DANY BRILLANT

”JAZZ...A LA NOUVELLE-ORLEANS"


 このところ、朝晩はめっきり秋らしくなってきましたが、あなたにとって秋に聴く音楽は何でしょうか。 やっぱり秋はシャンソン?お洒落なジャズ? そんな二つを同時に聴く事のできるアルバムがあるんです。 それが、今回紹介するダニー・ブリヤンの<Jazz...パリからニューオリンズへ >です。

 彼を知らない方の為に少し彼を紹介してみましょう。
 1965年にアフリカの地中海沿いにあるチュニジアの首都チュニスで生まれた彼は1歳の時にパリの近郊に移り住みます。 彼の音楽にアラブ文化やイタリア文化の影響を見る事のできる訳がそんな所にあるのは言うまでもありません。 (お分かりでない方の為に少し説明すると、アラブの文化は家族の影響で、イタリア文化は、 その家族が長年住んでいたチュニスがイタリアのシチリア島に近かったため、 チュニス自体がイタリアの影響を強く受けているからなのです。)オペラ好きの父親の影響で早くから音楽には親しんでいたかれは、 20歳の時に祖父からもらって幼い時から弾いていたギターを片手に、サン・ジェルマン・デ・プレの路上で友人と歌い始めます。 それがカルチェ・ラタンのクラブ<トロワ・マイエ>の経営者の目にとまって店に出演する1週間の契約をもらうのです。 そして、この契約は5年間にも及んだのです。その間、1986年には映画出演とその映画に曲を提供するチャンスにも恵まれましたが、 完成した映画には、彼の出演場面も、提供した曲もカットされていたのでした。しかし、1990年、 とうとう彼はワーナーとの契約にこぎつけます。そして翌年に映画でカットされていた<シュゼット>という曲でデビュー、 そのヒットから作られたファーストアルバムもヒットし、このアルバムで6作目を数えます。ジャズを中心に、アラブ、 イタリアなどの影響を加味した音楽は、一見古そうで新しいく、皆さんには鮮烈な印象を与える事でしょう。それでは、 紹介していきましょう。

 とっても格好良いビッグバンドで始まる#1。フランス語に違和感を感じません。 「アズナブールとシナトラが自分の先生だ!」と歌う#2。ドライブ感いっぱいの、これも格好良いナンバーです。 ビッグバンドの演奏する姿が目に浮かんできそうな#3。シャンソン風の#4。 別れてしまった恋人との事を想い出して歌うちょっとセンチな曲でした。トランペットのソロで始まる#5。 彼のデビューのきっかけになったサン・ジェルマン・デ・プレの思い出を歌っています。途中に入る語りも洒落てます。 アラブ風な怪しいクラリネットのソロで始まる#6。歌われるのは千夜一夜物語り?ではありませんが、 待ちこがれている<君>のお話なのです。#7のタイトルを見て、はっ!!とした人は、相当な映画通ですね。 そうフェデリコ・フェリーニの映画のタイトルと同じなのです。カンツォーネ風のこの曲、あなたにとって、 甘い生活って、いったい・・・。映画音楽のような#8。父親に対する愛情を歌った涙物の曲です。 内容は本当の父親あてなのかどうか分かりませんが、歌詞カードの裏表紙に、<このアルバムを父親に捧げる> ってありましたっけ。ラテンフレーバーいっぱいの#9。 今では日本ではみる事の出来なくなった昔懐かしい大きなクラブのフロアーで踊りたくなってしまいます。 とってもお洒落な時代を懐かしむのも良いものです。彼が先生と尊敬してやまない一人、フランク・シナトラの十八番#10。 シナトラもカウント・ベイシーのビッグバンドでスウィングしていましたが、彼も負けずに格好良くスウィングしています。 ここまでがオリジナルアルバムに収録されている物ですが、ここからは日本盤でのボーナストラックです。 イタリアの方言で歌われる#11。途中に出てくるジプシー風のギターがよそ者を現しているようで面白いですね。 ちょっとアメリカを皮肉っていて、それも共感できます。もうひとつのボーナストラック#12は、シャンソンファンにはお馴染、 アズナブールの名曲です。はじめは打ち込みが入って少し驚きましたが、歌を聴いてひと安心。 最後はシャンソンの秋に浸っていただけますよ。
 如何でしたか?所謂日本人の持っているシャンソンのイメージとジャズとがうまく融合したという感じでしたね。 このアルバムの歌詞カードの最初のページには、ルイ・アームストロングの言葉が書かれているのですが、 彼が<どんな場所で演奏しようと、僕の魂はニューオリンズにある・・・最高の音楽を演奏していた町 ・・・あの音楽が今でも変わらず美しいと思える>という言葉は、ダニーの音楽に対する思い入れそのものである気がします。 #10、12を除いて彼自身の作詞、作曲。そちらの才能も並大抵のものではありません。これから日本でも大ブレイクの予感がするのは、 決して私だけではないでしょう。アルバムの番号は、SICP 618 でソニーミュージックから出ています。 ジャズのヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。