IVAN LINS、TOQUINHO 他

AO MAESTORO COM CARINHO UM TRIBUTO A TOM JOBIMA


 ゴールデン・ウィークの前半が終わり、これから後半に入りますが、天気の良い日にこんな音楽が流れていたら、 もっと気持ちがいいのになぁ〜、と思ったことがありませんか?そんなあなたに、 今回紹介するアルバム<トム・ジョビン>はピッタリです。

 このアルバムは所謂コンピレーションアルバムなので、録音年や録音時の条件などがまるで違うのですが、 良く整理されていて大変聴き易くなっています。

 さて、このアルバムの主人公、アントニオ・カルロス・ジョビン。今年で生誕80年なんです。 当然もう亡くなっているのですが(1994年没)、未だに彼の書いた曲の多くが愛され続けているのは、 本国ブラジルより、むしろ日本にいた方が分かるのかも知れません。しかし、 最近日本でも大人気のホーザ・パッソスやイヴァン・リンス、セルソ・フォンセカ、カエターノ・ヴェローゾなど、 現役のミュージシャンがトム・ジョビンの曲を取り上げたり、彼に影響を受けているのが分かったりすると、 ミュージシャン仲間では、まだまだ彼が神様的な存在なのが分かります。
 所で、アントニオ・カルロス・ジョビンとトム・ジョビン。皆さんはこの二人が同一人物だと思いますか? 答えは「イエス!」です。では、何故名前が違うのか。ちょっと説明してみましょう。簡単に言ったら、 トムはあだ名なんですね。ブラジルには同じ名前の人が沢山いるので、区別するためにあだ名で呼んでいるのだそうです。 ジョビンはトムと呼ばれていたのです。みなさんも、友達の名前を省略して呼んだりしてませんか?まあ、 それと同じだと思っていただければいいのです。
 話を元にもどして、このアルバムの主人公、アントニオ・カルロス・ジョビンについて少し触れておきましょう。 1927年生まれの彼は、14歳ころからピアノを習い始めますが、大学には建築の勉強をしていました。が、中退し、 バーのピアノ弾きとして生計を立てるようになります。やがてコンチネンタル・レコードで写譜をする仕事にもありつきますが、 そこで、色々な作曲家や演奏家に影響を受けます。そんな中、1954年に始めてのアルバム<リオ・デ・ジャネイロ交響曲>を発表 (この時は作曲家、編曲家として)します。しかし、全く売れなかったそうです。その後、超エリートの作詞家で外交官でもあった、 ヴィニシウス・ジ・モライスと運命的な出会いをするのです。1958年、 ボサノヴァ第一号と言われる<シェガ・ジ・サウダージ(邦題:想いあふれて)>がブラジルが誇る歌手、 エリゼッチ・カルドーゾによってレコーディングされたのです。しかし、これも売れませんでした。 が、ジョアン・ジルベルトのこの曲を歌わせて新たに発売したところ、徐々に火が点き始め、暫くして大ヒットを記録するのです。 その後は音楽史に残る名曲を数々発表。自らもアルバムを出すなど活躍してきましたが、 1994年12月8日に惜しくもこの世を去ってしまうのです。彼の死後、リオ・デ・ジャネイロ国際空港が <アントニオ・カルロス・ジョビン空港>と改名された事からも、彼がブラジル音楽に多大な貢献をした事が分かりますね。

 それでは、トム・ジョビンの残した数々の名曲を、色々な歌手の歌で楽しみましょう。

 もう誰でもが知っている#1。トッキーニョのちょっとメロディーに遅れ気味な歌唱が頼りなく、 それがまたこの曲にピッタリですね。日本にも度々来て素敵なステージを披露してくれるジョイス。彼女が歌う#2は、 ボサノヴァ第一号と呼ばれる曲です。弾けてますね。今やブラジル音楽に欠かせない存在となったイヴァン・リンス。 彼が歌う#3はメドレー。上手く繋げていますが打ち込みに時代を感じます。ボサノヴァ以前から歌手として活躍していたマイーザ。 #4は、彼女の歌手としての実力が発揮された素晴らしい歌唱です。 とてもゆったりとしたテンポで居眠りしそうなマルコス・ヴァールの#5。ナナ・カイミとドリ・カイミが不安定な音程で歌う#6。 クララ・ヌネスが切々と歌い上げる#7。ちょっと力が入り過ぎているダニロ・カイミの#8。もうちょっと力が抜けてればね、 って感じですね。とても清潔感溢れるドリス・モンテイロの#9。大きな夕陽が沈む光景が目に浮かぶノーマ・ベンゲウの#10。 ビッグバンドジャズ風ボサの#11。ウィルソン・シモナウの格好いいトラックです。しっとりとレイラ・ピニェイロが歌う#12。 彼女の声は本当に落ち着きますね。素晴らしい!ボサノヴァ第一号と言われる<想いあふれて> を最初に録音したエリゼッチ・カルドーゾ。サンバ・カンソンの女王らしく堂々と#13を歌います。 今でも来日時の彼女のステージが頭の中から離れません。それほど素晴らしいステージであり、 ブラジルの国宝といっても過言ではない彼女が逝ってからもう何年経つのでしょうか。 アルバムの最後#14はご機嫌に締めくくります。 かつての江利チエミのような迫力でどんどん押していくエルザ・ソアレスの陽気な歌で終わります。

 如何でしたか?季節関係なく楽しめる音楽、ボサノヴァ。 アントニオ・カルロス・ジョビンがいかに多くの傑作を世に送り出していたかが分かりますね。
アルバムの番号は、387199 2 でEMIレーベルから出ています。 今のところ日本での発売予定はありませんので輸入盤を探してみてください。ブラジル音楽のコーナーに行ってみてください。


2007.4.28