課題文n-ro671 わたしはその耳の遠い老人が聞こえるように,大きな声でゆっくり話しました。

解説
わたしは大きな声でゆっくり話しました: mi parolis lau^te kaj malrapide のような訳が大部分を占めましたが,ここでは話した相手を明示するほうがよいので,al la duonsurda maljunulo を付けます。エスペラントでは日本語では言わないことでも補わないと不完全な文になることがあります。例えば,相手に自分の言っていることが聞こえているかどうかを確かめる「聞こえていますか」というのは,C^u vi povas au^di min? といいますが,日本語では言っていない「あなたは」と「わたしの言っていること」というのを補っていますね。
「聞こえる」というときは au^skulti ではなく au^di を使っていいます。

参考:
C^u vi au^das ion?(何か聞こえますか)
Ne. Mi au^skultas, sed au^das nenion.(いや,聞いているのですが,何も聞こえません)

その耳の遠い老人が聞こえるように: これをそのまま訳すと por ke la surda maljunulo povu au^di となりますが,「わたしは大きな声でゆっくり話しました」を上に挙げたようにいうと,la surda maljunulo が既に出ているので,ここでは li を使って por ke li povu au^di min というのがよいでしょう。前回の解説で述べたように,por ke で始まる節では動詞が -u の形を取ることに注意してください。duonsurda という語もありますが,surda は Tute ne posedanta, au^ posedanta tre malfortan kapablon au^di(聴力ががまったく無い,または非常に弱い)という意味ですから,duon-を付ける必要はありません。

訳例
Mi parolis lau^te kaj malrapide al la surda maljunulo, por ke li povu au^di min.


課題文n-ro672 結局,その老人はわたしの言ったことが分かりませんでした。
解説
結局: ここでは post c^io を使うのがよいでしょう。fine, finfine などを使うのは誤りではありませんが,これらの語を否定文に使うことに違和感を感じる人がいます。つまり Finfine li venis.(結局,彼はやってきた)は抵抗のない表現ですが,Finfine li ne venis.(結局,彼はやって来なかった)には違和感があるというのです。もちろん,このような慣用が確立しているわけではありませんから,無視しても構わないのですが。

その老人はわたしの言ったことが分かりませんでした: la maljunulo ne komprenis min というのが簡潔な表現です。la maljunulo ne komprenis tion, kion mi diris al li または tion を省略して la maljunulo ne komprenis kion mi diris al li のようにうこともできます。この diris を parolis とするのはよくありません。diri ion, paroli pri io という形で使うのがよいでしょう。parolo を使うときは単数形で使います。 parolo は unu au^ pluraj vortoj, esprimantaj senton au^ penson(気持ちや考えを表す一つまたは複数の語)という意味です。
「分かりませんでした」は au^di ではなく,kompreni を使っていいましょう。聞こえても理解できない場合があるからです。

訳例
Post c^io la maljunulo ne komprenis min.


課題文n-ro673 マサオの父親は高齢ですが,耳はよく聞こえます。
解説
マサオの父親は高齢ですが: la patro de Masao estas maljuna, sed のようにいうことができます。estas maljuna は estas grandag^a, havas grandan ag^on, havas altan ag^on などのようにいうこともできますが,estas grandag^o は誤りです。Rozo estas floro(バラは花である)ということはできますが,これは floro が rozo の上位概念であるからです。上位概念というのは「概念が外延(ある概念の適用されるべき事物の範囲)に関して含み含まれる関係にあるとき、含む方の概念」を指す語ですが,この説明は正確ではありますが分かりにくいので,噛み砕いていえば,「バラは花という語が示す事物の一つである」ということです。*La patro de Masao estas grandag^o といえないのは,la patro de Masao というのは grandag^o(この語そのものもよくなくて granda ag^o というのが正しい表現)の中に含まれていないからです。La patro de Masao estas grndag^ulo(マサオの父親は高齢者です)ということはできます。La patro de Masao estas grandag^a という表現も可能です。これは *Tiu floro estas belo とはいえませんが,Tiu floro estas bela ということができるのと同じです。日本語の「秀才」という言葉は「優れた学才」という意味(抽象名詞)と「優れた学才を持っている人」という意味(具象名詞)がありますが,「高齢」(抽象名詞)という言葉には「高齢の人」(具象名詞)という意味はないので,人を指していうときは「高齢者」といわなければならないのと同じです。A, B という二つの名詞を A estas B で表わすことができるのは,どちらも具象名詞(見たり触れたりすることのできる物や人を表す名詞, libro, homo など)であるか,あるいはどちらも抽象名詞(見たり触れたりすることのできない抽象概念を表す名詞, amo, paco など)でなければなりません。
なお,「高齢者」というのはWHO(世界保健機関)の定義では65歳以上の人を指します。

耳はよく聞こえます: havas bonan orelon, bone au^das などのようにいいます。聴覚,聴力を表わす orelo は単数で使うのが普通です。「聞く」のは「耳」ではなく人ですから,la oreloj povas bone au^di というのは誤りです。liaj oreloj bone au^deblas も誤りです。au^debli は La sono bone au^deblas(その音はよく聞こえる)などのように使われる語です。

訳例
La patro de Masao estas maljuna, sed li bone au^das.


課題文n-ro674 音楽家はいい耳を持っています。
解説
音楽家は: 日常会話の場合には muzikistoj のように無冠詞複数を使うのが一般的です。la muzikisto, la muzikistoj, muzikisto というのは誤りではありませんが,改まった表現に感じられます。

いい耳を持っています: havas bonan orelon というのがよいでしょう。聴覚,聴力を表わす orelo は単数で使うことをお勧めしますが,ヨーロッパでは母語の影響で複数形を使う人も多くいます。 havas bonan orelon por muziko は「音楽がよく分かる」という意味ですから,ここでは por muziko は削除しましょう。訳例では主語が複数で,orelo は単数になっていますが,これは複数の人がひとつずつ持っているものを表わすときは,単数形を使うのが普通であるからです。

参考:
C^iuj levis la manon.(全員が手[片手]を挙げました)
C^iuj levis la manojn.(全員が両手を挙げました)

訳例
Muzikistoj havas bonan orelon.


課題文n-ro675 犬は鼻が人間よりもずっとよく効きます。
解説
犬は鼻が人間よりもずっとよく効きます: hundoj を主語にしていうこともできますし,nazo を主語にしていうこともできます。hundoj を主語にした場合は訳例のようにいいます。 nazo を主語にした場合は La nazo de hundoj estas multe pli akra ol tiu de homoj のようにいうのがよいでしょう。hundoj を主語にした場合は nazon は無冠詞ですが,nazo を主語にすると de hundoj に限定されるので la nazo と冠詞を付けることに注意してください。「ずっと」は multe で表わしますが,この語を入れてない訳が多く寄せられました。イヌの嗅覚はヒトの数千から数万倍と言われていますから,人の嗅覚と比べていうときは単に pli akra だけではなく multe を付けていいます。bona よりも akra を使っていうほうがよいでしょう。ザメンホフには havi bonan nazon(鼻が利く,勘がよい,わずかな兆候から役に立つ事柄を見つけ出す能力を持っている)という意味の用例があります。

参考:
mi havas bonan nazon(わたしは勘がよい)
(Fabeloj, Tria Parto, p.519)

訳例
Hundoj havas multe pli akran nazon ol homoj.
La nazo de hundoj estas multe pli akra ol tiu de homoj.


課題文n-ro676 ツバメはスズメよりずっと速く飛びます。
解説
ツバメは飛びます: hirundoj flugas というのがよいでしょう。la hirundo や hirundo を使うと改まった感じを伴います。イギリスで発行された BILD-LIBRO PRI BESTOJ(動物図鑑)には,La gorilo estas ...(ゴリラは...)のようにいろんな動物が説明されています。BESTOJ に冠詞が付いていないのは,この図鑑は全ての動物を載せていないからです。あらゆる動物をひとつ残らず採録しているのなら,LA BESTOJ となります。そのようなことは実際には可能であるかは疑問ですが。

スズメよりずっと速く: multe pli rapide ol paseroj といいます。frue は frue matene(朝早く)などというときの「早く」を意味する語ですから,ここでは 「速く,敏速に」を表わす rapide を使います。flugas を修飾するのに rapida を使うのは誤りです。動詞を修飾するのは副詞ですから,rapide を使わなければなりません。
(註: 「修飾する」というのは「意味を限定する,ある語句にかかって意味を付け加える」ということです。)
「よりずっと速く」は multe pli rapide ol といいます。pli multe rapide ol は誤りです。

訳例
Hirundoj flugas multe pli rapide ol paseroj.


課題文n-ro677 スズメはツバメほど速く飛ぶことはできません。
解説
スズメは飛ぶことはできません: paseroj ne povas flugi といいます。ここでは paseroj ne flugas といっても,よく似た表現になりますが,厳密にいえば,同じではないので,原文の内容を忠実に伝えるには ne povas flugi というのがよいでしょう。-as と povas -i がいつも同じ内容を伝える訳ではないことに注意してください。

参考:
(1) Mi ne povas uzi la anglan lingvon en internaciaj konferencoj.(わたしは国際会議で英語を使うことができません)
(2) Mi ne uzas la anglan lingvon en internaciaj konferencoj.(わたしは国際会議で英語を使いません)
(1)は英語を使う能力がないことをいっているのですが,(2)は信条として国際会議では英語を使わないということを言っているので,英語を使う能力の有無については触れていません。従って,英語を使う能力がある場合を含みます。

ツバメほど速く: tiel rapide kiel hirundoj といいます。pli rapide ol hirundoj は「 ツバメより速く」という意味ですから,「ツバメほど速く」とは意味がまったく違います。「ツバメより速く(飛ぶことはできない)」というのは,「ツバメと同じくらい速く(飛ぶことができる)」場合を含んでいるからです。

訳例
Paseroj ne povas flugi tiel rapide kiel hirundoj.


課題文n-ro678 オオカミは日本ではずっと前に絶滅したと考えられています。
解説
と考えられています: oni pensas, ke のようにいうのがよいでしょう。kredas も使えますが,konsideras は不適当です。konsideri は「何かを選択したり,決めたりする前に考慮する」という意味です。

参考:
Antau^ ol agi, konsideru la sekvon de via ago.(行動する前に,その行動の結果についてよく考えなさい)

ずっと前に: antau^ longe または antau^ longa tempo のようにいうのがよいでしょう。multe antau^e とか treege antau^e のようにはいいません。antau^ longe は1語にしないで2語に書きます。

オオカミは日本では絶滅した: la lupoj estis formortintaj en Japanio, または la lupo ekstermig^is en Japanio などのようにいえばよいでしょう。無冠詞の lupo やlupoj を使うのは,ここではよくありません。「絶滅した」というのは「一匹も残らず」という意味ですから,「すべてのオオカミ」を指す la lupoj またはオオカミという動物の種全体を指す la lupo を使っていわなければなりません。estas formortinta という表現は antau^ longe といっしょに使うことはできません。

参考:
La lupo estas formortanta de longe en Eu^ropo.(ヨーロッパではオオカミはずっと前から絶滅しつつある)

訳例
Oni pensas, ke la lupoj estis formortintaj en Japanio antau^ longe.


課題文n-ro679 この本によると,恐竜は約2億5千万年前には現れていました。
解説
この本によると: lau^ c^i tiu libro のようにいうか,または c^i tiu libro diras, ke のようにいえばよいでしょう。diri には「本などに書いてある」という意味があります。en c^i tiu libro estas dirite, ke ... (この本には...と書かれています)というよう受身の形でも使われます。

恐竜は現れていました: la dinosau^ro jam estis aperinta などのようにいうことができます。「恐竜」は前回の課題文のように「絶滅した,一匹も残らなかった」というときには la dinosu^roj のように冠詞付きの複数形を使わなければなりませんが,ここでは dinosau^ro, dinosau^roj, la dinosau^ro, la dinosau^roj のように,単数,複数,無冠詞,冠詞付きの形のどれでも使うことができます。 la dinosau^ro aperis というと,「恐竜は(約2億5千万年前に)出現した」という意味になって,課題文の内容を正確に伝えないので,「約2億5千万年前にはすでに現れていた」という意味を伝えるには上に挙げた訳のようにいうのがよいでしょう。estis vivinta は estis vivanta としなければなりません。

約2億5千万年前には: antau^ c^irkau^ ducent kvindek milionoj da jaroj といいます。ducent kvindek は, アラビア数字を使って 250と書くこともできます。du cent と kvin dek はそれぞれ1語にして上記のように書きましょう。milionoj は数詞ではなく普通名詞ですから,*ducent kvindek milionoj jaroj のようにいうことはできないので,訳例のように da を入れていいます。

訳例
Lau^ c^i tiu libro la dinosau^ro jam estis aperinta antau^ c^irkau^ ducent kvindek milionoj da jaroj.


課題文n-ro680 これは2億8千万年前に生息していた昆虫の化石です。
解説
これは...の化石です: c^i tio estas fosilio de ... といいます。ザメンホフは物を指して「あれ」というときは tio, 人を指して「あの人」というときは tiu と使い分けていました。Fundamento de Esperanto に付いている Universala Vortaro de la Lingvo Internacia Esperanto ではそのように訳し分けてあります。しかしエスペラントが西ヨーロッパに広がる中で,西欧語の影響で物を指すときにも tiu を使う人が増えました。ただし今でも下に挙げたような使い訳が行われています。この tio を tiu に置き換えることはできません。

参考:
物を指して Kio estas tio?(あれは何ですか)
人を指して Kiu estas tiu?(あの人は誰ですか)

fosilio に冠詞を付けるのはよくありません。冠詞を付けるのは,聞き手がその化石のことを既に聞いて知っていた場合に限ります。

2億8千万年前に生息していた昆虫: insekto, kiu estis vivanta antau^ ducent okdek milionoj da jaroj などのようにいえばよいでしょう。estis vivanta の代わりに vivis を使っていうこともできます。estis vivinta は誤りです。上に挙げたのと同じ理由で,insekto は無冠詞で使います。昆虫が2匹以上であれば insektoj, kiuj estis vivantaj(または kiuj vivis) といいます。

訳例
C^i tio estas fosilio de insekto, kiu estis vivanta antau^ ducent okdek milionoj da jaroj.