与世山澄子

インターリュード


 日に日に秋を感じてくる今日この頃。ちょっと冷たく感じる秋風にほっと一息つきに行った喫茶店、 またはバー。そこでこんな音楽が掛かっていたら、あなたはもう、 その音楽にどっぷり漬かって自分の世界に入り込んでしまうでしょう。
 130回目に紹介するアルバムは、そんな雰囲気にしてくれる沖縄のジャズヴォーカリスト、 与世山澄子の<インターリュード>です。

 昔からのジャズヴォーカルファンには懐かしい名前ですよね、与世山澄子。 その彼女が何と20年振りにニュー・アルバムを発表したから紹介しないわけにはいきません。 懐かしく感じる人、そしてまだ聴いた事のない人にも一度聴いてもらいたいアーチスト。それが彼女、 与世山澄子なんです。

 彼女を知らない人の為に、ここで少し彼女を紹介してみましょう。
 1940年、沖縄は八重山の小浜島生まれの彼女は、丁度50年前、私が生まれた年の1955年、 15歳で早くもデビュー、1957年にはボブ・ホープやレス・ブラウン楽団と共演、 1972年の沖縄が本土に復帰を果たすまで米軍基地内にあるクラブで活躍したいたのです。 その年に、夫であるサックス奏者の我那覇文正氏とジャズ・スポット<インターリュード>、 そうお気付きの方もいると思います、今回のタイトルにもなっている<インターリュード>を開店。 そのお店で演奏活動を開始します。そのころから沖縄に凄い歌手が居るという噂がヴォーカルファンの間に広まっていきますが、 ついに、1983年、LP<イントロデューシング>でアルバムデビューを飾り、翌84年には<ウィズ・マル>、 85年には<DUO>をビリー・ホリデイ晩年の伴奏者、マル・ウォルドロンと伴にレコーディング、そして発売し、 全国にその名が知れ渡る事となるのです。その後も沖縄、東京とライブ活動を活発にこなしてきたのですが、 アルバムが発表されずにいたままでした。そして、今回20年振りにそうそうたる若手ジャズミュージシャンを従えて、 彼女のお店、<インターリュード>で録音が行われアルバムを発表する事となったのでした。
それでは紹介していきましょう。

 若手ナンバーワンのベーシスト、安ヵ川大樹のベースに導かれて唄い出すアルバムのタイトル曲#1。 彼女独特の声が早くも胸に突き刺さります。#2のタイトルは聞いた事のある人も多いのではないでしょうか。 バーや喫茶店の名前に数多く使われていますね。彼女の声がちょっとミステリアスに聴こえませんか? #3は、かつてビリー・ホリデイが十八番にしていた曲。ビリーはストリングスを付けないと唄いたくないとゴネたそうですが、 与世山澄子が唄うバックのトリオでの演奏も素敵です。秋の夜に相応し過ぎて胸が痛くなる#4。 オリジナルのブレッドとは全く違ったアプローチを見せる#5。ラストの不安定な終わり方がちょっと気になります。 前向きな姿がその唄い方に表れている#6。彼女独特のスウィング感がドンドン迫る#7。ライヴを感じますね。 サラ・ヴォーンが得意だった#8。約1世紀近く前に日本が世界に誇る最初のオペラ歌手、 三浦環の演じた<蝶々夫人>に感激して書かれたという曲ですが、ここではちょっぴり可愛い与世山澄子も垣間見る事ができますね。 この30年ほど何年かに一度は話題に上る#9。昔はルイ・アームストロング、最近では綾戸智絵。 そして新たに与世山澄子のこのトラックが話題になりそうな位良く唄っています。きっと、 このレコーディングが彼女にとっての素晴らしい世界だったんでしょうね。 ミュージカルで使われた曲がスタンダードになる事は多いのですが、この#10もミュージカル<キス・ミー・ケイト> から生まれたスタンダード。恋心いっぱいのこの曲。日本語では恥ずかしくってとてもじゃないけど言えません。 やっぱり外国語はいいな、って思いますね。#11は、ビリー・ホリデイが作詞したにも拘らず、 ビリーが録音しないままこの世を去ってしまったという曰く付きの曲。与世山澄子は、 和製ビリー・ホリデイの如く唄って私たちを感動させます。アルバムの最後はサイモン&ガーファンクルの#12です。 誰に想いを馳せて彼女はこの曲を唄っているのだろうか。ふと、そんな事を考えさせられてアルバムは終わります。

 如何でしたか?ちょっと癖のある彼女の声は、好き嫌いが分かれると思いますが、 何かが心の中に残ってくれたら嬉しいと思います。
 数年前に私も彼女が経営するお店、<インターリュード>に行った事があります。深夜だったせいもあり、 ライヴはもう終わっていたのですが、細い階段を上がっていった左側にある扉を開けた瞬間、 彼女の世界を感じて大変幸せな気分になった事を想い出しました。 壁一面に飾ってある彼女のヴォーカリストとしての思い出の写真の数々。アップライトピアノを照らす薄灯り。 カウンターから話しかける彼女の声。そう、彼女はバーのママをしながらライヴをしているのです。 那覇テラスというホテルから歩いて7〜8分。皆さんも一度立ち寄ってみては如何ですか?

 アルバムの番号は UBCA-1004 で、(有)タフビーツより発売されています。ジャズのヴォーカルのコーナーか、 日本人コーナーに行ってみて下さい。