エレーナ・ブルケほか

エレーナ・ブルケに捧ぐ


 数年前に上映された映画<ブエナビスタ・ソシアルクラブ>。その映画に出演していたアーチストが空前の大ブームになり、 来日公演が実現するなどキューバ音楽にスポットが当たっています。特に、 オマーラ・ポルトゥオンドはキューバの歌姫として脚光を浴びました。 (オマーラについてはこのコーナーNo.32を参考にしてください。)しかし、 その中にキューバを代表するもう一人の歌姫の姿はありませんでした。もう一人の歌姫、 それが今回紹介するエレーナ・ブルケです。残念な事に、2002年6月に74年の生涯を終えてしまった彼女。 彼女が死の直前、2000年から翌年にかけて録音した3曲がこのアルバムで目を覚まします。 彼女を追悼する為に作られたこのアルバムは、春の宵に凄くマッチするばかりか、夏の海辺、秋の月夜、 そして冬には暖炉のある暖かい部屋で聴いてもピッタリです。

 エレーナ・ブルケを知らない人の為に、ここで少し彼女を紹介しておきましょう。1928年にキューバの首都、 ハバナで生まれた彼女が初めに音楽と出会ったのはアルゼンチンの音楽タンゴでした。 15歳でラジオのアマチュアコンテストに出場して入賞し、プロデビューします。 1947年には<ラス・ムラータス・デ・フエゴ>にダンサー兼歌手として入団、ジョセフィン・ベイカーと共演、 映画にも出演を果たします。その後、アメリカでも数多く公演し、1953年には、 前出したオマーラ・ポルトゥオンドらと共に<クァルテート・ラス・デ・アイダ>の結成メンバーとなったのです。 その後、ソロとしても活躍、60年代にはヨーロッパに進出してパリのオランピア劇場にも出演するという快挙を成し遂げました。 日本へは大阪万博の時に初来日、1995年には二度目の来日を果たして、素晴らしい歌声を聴かせていましたが、 帰国後に不治の病に侵され2002年に帰らぬ人となってしまったのです。 このアルバムは<センティミエントの女王>エレーナ・ブルケの十八番だった曲や新曲を含んだ構成になっていますが、 彼女最後の録音である3つの曲を始めとして、キューバで活躍している若手の歌手を中心にした人選で、 懐かしさだけに囚われない、彼女を偲ぶには最高のアルバムとなりました。

 それでは、紹介していきましょう。

 ギター演奏だけで南国気分が早くも味わえる#1。 ギター奏者のアルベルト・ロペス・パドローンは20世紀中ごろのキューバに起こった音楽革命のひとつ、 <フィーリン>全盛期に活躍したギタリストのようで、流石の演奏を披露しています。 今や大注目の女性歌手イングリ・ロドリーゲスの歌う#2。思わず足でステップを踏んでしまいそうです。 エレーナ・ブルケの最後の録音のひとつ#3。前出のオマーラ・ポルトゥオンドの代表曲でもあります。 流石にエレーナはかつての声を失い、聴いていると哀しさが増してきますが、それが余計に説得力を増しているように思います。 #2と共にエレーナの十八番だった#4。このアルバムの為に用意された新曲#5。半世紀前のハバナの夜が目に浮かんできますね。 野外のバーで二人きりの時間を過ごす時にこんな曲が流れていたら、お互いの気持ちが盛り上がる事間違いなしの#6。 エレーナ自身が半世紀ほど前に録音した事のある#7。歌詞を読むと涙なしでは聴けません。 #8もこのアルバムの為に作られたボレロの新曲。ココ・フレーマンという男性歌手が歌っていますが、甘くてなかなかいいですね。 大きなナイト・クラブで聴いているかのようです。 現在のキューバで右に出る歌手はいないといわれているアナイス・アブレウ。その彼女が歌う#9。年季を感じます。 #10は3つ用意された新曲のひとつ。曲は良いのですが、歌手がイマイチですね、残念です。 #11もエレーナが得意だった曲のひとつ。腰から上が動き出しますね。盲目のギタリスト、へスス・クルース。 彼のギター伴奏ひとつでアナイス・アブレウが歌う#12。二つのメロディーを重ねて歌っていますが、 違和感なく聞こえるのは、やはり歌手の実力のせいでしょうか?実は、この#12はそういった曲なのです。 エレーナも、かつて娘のマレーナ・ブルケと作ったアルバムで歌っています。 エレーナが<クァルテート・ラス・デ・アイダ>時代に歌っていた#13。エレーナ最後の録音の内のひとつ#14。 3曲の中では一番調子が良かったかもしれない歌唱が聴けます。所々力強く、 弱いところは一緒に歌ったヘニセイス・デル・カスティージョが助けて胸が熱くなります。アルバム最後の#15。 これも前出したエレーナがオマーラらと共に結成した<クァルテート・ラス・デ・アイダ>の代表曲。 皆がエレーナをチヤチヤチヤで送り出して行るようです。

 如何でしたか?とても素敵なアルバムでしたね。心が落ち着く、暖かいアルバムでした。季節と同じく、 お酒でも、コーヒーでも紅茶でも、そして日本にも合いそうなアルバムでした。
 アルバムの番号は、CRADX-2004 で、アオラ・コーポレーションから発売になっています。 ワールド・ミュージック、キューバ音楽のコーナーに行ってみて下さい。

2006.5.23