TILL BRONNER

That Summer


 朝晩めっきり涼しくなって、ほっと一息ついている方も多いのではないかと思いますが、 そんな秋に向かっていく季節の間にピッタリのアルバムを紹介しましょう。今、チェット・ベイカー の再来だと騒がれているドイツのトランぺッター、ティル・ブレナーの<ザット・サマー>です。彼のサウンドは、 ジャズばかりでなく、AORのお好きな方にもきっと気に入ってもらえることと思います。

 彼はドイツでは知らない人がいないくらいの有名若者ですが、トランペットの実績は、ジャズばかりではなく、 クラシック音楽の世界でも相当知られています。また、プロデュース畑でも大いに腕を振るっているばかりか、 ジャズの名盤と言われているジャケット写真を撮り続けた写真家、ウィリアム・クラクストンの半生を描いた映画 <JAZZ SEEN>での音楽監督を手掛けるなど、その才能は留まるところを知りません。今、ドイツばかりではなく、 世界的にも大注目のアーチストです。今回2年半ぶりに発売されたこのアルバムでは、 前回のアルバムでのクラブ的な面は影をひそめ、よりアコースティックなサウンドで、 またヴォーカルを大きくフューチヤーして爽やかなアルバムに仕上がっています。それでは紹介していきましょう。

 ミュートのトランペットの音色が何ともいい#1。マイケル・フランクスとケニー・ランキンを足して2で割った、 という表現がピッタリなヴォーカルですね。とても温かみを感じる#2。それもそのはず、多分奥方に捧げているのでしょう。 クレジットにLIAMに捧げる、とありますね。このアルバムを作るのにインスピレーションを与えてくれた小屋の名前からとった#3。 その小屋の中にはピアノがあって、その音を聞いた途端、次々と曲が浮かんできたと言います。 作詞のロバート・ホーアと共に休日を過ごしていたカナダのオンタリオ。 確かにこのアルバム全体がリゾートで過ごしている気分にさせてくれますね。 1930年代に活躍したトランぺッター、アイナー・アロン・スワンの作品#4。 ラテンタッチの演奏に重ねて吹かれるティルのトランペットがこの曲の魅力を倍増させているばかりでなく、 歌声もどことなく気だるい感じで、失恋した後の脱力感を感じ取る事ができます。このアルバム全体を通して ボサ・ノヴァのアレンジが多いのは、もうお気付きになっていると思いますが、#5では、そのボサ・ノヴァの神様、 アントニオ・カルロス・ジョビンの曲を取り上げています。最初は日本用のボーナス・トラックとして録音された#6。 マイケル・フランクスの代表曲です。ボーナス・トラックではなく、本編に入れた訳が分かる出来ですね。 遊園地の不思議な館に入っている様な感じがする#7。何気ないギターがとっても気にいってしまうのは私だけじゃないでしょうね。 詩と曲が本当にピッタリな#8。日差しの強い公園の木陰から周りの風景をボーッと見ている。そんな情景が浮かんでくる#9。 眠りを誘う#10。心が落ち着きます。夕陽が沈んでいくさまを、彼はあの小屋から見ていたのでしょう。 私も7月にカナダに行ってきましたが、夕陽が落ちる時のシーンを想い出してしまいました。アルバム最後の#11は、 二つ目のインストルメンタル。タイトルを良く表現しています。夜空に輝く星を誰かと見る事が出来るでしょうか?さて、 本編はここで終わりですが、日本盤には、ボーナストラックとして、#12が追加されています。 そして両方にシークレットトラックとして、数分後に<オクター・ビル>という曲が入っていますのでお聴き逃しなく。

 如何でしたか?夏の暑さが去って、いよいよ秋に突入という時に最適のアルバムだと思いませんか? 彼のトランペットやヴォーカルは言うまでもありませんが、 オリジナル曲での詩を担当しているロバート・ホーアにもこれから注目していきたいですね。 アルバムの番号は、06024 9818670(輸入盤)UCCV-1061(国内盤)です。 ジャズのトランペットかヴォーカルのコーナーに行ってみてください。