CELSO FONSECA & RONALDO BASTOS

JUVENTUDE/SLOW MOTION BOSSA NOVA


 前回紹介したセルソ・フォンセカの<リヴ・ゴーシュ・リオ>は梅雨明け前にお届けしたとても爽やかなアルバムでしたが、 今回紹介する彼と、彼とは切っても切れない縁のある作詞家、ホナルド・バストスとが共同で製作した4年前のアルバム <スローモーション・ボサノヴァ>はここ数年のボサノヴァのアルバムの中でも特にお勧めのアルバムです。
何時か紹介したいと思っていたのですが、今回、やっと紹介する事ができました。セルソ・フォンセカ については前回#125を参照していただくとして、今回は、その相棒、ホナルド・バストスについて少し紹介しておきましょう。
 ホナルド・バストスは、1948年の生まれといいますから今年57歳。プロの作詞活動を始めたのが1967年19歳の頃からでした。 特にミルトン・ナシメントとはその頃から知り合って、70年代にはミルトンとの共同作業で代表作を次々と発表していきます。 ミルトンだけではなく、アントニオ・カルロス・ジョビン、ジャヴァン、カエターノ・ヴェローゾなどにも作詞を提供して、 今、最も輝いているブラジルの作詞家の一人と言えます。またプロデューサーとしても活躍していて、ミルトン・ナシメントを始めとして、 ナナ・カイミや、アヒーゴ・バルナベーらをプロデュースしています。
 セルソ・フォンセカとの共同製作アルバムは、1994年の<ソルチ>を手始めに、1998年の<パラディーゾ>、 そして今回紹介する2001年の<スローモーション・ボサノヴァ>で3作目になります。それでは、紹介していきましょう。

 ヴァウテッ・ヴァンデッレイ(ワルター・ワンダレイ)の<サマー・サンヴァ>を思い出させる#1。 すぐにアルバムの世界に入ってしまいます。切ないヴォーカルを引き立たせているアレンジが素晴らしい#2。 <残されし恋には>という邦題でも知られている#3は、フランスが生んだ偉大なアーチスト、シャルル・トレネの作品。 英語でも<I WISH I KNEW>として数多くの歌手に歌われている名曲です。ホナルド・バストスがポルトガル語に訳したのですが、 とてもしっくりいっていていいですね。途中に入るチェロがまたその魅力を増しています。ちなみにそのチェロを演奏しているのは、 坂本龍一とのコラヴォレーションでもお馴染みの、ジャキス・モレレムバウム、ピアノはアントニオ・カルロス・ジョビンの孫の ダニエル・ジョビンです。このアルバムには二つのタイトルが付けられています。#14の<JUVENTUDE>とこの#4です。 ホナルドが英語で歌詞を書いています。タイトルの様にスローモーションで風景が移っていくさまが目に浮かびますね。 セルソ・フォンセカの頼りない声がとても生きている#5。そのヴォーカルにフリューゲルホルンとフルートが美しく絡み合って素敵です。 トロンボーンの音色が世界を広げる#6。この詩でイサム・ノグチの美術館がブラジルにもあるのを知ったのは私だけでしょうか? 誰か知っていたら教えて下さいね。おそらくホナルドがブラジル音楽で一番に尊敬しているのであろうホベルト・カルロスに捧げている#7。 歌詞を読むとその偉大さが分かります。ちょっと変わったアレンジが心を引き付ける#8。 このアルバムの中でも詩としての魅力を感じるひとつです。ところで、この詩の中に出てくるディランて、 ボブ・ディランの事なのでしょうか?セルソとデュエットしているジュッサーラ・シルヴェイラの歌声がどこか ガル・コスタに似ていると思った#9。ジャズ界の巨人、マイルス・デイヴィスのアルバムタイトルや、 演奏した曲目を歌詞に散りばめた#10。何てお洒落なんでしょう。最後のミュート・ソロが胸をジーンとさせてくれますね。 ゆっくりとした時の流れを感じる#11。最後のサックスのソロが、遠い地平線の彼方に連れて行ってくれそうです。 カーニヴァル前の抑え切れない気持ちが静かに伝わってくる#12。まるで一つの曲にしか聞こえない#13。 でも、前半と後半はマリオ・マリニの作品でセルソ・フォンセカがイタリア語で、途中に入ってくるのは2000年に亡くなったブラジルの ゼー・ケチの作品を何とホナルド・バストスが歌っています。もっと歌えばいいのに、と思うほど、とても素敵な歌声ですね。 それにしても、本当に一つの曲としか思えません。アルバムの最後、#14は、もう一つのタイトル曲です。 <青春>という意味なのですが、歳ではなく、生きる喜びを見つけた時が青春だと歌うこの曲。この歳になると、 本当にそう感じますね。曲が終わってから続いて小さな音でリピートされるフレーズが何とも言えません。 アルバムとしてはこの曲で終わりなだけあって、最後が本当にお洒落です。国内盤のボーナス・トラック#15。 これは#4のボツになったトラック。さて、みなさんはどちらがお好きでしょうか?私は、やっぱり#4のトラックでしょうかね。

 如何でしたか?あっという間に時間が過ぎてしまった、という感じではないでしょうか? 新しいボサノヴァのブームがまた来ているのが良く分かりますね。ところで、このアルバムは元々、 ホナルド・バストスの運営するDubasというレーベルから出されているのですが、今後、 このレーベルから発信されるブラジル音楽の情報にも耳を傾けていきたいと思います。また、 アルバムのジャケットをブラジルを代表する現代写真家、ミゲル・リオ・ブランコが手がけている事も記しておきたいと思います。 アルバムの番号は、BOM22153(国内盤)でボンバ・レコードより出ています。ブラジルのコーナーに行ってみてください。