"あんたの涙は.....?"の巻

あき(以下A)「もう、いい加減に泣くのやめたら!」

みのる(以下M)「だってしょうがないじゃん、涙が出てきて止まらないんだから。別れたばかりなんだよ、俺。あきちゃんにそんな気持解るわけないよな。」

A「はいはい解りません。と言いたいとこだけどアッシだって人間よ。悲しみくらい解るわよ。」

M「本当かな?血も涙もないって感じだけど。」

A「そりゃ何時も冷静な様に振舞っているけど中身はもうボロボロって言うときもあるのよ。」

M「へぇ〜、信じられないな。」

A「まあいいわ、信じてもらわなくても。でもねぇ.....」


----------と、ドアが開きお客様----------


A「あっ、ヒロ君(以下H)いらっしゃい。ちょうど良かった。みのるちゃんたらさっきから泣いてばかりなのよ。ヒロ君からも何か言ってあげてちょうだいよ。」

H「またですか?何時もそうなんだから。」

A「ほんと、ほんと。もっとしっかりしてもらいたいもんだわ。」

H「あきちゃん、ボトルセットで。」

A「あいよっ!ところでヒロ君、あんたも眼が真っ赤よ。まさかあんたも....。」

H「僕はみのるちゃんとは違いますよ。実は今、映画見てきた帰りなんです。」

M「いいよなヒロ君は。一緒に映画行ける人がいて。」

H「一人で行ったんだよ。」

M「うそ、うそ。ヒロ君が一人で行くわけないじゃん。」

A「うるさいわね、あんた。で、ヒロ君、何見てきたの?」

H「〃セントラル・ステーション〃っていう映画です。」

A「ああ、ブラジルの映画ね。」

H「あきちゃんも見たんですか?」

A「ちょうどこの間の月曜日。アッシ、目頭が何度も熱くなっちゃったわよ。」

H「そうですよね。本当にいい映画だったです。」

A「そうね。アッシもそう思ったわ。久しぶりに映画らしい映画を見たっていう気持になったわね。」

M「そんなに良かったんですか?」

H「主役の女優さんがとっても良かった。」

A「フェルナンダ・モンテネグロね。ブラジルでは最高の女優なのよ。」

H「そうそう、あと子役も良かったな。」

A「その二人も良かったけど彼女の親友を演った、マリリア・ペーラも良かったわ。」

M「どんなんですか?」

H「代筆業を営んでるオバサンとお父さんを捜している子供の話。」

M「代筆業?何ですかそれ。」

A「本当にあんたは幸せな子ね。日本では解らないだろうけどブラジルを初め、世界の至る処では字が書けなかったり、読めなかったりする人が沢山いるのよ。そんな人達のために手紙なんかを書いたりしている仕事。それで生計を立てて人なのよ、その主役のドーラっていうオバサンは。」

H「それでね。子連れの母親が離れて住んでいる父親に宛てて代筆を頼むんですよ。」

A「でもその女、性悪でね。頼まれた手紙を出さないで捨てちゃったりしちゃうのよね。」

M「それじゃ、ネコババじゃないですか。」

A「そうよ。」

H「それでね。その後すぐ母親がバスにひかれて死んじゃうんだ。」

M「可哀想だね。また涙が出てきちゃったよ。」

H「それから何だかんだあって、ドーラと子供(ジョズエ)の二人が父親を捜す旅にでるわけだよね。」

M「へぇ〜」

H「旅の途中からドーラの心の中がどんどん変っていくのが判るんだ。」

A「本当に心理描写がうまいわね。」

M「それでお父さんは捜せたんですか?」

H「最初の住所にはもういなくて、また旅が始まるんだよね。」

A「途中でお金無くなっちゃったりしてね。」

H「ジョズエって子、頭の回転が良いのかな、お金が無くなった時ドーラの代筆でお金稼ごうって言うんだよ。それで、ちゃんと稼いでさ。」

A「そう。この時点でドーラとジョズエの心の絆がしっかりと結ばれた感じだったわね。それまでお互い何かぎくしゃくしてたんだけど、だんだんドーラの方に母性本能みたいな物が生まれてきたのよね、きっと。それを何時しかジョズエも感じる様になってきたのよ。」

H「お金を手にしたあとで二人一緒に写真撮るじゃないですか。そのときの二人の顔、よかったな。」

M「それでお父さんは?」

H「次の所でもまたいなくて。」

M「おさき真っ暗っていうんですか。」

A「本当にあんた、うるさいわよ。」

H「でもそこで捜しているお父さんの息子二人に出会うわけ。」

M「本当の家族だったんですか?」

H「そうだったんだよ。でも暫く4人で時を過ごした後にドーラは自分の役目が終わったことに気づいて、というか悟ったんだよな、きっと。夜明け前に家を出てバスに乗って帰っちゃうんだよ。」

A「それを感じたのかジョズエは眼を覚ましてバスの後を追っかけるのよ。」

H「バスの中でドーラがジョズエに宛てて手紙を書くシーンは最高でしたよね。」

A「あら、みのるちゃん。また泣いてるの?」

M「聞いてたら涙が出てきちゃったんです。」

A「本当にしょうがない子ね。この映画、そんなセンチメンタルな面ばかりじゃないのよ。どんなに日本の国が幸せか、あんたも早く見に行って自分もどんなに幸せかを解ってきなさい。」

M「は〜い。今度の休みの日にでも行ってくるよ。」

A「そうね。是非見に行って。」

H「本当に後味の良い映画でした。」


----------とそこにお客様----------


A「あら、恵ちゃん(以下K)いらっしゃい。あれ?あんたも目がぐしゃぐしゃじゃないの。まさかあんたまで誰かにふられたなんて言わないでしょうね。」

K「そうじゃないんです。僕〜、花粉症なんです。」

A「あっ、そうなの。じゃ、何しよっ。」

(終り)



*この"セントラル・ステーション"は恵比寿のガーデンシネマで上映中 です。
この春、一番のお薦めです。
見た後の感想もお待ちしています。