朗読会「あなたのこころに」vol.4 (2015.05.17)
神戸のミッションスクール育ちという稲垣足穂の生い立ちのせいか、非常にモダンで、無機的な独特の世界観で構成された「一千一秒物語」。確固とした世界観の中で繰り広げられるショートショートの連作には統一感があります。月と星がモチーフとして多く登場しますが、きらきらとかピカピカというかわいい感じではなく、西洋的な、変な顔とかついていそうな(笑)月と星です。すぐに殴りつけたり、突き飛ばしたり、発砲したりする登場人物(お月様含む(笑))に溢れていて、妙に暴力的なのも印象的。
一言感想をいくつか。
「お月様とけんかした話」の月の台詞(「貴様の知ったことじゃない」)がものすごく憎たらしげで笑えました。
「A MEMORY」、字で読んだ時には全くそんなことは考えませんでしたが「たぶんこんな晩だったろうよ──」が「『夢十夜』だ……」と思ってしまった。
「月光鬼語」、また昔の大河ドラマみたいだった(笑)清水さんが時代物っぽい台詞を言うと、途端に重厚な雰囲気になるんだよなぁ、いとも簡単に。
以下に「一千一秒物語」の中から抜粋で朗読されたタイトルを書いておきます。メモとして。
月から出た人
星をひろった話
投石事件
流星と格闘した話
ハーモニカを盗まれた話
ある夜倉庫のかげで聞いた話
月とシガレット
お月様とけんかした話
A MEMORY
月光鬼語
SOMETHING BLACK
黒猫のしっぽを切った話
押し出された話
キスした人
星?花火?
自分を落としてしまった話
THE MOONRIDERS
(休憩)
星におそわれた話
月をあげる人
月のサーカス
黒猫を射ち落した話
友だちがお月様に変った話
見てきたようなことを云う人
A HOLD-UP
THE WEDDING CEREMON
自分によく似た人
どうして酔いよりさめたか?
A ROC ON A PAVEMENT
赤鉛筆の由来
星と無頼漢
A MOONSHINE
新潮文庫で「一千一秒物語」の次に収録されている「黄漠奇聞」という話が私はすごく好きで、こちらも清水さんの朗読で聞いてみたかったなぁと思いました。王国が月に侮辱されているという妄想にとりつかれて学者たちに、月を作れ、「あの新月の光輝を奪うもの」を作れ、と命じる王の狂おしさ。空に輝く三日月を襲って捕らえようという王の決意がもたらした結末の寂寞感が印象的でした。この話を読むと、何となくカミュの「カリギュラ」で「月が欲しい」というカリギュラを思い出します。皇帝カリギュラにとっては月が手に入れたいものであるのに対して、バブルクンドの王にとっては月は「許せないもの」であって全く違うのですが、なぜか何となく「カリギュラ」を思い出してしまいました。
というか、なぜ私は「黄漠奇聞」について延々語っているのでしょうか。朗読の感想は苦手なので、すぐ脱線してしまいます(笑)
朗読会の後、座談会というか雑談会というのがありまして、図々しく参加して参りました。清水さんのお話を幾つか拾っておくと、
・昔は新劇が確固としたものとしてあったので、それに対するアンチテーゼという形でアングラというものが存在しえた。(現在は違う、という文脈で)
・清水さんは、あまりどろどろしたものよりは無機的な雰囲気の作品のほうがご自分には合うと思っていらっしゃるようです。
・20歳ぐらいの頃、映画のプロデューサーに「お前をスターにしてやる」と言われて、その頃は生意気だったので「別にスターにならなくてもいい。自分のやりたいことをやりたいんだ」というようなことを言ってしまった、というエピソードを苦笑とともに披露されていました。
↑「いやいやいや、そこはスターになっておきましょうよ!」とわたくしが心の中で呟いたのは言うまでもありません(笑)
次回(10月)は清水さんセレクション「銀河鉄道の夜」です。乞うご期待。