Jackie Ryan

This Heart of Mine


 何かそわそわしがちな春の宵。そんな時、グラスでも傾けてみては如何ですか? う〜む、とひと息入れた時に、こんな音楽がかかっていたらもう最高です。今回は、 そんな場面にピッタリなアルバムを紹介しましょう。 ロス・アンジェルス・タイムズで<綴れ織りの様な声>だと評価された、 ジャッキー・ライアンの<ディス・ハート・オブ・マイン>がそのアルバムです。
 彼女を知らない人の為に、ここで少し彼女を紹介してみましょう。メキシコ人の母と、 アイリッシュの父の間に生まれた彼女は15歳の時にはプロとして歌い始めています。 母親の影響で幼い時からフォーク・ソングを歌っていた彼女に、 エディー・ジェファーソンのバンドで歌と作詞を担当してみないか、と声が掛かった事で、 彼女の転機が訪れたのです。その後は、ジョー・ヘンダーソン、ウェイン・ショーター、 そして、バリー・ハリスなどに詞を提供しています。英語は勿論の事、イタリア語、 スペイン語、フランス語、そして、ポルトガル語にも堪能な彼女は、北アメリカを始めとして、 オーストラリア、カナダ、イタリア、スペイン、そして、日本にもツアーで訪れており、 ここ5年くらいは、ロンドンにある著名なジャズクラブ、<ロニー・スコット>定期的に出演し、 注目を集めています。アルバムデビューは2001年。 これがジャズ・チャートでベスト40入りをして、続くセカンドアルバムはトップ20入り、 そして、今回のアルバムは、トップ5入りをしただけではなく、 ダウンビート誌で4ッ星を獲得してしまい、まさに今、飛ぶ鳥も落とす勢いなのです。 それでは、紹介していきましょう。

 ピアノに寄りかかって唄い始めるようなタイトル曲の#1。オープニングとしては、 うってつけの曲ですね。ゲスト参加のアーニー・ワッツのテナーに導かれて始まる#2。 ちょっぴり皮肉っぽい歌詞が素敵ですが、それもその筈、20世紀のアメリカ文壇を代表する作家の一人、 トゥルーマン・カポーティが作詞をしているのです。しっとりとした歌声で、去り行く夏を唄った#3。 ゲスト参加のハーモニカの名手、トゥーツ・シールマンズの奏でるハーモニカが、 なんて素晴らしいのででしょうか。大人の雰囲気一杯の#4。エリントンのご機嫌なナンバー#5。 アレンジが楽しさを倍増させてくれますね。葉巻を燻らしている様なシーンが思い浮かぶ#6。 ポルトガル語で唄う#7。ストリングスとアレンジを担当している横倉裕のクレジットを見て、 驚いたのは私だけではありますまい。そのストリングスが雰囲気を盛り上げてくれます。 ドラマティックな歌唱で迫る#8。ナット・キング・コール・トリオ風の伴奏で贈る#9。 指でも鳴らしたくなりませんか?フルートが夜を感じさせてくれる#10。 彼女の実力が遺憾なく発揮された#11。途中のバンドのソロもいいですね。 随分以前にこのコーナーでも紹介した事のあるデニス・ジャンナ。彼女が作詞して、 このアルバムにも参加しているアミーナ・フィガロヴァが作曲した#12。 不思議な雰囲気が漂います。勿論、デニスのアルバムにも入っていました。 爽やかな春の風が見える#13。このアルバム最後の#14は、彼女の作詞です。 何気ない季節の移り変わりを唄っていますが、彼女の優しさが感じられますね。

 如何でしたか?もうお酒も大分進んだことでしょう。春とはいわず、どんな季節にも、 というより、どんな夜にもピッタリなアルバムでした。アルバムの番号は、33 JAZZ 089 (輸入盤)です。 日本盤も近日発売される予定です。ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。