CAETANO VELOSO & GAL COSTA

DOMINGO


 ようやく木々の緑が眩しく感じられる様になりましたが、こんな季節は、朝もう少し寝ていたい気分になりますね。 そんな時にうってつけのアルバムを紹介しましょう。それが、 この5月に数年振りに来日公演を行うブラジル音楽界の重鎮カエターノ・ヴェローゾと ガル・コスタが共演する二人のデビューアルバム、<ドミンゴ>です。

 <ドミンゴ>。ポルトガル語で日曜日を意味するこの言葉の様に、このアルバムが日曜の朝、 ベッドから起きたくない気持ちでぼんやりしている時に流れていると、更に心地よくなって、 そのまま二度寝をしてしまうかもしれません。でもご安心を。今日は日曜日ですからね。 その他にもプールサイドに居る時など、本当にボ〜っとしているにはピッタリなアルバムです。

 さて、ガル・コスタに付いては、このコーナーのNo.117を参考にして頂くとして、カエターノ・ヴェローゾに付いて、 知らない方の為に少し紹介しておきましょう。
 1942年にブラジルのバイーヤ地方で生まれたカエターノ・ヴェローゾはジョアン・ジルベルト に影響されて1960年代に音楽活動を始めます。そして、数枚のシングルを発売した後に発表したデビューアルバムがこの <ドミンゴ〜日曜日>なのです。しかし、ブラジルでは軍事政権の嵐が吹き荒れようとしていました。 ジルベルト・ジルらとトロピカリズモという音楽運動(トロピカリア)を始めたのですが、 それが時の軍事政権に目を付けられて投獄れロンドンへと亡命する事になるのです。そして、 3年ほど後帰国してからは活発に活動を再開し、1989年にアート・リンゼイとピート・シェラーのプロデュース で出したアルバム<エストランジェイロ>が世界的にヒットしてからブラジルで最も注目されるアーチストとなって現在に至っています。 今公開中の<愛の神、エロス>というオムニバス映画の中でも、ミケランジェリ・アントニオーニ監督の撮った映像で音楽を担当。 60歳を越えてからもその活動意欲が衰える事はありません。それでは紹介していきましょう。カエターノと言えばこの曲、 と誰もが一押しの#1。気だるい雰囲気がボサノヴァファンの心を引き付けますね。ガル・コスタの歌声も、 まだこの頃はキンキンしてなくて心地よいですね。故郷に対する郷愁が強く感じられる#2。 初めに出てくるフルートの音色が情景を浮かばさせてくれる#3。丁寧な歌い方がまだ幼い(当時22歳) ガルがそこに見えてきます。カエターノの危なげな音程が、かえって曲の魅力となって聞こえる#4。 タイトル曲#5は、あっという間に終わってしまいますが、これからやって来る政治的な弾圧を予感させるみたいで少し怖いですね。 カエターノとジルベルト・ジルが作った#6は、もの淋しげな自分の気持ちが良く表現されていて胸が痛くなります。 エドゥ・ロボが作ったこの#7はジョアン・ジルベルトをちょっと思い出させます。初めて会って、ドキッ!っとした事ありますよね。 そんな気持ちが良く出ている#8。懐かしいサンヴァ・カンソンの香りがする#9。そう言えば、ガルの最新作も懐かしい サンヴァ・カンソンを歌ったものでしたね。イタリア映画のワンシーンを見ているかの様な#10。 #7同様ジョアン・ジルベルトを思い出させる#11。二人がどんなにジョアンを愛していたかが分かります。 アルバム最後の#12は、始めてカエターノとガルの二人が一緒になって歌います。眠りからまだ覚めない感じで、 これからまた寝てしまいそうです。

 如何でしたか?春の朝、眠い目を擦りながら朝日を浴びている、そして、やっぱりもう少し寝ようかな?っていう、 そんな姿が想像できますね。このアルバム以降、軍事政権による弾圧で、当時のボサノヴァの歌い手はことごとく海外に亡命していき、 ここにボサノヴァは終焉を迎える事になるのです。最後のボサノヴァのアルバムといってもよい、この二人のデビューアルバムに、 また違った思いを抱くのは私だけでしょうか。
 アルバムの番号は、UICY-3520 でユニバーサルから出ています。 ワールドミュージックのブラジルのところへ行ってみて下さい。