Lady Kim

Left Alone


 10月に入ってすっかり秋の気配を感じるようになりましたが、そんな秋の夜長に最適なアルバムを今回は紹介しましょう。 ビリー・ホリデイが甦ったと言われるレディー・キムの<レフト・アローン>がそのアルバムです。お部屋は暗く間接照明で、 ヴォリュームは大きいか、小さいかでお聴きになって下さいね。

 彼女、レディー・キムを知らない方のために、少し彼女を紹介しておきましょう。
 はっきりとした年齢は分からないのですが、おそらく1960年代後半から70年代前半にアメリカはメイン州に生まれた彼女は、 本名を、キンバリー(キム)・ゾンビックといい、ボストンで大人になるまで過ごしています。 最初はバーブラ・ストレイザンドの大ファンだったものの、高校の時にTVで放送していたダイアナ・ロス主演の <ビリー・ホリデイ物語>を見てビリー・ホリデイのレコードを熱心に聴く様になります。マサチューセッツ大学時代、 レゲエバンドのヴォーカリストとしてジミー・クリフなどと共演して活躍した彼女は、その後、 ロックミュージカルの主役をしたり、ジャズやファンクバンドでの活動を経て、2001年に、 1986年初演のオフ・ブロードウェイ・ミュージカル、<レディー・デイ・アット・エマーソンズ・バー・アンド・グリル> の主役に抜擢され、ビリー・ホリデイが甦ったという評判で、日本にも2002年以来毎年来日 (ライナー・ノーツには2003年以来になっていますが、それは間違いです)、赤坂のジャズクラブB Flatで上演し、 好評を博しています。この物語は、ビリー・ホリデイ晩年、死を迎える数ヶ月前のとある日、 フィラデルフィアにある小さなバー&グリルで行われたライブという形で進行していくミュージカルで、 初演はロネット・マッキー、日本では、1989年にちあきなおみが演じて大評判になったものです。 今回のアルバムでは、ビリー自身が録音している物は一曲だけで、あとの物は、スタンダードにも関らず、 ビリーが一度も録音していないナンバーばかりです。それでは、紹介していきましょう。

 ビリー・ホリデイ作詞、マル・ウォルドロン作曲の#1は、ビリーが吹き込んだ事のない曲。 きっとビリーが吹き込んでいたら、こんな様になっていたかもと思わせるナンバーです。 当時のビリーの心境がうかがわれて、とても哀しくなってしまいますね。40年ほど前に、 当時前衛活動をしていたアビー・リンカーンが歌って話題になった#2。 底に流れているアフリカの息吹を感じる事があなたにはできるでしょうか?誰が歌っているのを聴いても感動する名曲#3。 氷がグラスに当る音が聞こえたような気がしませんか?ロイド・メイヤーズのピアノがとてもブルージーでいい#4。 淋しい秋の夜に聴いていると、本当に恋人が今すぐにでも欲しい!と思ってしまいそうな#5。軽いスウィング感が気持ち良い#6。 ちょっとダイアナ・ロスを彷彿させる#7。ちょっと軽すぎるかな?と思う#8。トリオの演奏がいいですね。 とても丁寧に歌っている#9。ビリーが歌ったら、こうなっていたかもしれませんね。 彼女が大ファンのバーブラ・ストレイザンドが主演したミュージカル映画の主題歌#10。 バーブラとは違うアプローチを見せていて素敵です。アビー・リンカーンが作った#11。 人生を鳥に例えている詞がとても素晴らしく、キムもそれを良く伝えています。ビリー・ホリデイのオハコ#12。 その内容はビリー自身の悲惨な体験を基にしています。 キムが主演した舞台<レディー・デイ・アット・エマーソンズ・バー・アンド・グリル>でも、歌われるので、 彼女もその内容を良く理解して歌っています。甘ったるい声の奥に悲惨な情景が見える様な気がしますね。

 如何でしたか?秋の夜長、間接照明の当る部屋にピッタリなアルバムではないでしょうか?彼女の歌を聴いて、 そのステージを観たくなった方も多いことかと思います。次の機会を見逃さないようにして下さいね。 ビリー・ホリデイの様で、まったく違ったレディー・キムの歌。これから期待大です。アルバムの番号ですが、 VRCL 18818 でヴィレッジ・レコードから出ています。(販売はソニーからです。) ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみてください。