装置:FT−20が完成した
当時のカタログ資料より
FT−20は箱型の本体に分光デバイス、演算システム、電源、表示装置を装備しており
バッテリーで駆動できたので野外へ持ち出して分光データの計測を行うことができた
可搬型装置の登場によって、ラボ以外の場所での分光計測を計画することが可能となり、
実際にFT−20は農産物の生育データの観測や、養鶏における脂肪量観測などの研究に利用された
(食総研におい出られた河野先生などに利用していただいた:マンゴーの計測など)
研究 → 可搬型の小型分光計測装置:FT−20を開発
同時期にクボタ農機さんからも同様の装置(Fluit-Selecter)の発表がありその類似性に驚いた
(きっとクボタさん側でもFT−20を見て驚いていたことと想像する)
追記:Fruit-Selecter はその後も改良が重ねられて現在も販売されている
↑かつての競合者の視点から、現状で最も精度よく糖度が測れる小型センサーだと思う!
# NIR−GUN |
FT−20は技術開発が目的の実験的な製品であったが、
一部の研究者によって多くの有益な実験データを残し、可搬型小型分光計測装置の可能性を示した
そこで、より小型で運用性のよい小型の糖度センサーの開発を目指すことになった
FT−20の運用実績から、改良すべき要件を洗い出し新しい小型装置:NIR−GUNを開発した
NIR−GUNは、約1kg程度で片手で運用することができる当時としては画期的な製品だった
当時のNIR-GUNのカタログより
LVFによる装置内部に反射界面を持たない分光モジュールを開発し、
これによって分光デバイスが苦手とする振動と衝撃に対して高い耐久性を実現した
また、当時の小型分光計測装置としては破格の価格:定価150万円を実現した
NIR−GUNには、それまで全国で稼働してきたFruit−5の運用ノウハウが用いられており
分光計測に関する知識が乏しい人間が扱っても運用しやすい計測パッケージに仕上がっていた
(↑施設用センサーと小型センサーの両方を手掛けていたFANTECだからできたこと)
スペック的には今日の機材には及ばないが、計測パッケージの完成度は現在でも十分に通用すると思う
自身が装置開発のP・リーダーをしていたこともあり、非常に思い入れが深い製品!
開発 → 実用レベルの小型分光計測装置:NIR−GUNを開発
# 大臣賞の受賞! |
2003年、FANTECは科学技術政策担当大臣賞という賞を受賞させていただいた
創設からのNIRによる非破壊計測技術の開発とその実用化に功績があったとのことでの受賞であった
本賞は当該表彰の2等賞に該当し、一等賞は有名な内閣総理大臣賞である
因みに同賞は前年までは”科学技術庁長官賞”という名称であった( ←こちらの方が有名かも?)
内閣府に所長の前田博士が招かれ、当時の総理大臣であった小泉純一郎先生より賞状を頂いた
小泉総理(右)にNIR-GUNの説明をする前田博士(左)
受賞 → ”近赤外分光分析法を応用した果実の品質計測機器の開発”
追記:FANTECの受賞について、その評価の一因となったのは分光装置を全て自社開発していたこと
最初期のFruit−5からNIR−GUNに至るまで全て自社設計の専用分光機を搭載していた
現在は市販の分光器を組み込むのが定石だから、その部分のアレンジが効かない(できる人も少ない)
選択肢がなかったとはいえゼロから分光器を造っていたFANTECはスゴイ集団だったと思う