TOOTS THIELEMANS

one more for the road


 まだまだ梅雨が続きますが、そんな時、部屋でゆっくり音楽に耳を傾けては如何でしょう。 今回紹介するトゥーツ・シールマンズの<ワン・モア・フォー・ザ・ロード>は、 あなたの心に安らぎを与えてくれるのに違いありません。

 トゥーツ・シールマンズ。彼の名前は知らなくても彼のハーモニカを聴けば、あ〜、あの人か、 って思う人が沢山居ることは間違いありません。それだけ、色々な人と共演している大ベテランです。 今回のニューアルバムは、9人のシンガーをゲストに迎え、 昨年生誕100年を迎えたハロルド・アーレンの作品集にもなっています。彼を知らない人の為に、 ここで少し彼を紹介してみましょう。

 1922年にベルギーのブリュッセルで生まれた彼は、3歳の時からアコーディオンを弾きはじめます。 その時から趣味でハーモニカを始めるのですが、次第にハーモニカの虜となって行ったようです。 彼のお気に入りはジャンゴ・ラインハルト。チャーリー・パーカーから影響を受けたと後に語っています。 世界的なスタートは、ベニー・グッドマンが1950年に行ったヨーロッパ・ツアーに同行した時からです。 その事もあり、1952年にはアメリカへ移住します。それからの彼の活躍は目覚ましい物があります。 憧れのチャーリー・パーカーやジョージ・シアリングと仕事をし、 1962年には今でも多くの演奏家がこぞって取り上げる<ブルーゼット>を作曲します。 その後も、エラ・フィッツジェラルド、クインシー・ジョーンズ、ジャコ・パストリアス、 ナタリー・コール、パット・メセニー、を始めとしたジャズミュージシャンとの共演をはじめ、 ポール・サイモンやビリー・ジョエルなどポピュラー畑のアーチストとも共演、その数は数え切れません。 今では色々な(特にフォーク系の)アーチストがやっている、口笛とギターの同時演奏は彼が始めたことですし、 かつて流れていた化粧品、オールド・スパイスのCMの中で口笛を吹いていたのも彼なのです。その彼も今年84歳。 しかし、全く衰えを知らず、現役の演奏家として活躍し続け、このニュー・アルバムの発売となったわけです。

 それでは、紹介していきましょう。

 最近メキメキと頭角を現してきたヴォーカリスト、リズ・ライトを迎えて贈る#1。 ちょっとスモーキーな彼女の声に惹かれます。このコーナーでも紹介した現代のビリー・ホリデイ、 マデリン・ぺルー。彼女がスウィングしてゴキゲンな#2。ノルウェイの歌手セリアが歌う#3は、 ちょっとアンニュイな雰囲気で、途中から入ってくるシールマンズのハーモニカが更にその雰囲気を助長させますね。 インストゥルメンタルの#4。ほっとします。デビュー以来飛ぶ鳥を落とす勢いのジェイミー・カラム。 ちょっと大人の彼が覗ける#5。べス・ハートがブルース心いっぱいに唄う#6。 何故か嬉しく思うのは私だけではないでしょう。オランダのシンガーで、 シールマンズが将来を期待しているトリーンティ・オーステルハイス。彼女の唄う#7。 隣で唄われたらメロメロになりそうですね。マリリン・モンローが映画<バス停留所>で唄った他、 幾度となく映画に使われている#8。恋心を唄った曲ですが、ここでは、 シールマンズのハーモニカが歌詞の代役をしているように聞こえます。心のドキドキ感が良く表れていますね。 このコーナーで以前紹介したティル・ブレナー。トランペットが本業の彼のヴォーカルは何とも言えないいい味があります。 心地よいという表現がピッタリな#9。リナ・ホーンの代名詞となっている#10。ここではイギリスの名歌手、 オリータ・アダムスが唄います。彼女のスケールの大きさに感動します。 オランダのローラ・フィジーも以前このコーナーで紹介しましたね。彼女のデビューアルバムでも唄っていた#11。 エレガントさの中に楽しさもあってウキウキしてきます。アルバムの最後、#12はアメリカ人の心の故郷的な映画、 <オズの魔法使い>の主題曲です。シールマンズの奏でる音色がさらに郷愁をさそいますね。

 如何でしたか?シールマンズのハーモニカがヴォーカルやオーケストラと絡み合って素敵な世界を作り上げていましたね。 ほっとしたひと時が過ごせたんじゃありませんか?
 アルバムの番号は、輸入盤が 0602498737767 でヴァーヴから、国内盤が UCCM-1083 でユニバーサルから発売になっています。 ジャズのコーナーに行ってみて下さい。

2006.7.8