課題文n-ro641 この道は通れないことはありませんが,たいへん危険です。

解説
この道は通れないことはありません: c^i tiu vojo ne estas neirebla のようにいうのがよいでしょう。ne estas neirebla は estas irebla ということもできますが,ne estas neirebla のほうが原文に忠実であるといえます。neirebla を *nepasebla* とするのはよくありません。前回の解説の中で述べたように,-ebl- は他動詞に付く接尾辞ですから,pasi という自動詞に付けるのは誤りです。*malpasebla*についても同じことがいえます。iri は自動詞ですが,irota vojo(道程),irebla vojo(通れる道)などのように他動詞化して使われる慣用がすでに定着しています。 前回の解説で「*nemankebla*という語はありません」と書きましたが,M.H.さんが『エスペラント日本語辞典』にこの語が載っています,と知らせてくださいました。調べてみると確かに載っているのですが,もちろんこれは誤りです。実はフランス語や,イタリア語,スペイン語などラテン系の言語を母語とするエスペランチストの中には *nemankebla*を使う人が,ごく稀ではありますが,いるのは事実です。なぜこのような誤りが起きるのかというと,ラテン系の言語にあるエスペラントの manki に当たる語,例えばフランス語の manquer, イタリア語の mancare は,いずれも自動詞としてだけでなく,他動詞の機能も持っているからです。Franca-Esperanta vortaro で manquer を引いてみると,自動詞のほうの訳語は manki,他動詞のほうの訳語は malhavi となっています。immanquable(フランス語), immancabile(イタリア語)は,他動詞の語幹(形は自動詞の語幹と同じ)に「〜されることができる」という接尾辞(エスペラントでは-ebla)が付いた語なのです。*nemankebla*を使う人は,この自動詞,他動詞を混同して,他動詞としての機能がないエスペラントの manki に -ebla を付けるという誤りを 犯しているのです。自動詞,他動詞の混同は日本語でも見られます。例えば「落下する」は自動詞ですが,これを「落とす」という他動詞の意味に使って「(物を)落下する」という誤用 に出会うことがあります。(正しくは「物を落下させる」)

たいへん危険です: g^i estas tre dang^era ですが,訳例のように sed で前節に続けるときは,g^i estas を省略することができます。*sed estas tre dang^ere* のようにいうのは,ここではよくありません。

訳例
C^i tiu vojo ne estas neirebla, sed tre dang^era.


課題文n-ro642 わたしにはこの理論はどうしても理解できません。

解説
この理論は: この課題文は「理論」を主語にして「わたしにはどうしても理解できません」という構文にしていうこともできますし,「わたし」を主語にして「この理論をどうしても理解できません」という構文にすることもできます。前者のほうが原文の構文をそのまま伝えているということはできますが,伝える情報は同じです。構文によって c^i tiu teorio または c^i tiun teorion となります。

わたしにはどうしても理解できません: teorio を主語にした場合は,estas neniel komprenebla al mi となり,teorio を目的語にした場合は,mi neniel povas kompreni となります。tute ne mi povas konsenti の tute ne mi はよくありません。ne は否定する語の直前に置かなければなりませんから,ここでは動詞の直前に置いて mi tute ne povas としなければなりません。konsenti は「同意する」という意味で,「理解する」という意味ではありません。「理解」しても「同意」しない場合がありますから,konsenti を使うのはよくありません。 「どうしても〜できません」というのは, neniel を使っていうのがよいでしょう。

訳例
C^i tiu teorio estas neniel komprenebla al mi.
Mi neniel povas kompreni c^i tiun teorion.


課題文n-ro643 このコンピューターがどうしても起動しません。

解説
このコンピューター: c^i tiu komputilo といいます。*komptilo*が3例ありましたが,発音するときに kompu- を kompreni の komp- と同じように発音されているのではありませんか。komputilo の発音はカナで書けば「コンプウティーロ」のように「ウ」を入れて発音するするのが正しいのです。この発音の習慣を身につければ,書くときに-u-を抜かすことがなくなるでしょう。

どうしても起動しません: neniel startas のようにいうのがよいでしょう。startas の代わりに ekfunkcias を使っても誤りではありませんが,「(コンピューターが)起動する」というときは,starti を使っていうのがコンピューター用語として定着しているようです。「(コンピューターを) 起動させる」というときは startigi を使っていうので,この課題文は状況によっては Mi neniel povas startigi c^i tiun komputilon.(わたしはどうしてもこのコンピューターを起動させることが出来ません)のようにいうことができるでしょう。*C^i tiu komputilo neniel deziras starti* のようにいうことはできませんが,voli を使って C^i tiu komputilo neniel volas starti ということはできます。この表現と類似の表現はヨーロッパの言語で広く使われているので,ヨーロッパではエスペラントでも日常会話ではよく使われています。

訳例
C^i tiu komputilo neniel startas.


課題文n-ro644 インフルエンザにかかったので,あなたのリサイタルには行けません。

解説
インフルエンザにかかったので: 「インフルエンザにかかかった,かかっている」は gripo trafis min または mi estas trafita de gripo のようにいうのがよいでしょう。infektig^is や estas infektita を使っていうこともできますが,これらの表現は「感染した,感染している」という,やや硬い表現ですから,「(インフルエンザに)かかった」という日常会話の表現では trafi を使っていうのがよいでしょう。ちなみに infekta(伝染性の)は,まったくの医学用語です。trafi の代わりに ataki も使えますが,trafi よりも強い感じがする表現です。

あなたのリサイタルには行けません: mi ne povos veni al via recitalo のようにいえばよいでしょう。リサイタル開催の当日の連絡であれば povas といいます。recitalo は「独奏会,独唱会」のような「ひとりで行うコンサート(音楽会)」を指す語ですから,recitalo の代わりに koncerto を使っていうこともできます。recitalo は koncerto という概念に含まれているので,recitalo の代わりに koncerto を使うことは常に可能ですが,その逆はそうではありません。「独奏,独唱」というのはステージの上にひとりしかいないというわけではなく,ピアノなどの伴奏者がいるのが普通です。 「行く」には iri ではなく veni を使っていいます。何かの催しの場合,その出演者だけでなく,その催しに関わる人や,その催しに出かける人に対していうときには,veni を使っていいますし,自分が行くつもりのリサイタルに「行きませんか」とひとを誘うときも veni を使っていいます。

参考:
C^u vi venos al la recitalo? きみはあのリサイタルに行くの?(質問者は行くつもり)
C^u vi iros al la recitalo? きみはあのリサイタルに行くの?(質問者は行かないつもり)

訳例
Mi ne povas veni al via recitalo, c^ar mi estas trafita de gripo.


課題文n-ro645 ハナコ:どこへ行くのですか。マサオ:アオキ書店です。ハナコ:わたしも行きます。(アオキ書店に行く途中のマサオが,偶然ハナコに会ったときの会話で,マサオの返事を聞いたハナコがいっしょに行く気になったという設定)

解説
どこへ行くのですか: Kien vi iras? といいます。venas を使うのはここでは誤りです。聞き手のいる所や聞き手が目指している所へ行くのであれば,venas を使っていいますが,ここではそうではないので iras を使います。状況の説明で書いておきましたが,マサオはこれから家をでるのではなく,すでに書店に向かっているのですから,iros ではなく iras を使っていわなければなりません。マサオが家の中でオーバーを着るなど外出の支度をしているのを見た家族のひとりが,マサオに声をかけるときは,Kien vi iros? というでしょう。

アオキ書店です: Al la librejo Aoki といいます。これは Mi iras al la librejo Aoki の Mi iras を省略した表現ですが,このような会話では Mi iras の省略はよく見られます。Estas al librovendejo Aoki のようにいうことはできません。「書店」は librejo または librovendejo。la librejo Aoki, la librovendejo Aoki のよに冠詞を付けることをお勧めします。

わたしも行きます: Ankau^ mi venos といいます。Ankau^ mi venas は「わたしも行くところです」という意味ですから,ここでは誤りです。iros もよくありません。聞き手が行く所へ行くのは veni を使っていいます。

訳例
Hanako: Kien vi iras? Masao: Al la librejo Aoki. Hanako: Ankau^ mi venos.


課題文n-ro646 2時にわたしの事務所においでください。(話し手は自分の事務所以外のところから電話している,という設定)

解説
2時に: je la dua または je la dua horo といいます。誤解される恐れがないときは horo はたいてい省略されます。

わたしの事務所においでください: Bonvolu iri al mia oficejo というのがよいと思いますが,iri の代わりに veni を使った訳も減点しませんでした。この課題文のような場合に iri, veni のどちらを使うかということをイギリス人lとイタリア人に尋ねてみたところ,イギリス人は iri, イタリア人は veni を使うという返事でした。しかもイギリス人は mi kun certeco povas diri ke la g^usta frazo estas "Bonvolu iri al ...",イタリア人は italaj esperantistoj nepre dirus "Bonvolu veni al ..." のように,どちらも「必ず...」という断定的な表現を使っています。電話をかけている人は自分の事務所にいないのですから,iri, veni の意味からいえば iri を使うのが正しいはずですが,イタリア人は事務所で電話の相手を待っている自分をイメージして veni を使うというのです。今回はふたりの外国人に尋ねただけですが,もっと広い範囲の人たちに質問してみたいと思っています。ただし,今は忙しいので少し先のことになります。なお,イタリア人の回答の中で dirus が使われているのは,「そのような状況に置かれているのではないので,"Bonvolu veni al ..." ということは実際にはないのだが,もしそういう状況の中でいうとすれば」ということを表す仮定法の dirus です。

訳例
Bonvolu iri al mia oficejo je la dua.


課題文n-ro647 もしわたしがあなたの立場にいるとしたら,きっと「はい」というでしょう。

解説
もしわたしがあなたの立場にいるとしたら: se mi estus en via pozicio のようにいえばよいでしょう。estas を使うは誤りです。実際はそうでないことをいうときは,仮定法の -us を使っていいます。 「立場」には pozicio あるいは situacio が使えます。「立場」は広辞苑によれば「その人が置かれている地位や状況」という意味ですが,課題文の「立場」を「地位」の意味に取れば pozicio, 「状況」の意味に取れば situacio を使います。

きっと「はい」というでしょう: mi certe dirus, "Jes" といいます。diros のように -os を使った訳が応募訳の三分の一くらいありましたが,これは誤りです。この話し手は相手(聞き手)の立場にいないのですから,「自分なら『はい』というのだが」と思っても,実際には「はい」と発言する状況に置かれることはありえないので,-us を使っていわなければなりません。

比較:
Se ne pluvos morgau^, mi flegos la g^ardenon.(もしあした雨でなければ,庭の手入れをします。)
Se ne pluvus hodiau^, mi flegus la g^ardenon.(もしきょう雨が降っていなければ,庭の手入れをするのですが。[雨降りだからしません。])

certe の代わりに probable を使うと,「きっと」ではなく「たぶん」という意味になって,「言わないかもしれない」という含みを残す表現になります。

訳例
Se mi estus en via pozicio, mi certe dirus, "Jes".


課題文n-ro648 もしKarloのメールアドレスをご存知でしたら教えてください。

解説
もしKarloのメールアドレスをご存知でしたら: se vi scias retadreson de Karlo のようにいうのがよいでしょう。la retadreson のように冠詞を付けた訳が大部分を占めましたが,この文で冠詞を付けるのはよくありません。メールアドレスはほとんどの人が複数持っているので,冠詞を付けて尋ねると,聞き手は「Karloの例のメールアドレスってどのアドレスのことかな。何か話題にしたという覚えはないのだが」と戸惑うでしょう。

教えてください: bonvolu sciiigi g^in al mi といいます。日本語では「それをわたしに教えてください」のようにはいいませんが,エスペラントでは g^in al mi を付けていいましょう。sciigi g^in al mi は sciigi al mi g^in という語順にすることもできます。「ご存知でしたら教えてください」というのは丁寧な言い方ですから,sciigu ではなく bonvolu sciigi というのがよいでしょう。

訳例
Se vi scias retadreson de Karlo, bonvolu sciigi g^in al mi.


課題文n-ro649 当会会員のメールアドレスは公表されていません。

解説
当会会員のメールアドレスは: 「当会」は nia asocio, nia societo, または nia rondo, nia klubo などが使えるでしょう。nia は c^i tiu とすることもできます。この解説では c^i tiu societo を使いますが,これはこの表現を特に勧めている訳ではありません。 「当会会員」は la membroj de c^i tiu societo のようにいうことができます。membroj を冠詞付きの複数にするのは,会員全員を指すからです。無冠詞の membro は「ある会員のひとり」を指しますし,la membro は「特定のひとりの会員」を指し,無冠詞の membroj は「複数の不特定の会員」を指すことになります。 「メールアドレス」は la retadresoj と冠詞付きの複数形にします。無冠詞の retadresoj は「(会員の)メールアドレスのうちのいくつか」を指しますから,ここでは「すべてのメールアドレス」を指す冠詞付き複数形 la retadresoj を使います。la membrajn retadresojn のようにいうことはできません。

公表されていません: ne estas publikigitaj といいます。「...されていない」という現在の状態を表わすときは,ne estas ...-ita(j) という形を使っていいます。「公表する」は publikigi を使っていいましょう。『エスペラント日辞典』には publiki = publikigi と載っていますが,publiki はほとんど使われいないので,PIV や Revo(ネット上のエスエス辞典)には載っていません。

訳例
La retadresoj de la membroj de c^i tiu societo ne estas publikigitaj.


課題文n-ro650 マサオはその会員制のクラブの会員です。

解説
マサオは...の会員です: Masao estas membro de ... といいます。la membro と冠詞を付けるのは誤りです。その会員制のクラブの会員は何人もいて,マサオは, そのうちのひとり(unu el la membroj)であるからです。

その会員制のクラブ: la fermita klubo または la ekskluziva klubo というのがよいでしょう。PIV では privata を publika の対義語としていますが,これには異議を唱える人もいますし,privata には「秘密の」という意味もあるので,「会員制の」というときは fermita か ekskluziva を使うのがよいでしょう。ここでは fermita と ekskluziva は同じ意味ですが,下に挙げる文のように,副詞形で使われるときは互換性が失われます。

参考:
C^i tiu nag^ejo estas ekskluzive uzata de la membroj.(このプールは会員しか利用できません。*fermite uzata*は不可)

訳例
Masao estas membro de la fermita klubo.