Nicole Croisille

Nougaro le jazz et moi


 映画<男と女>の主題歌を歌っていたと言えば、歌っている男女の歌手は知らなくても、 例の<・・・ダバダバダ、ダバダバダ>というフレーズは忘れないはずです。 それだけ大ヒットしたこの主題歌を歌っていたのが、男はピエール・バルー、 そして女が今回紹介する二コル・クロワジールだったんです。彼女の名前はシャンソンファンや、 一部のジャズヴォーカルファン以外はほとんど知らないと思います。知らない方のために、 ここで少し彼女を紹介したいと思います。

 1936年パリで生まれた彼女は今年で71歳。幼いころからバレエを習っていた彼女はコメディー・ フランセーズのバレエ団に入団後、パントマイムのマルセル・マルソーとヨーロッパや南米各地を巡業したり、 ジョセフィン・ベイカーのレヴューに出演したりしていましたが、1966年、 アメリカに行った時にチュ―ズデイ・ジャクソンという名前で初録音。元々英語が堪能だった彼女の初録音は英語の曲 <I'll never leave you>だったのです。これがフランスでヒットしたその年にクロード・ ルルーシュ監督の映画<男と女>が撮られ、この時に本名の二コル・クロワジールという名前でその主題歌を歌ったのです。 翌年ルルーシュ監督の撮った映画<パリのめぐり逢い>でも主題歌を歌っています。 その後暫くヒットに恵まれなかった彼女も1972年頃から再び表舞台に登場してきます。 <あなたとともに><あなたの言葉を待ちながら><彼の噂を聞きたくて>など大ヒット曲を連発、 1976年と78年にはオランピア劇場に出て絶賛されました。その間、1975年には東京音楽祭に前出の <あなたとともに>でエントリーして見事、銀賞に輝いています。その後も<猫とねずみ><O嬢の物語り>が大ヒット、 フランシス・レイの作品<あなたに会うまでは><雨の訪問者>なども歌っています。 90年代に入ってからはマイペースでジャズやライヴのアルバムを発表してきましたが、 彼女70歳の昨年(2006年)暮れに、クロード・ヌガロを偲んで作ったアルバム<ヌガロ、 ジャズそして私>が評判になって再び脚光をあびています。それでは紹介していきましょう。

 このアルバムタイトルにもある今は亡きクロード・ヌガロとのデュエット#1。 <テイク5>の演奏で有名なデイヴ・ブルーべックの作曲です。 相当なテクニックを要するこの曲をヌガロとクロワジールは完璧にこなしています。この録音はヌガロの生前、 1991年にカジノ・ド・パリでのショー、<黒と白>で行われたものが基になっています。 かつてマルセル・アモンやイヴ・モンタンも取り上げたヌガロ作詞の難曲#2。 タイトルにあるジャヴァというのは一つの踊りのパターンです。ジャズの要素が相当強いメドレー#3。 ヌガロの作詞のセンスがとても光る作品ですね。ヌガロが作詞だけではなく歌い出してから最初の大ヒット#4。 ミシェル・ルグランの作曲です。ヌガロ初期のヒットから#5はメドレーで。 途中にエリントンの<キャラヴァン>を挟んでいる所などはニクイ!ですね。ソニー・ロリンズの作曲した#6。 ディディエ・ロックウッドのヴァイオリンが郷愁をそそる#7。 ステージで手ぶりを交えて歌っているクロワジールの姿が目に見えてきそうな#8。 ファンキー・ジャズの代表曲#9。フランス語で聴くと、やっぱりちょっと妙な感じがします。 何時までも美しいハーモニカの音を聴かせてくれているトゥーツ・シールマンズ作曲の#10。 ここでも彼がハーモニカで参加して空気が膨らんでいくみたいですね。このアルバムにはメドレーが6曲もあるのですが、 その一つ#11。その6曲全て、各々がまるで一つの曲の様になって聞えます。この#11もまるで一つの曲の様です。 後半のアコーディオンはその曲を作曲したリシャール・ガリアーノが弾いています。ドラマチックに盛り上がりますね。 ヌガロ後半の作品#12。とても文学的な作品です。ヌガロの故郷トゥールーズを称えた#13。#14は3曲のメドレー。 ブラジル音楽にフランス語の詩をヌガロが付けたもの。ジルベルト・ジル、バーデン・パウウェル、 シッコ・ブアルケの作曲からなる各々の曲は一度は聴いた事のある有名曲ばかり。知らないうちに体が動き出しています。 アルバムの最後#15はクロード・ヌガロを偲んで彼に捧げたもの。とても美しい曲ですね。 このアルバムでピアノを担当しているオルド・フランクの作曲、ジュリー・ダロワの作詞です。

 如何でしたか?ほとんどの方が知らない二コル・クロワジールとクロード・ヌガロ。ヌガロは既に亡くなっていますが、 彼を偲んで作られたこのアルバムで、ヌガロが甦ってきた様でした。#15を除いて作詞は全てクロード・ ヌガロの手に依るものです。そのヌガロの友人、歌手の二コル・クロワジールとピアニストのオルド・ フランクが作り出した傑作といえるアルバムでしょう。 曲と曲の間をクロワジールの語りによって繋いでいく作り方もちょっとオシャレでした。アルバムの番号は、 9843654 でユニヴァーサルから出ています。シャンソン、またはジャズヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。

2007.1.13