compilation

WE ALL LOVE ELLA


 今から11年前の1996年6月15日、偉大な歌手がこの世を去りました。彼女の名前は、エラ・フィッツジェラルド。 その彼女の生誕90年をお祝いして制作されたトリビュート・アルバムが今回紹介する<ウィ・ラヴ・エラ>です。 

 このアルバムの主人公、エラ・フィツジェラルドを知らない人の為に、彼女を少し紹介してみましょう。

 1918年、ヴァージニア州で生まれた彼女は、ニュー・ヨークのアポロシアターで行なわれたアマチュア・コンテストに若干16歳で出場し、 見事優勝します。その後、ハーレム・オペラハウスのオーディションにも優勝し、 1935年タイニー・ブラッドショウ楽団に入団しプロとして活動を開始します。その後、 チック・ウェッブ楽団の専属歌手として録音した<ア・ティスケット・ア・タスケット>が大ヒット。 一躍トップの座に躍り出ます。が、ヒットの翌年、リーダーのチックが急逝。バンドを引き継ぐも、 結局解散して1941年にソロとして独立するのです。その後の活躍はジャズに限らずポピュラーチャートでもヒットを出して、 音楽界の<ファースト・レディー>と呼ばれました。アメリカのジャズ雑誌<ダウン・ビート>では、1952年〜71年まで、 女性ジャズ歌手としてbPを連続して獲得したほか、グラミー賞は13回もの受賞を数え、亡くなるまで第一線で活躍していたのです。

 その彼女を称えるこのアルバムは、彼女を尊敬して止まない大物歌手が集まって制作されています。

 それでは、紹介していきましょう。

 ナタリー・コールの歌う#1。エラが最初に放ったミリオン・セラーです。ナタリーもノリノリですね。 #2はチャカ・カーンが軽いノリで歌う、ジョージ・シアリングの代表曲。最近は映画での活躍も目立つラッパーのクィーン・ラティファ。 #3は彼女のパンチある歌声にノックアウトです。英語のライナー・ノーツにある曲目には歌手がナタリー・コールとなっていますが、 これは間違いです。(ちなみに、次の曲#5の歌手名も間違っていますので気を付けてください。)昨年の暮れに、夫、 エルビス・コステロとの間に双子が生まれたダイナア・クラール。本来弾き語りの彼女が、 ここ#4ではハンク・ジョーンズのピアノをバックにしっとり歌っています。#5では、 ナタリー・コールとチャカ・カーンという凄い二人がデュエットを聞かせます。お互いのエネルギーがとてつもなく大きいのを感じますね。 二度とない取り合わせかも知れません。ストリングスがお洒落な世界に連れて行ってくれる#6はダイアン・ リーヴスがヴァースから押さえて歌っているのが印象的です。最近メキメキと頭角を現してきたリズ・ライト。 彼女の哀愁漂う表現がとても素敵な#7。ニューオリンズ出身の新人歌手レディシー。新人らしからぬ表現で#8を歌い上げます。 何を歌っても上手なリンダ・ロンシュタット。彼女の最近のアルバムでも歌っていた#9。コール・ポーターの曲ですが、 流石にジャズ・アルバムも録音しているだけあって、ここでも上手い歌を聞かせてくれます。 最新作がジャズ・スタンダードだったグラディス・ナイト。TVの人気番組<アメリカン・アイドル> シーズン6のファイナルでも元気な歌声を聞かせてくれましたが、最新作でも歌っていた#10を、 また違った味わいで聞かせてくれています。流石!の一言ですね。ブルース界の重鎮エタ・ジェイムズ。#11は、 デューク・エリントンの曲を彼女がブルース・フィーリングいっぱいに歌っています。 数年前にトニー・ベネットとデュエット・アルバムを出して我々をビックリさせたk.d.ラング。 エラが得意にしていたバラッドの名曲#12を、彼女は感情たっぷりと見事に歌っています。 日本でも大ブレークしているイケメン・ヴォーカリストのマイケル・ブーブレ。#13、 これもエラが得意としていた一曲ですが、元々はサミー・デイヴィス・ジュニアの主演ミュージカルの挿入歌。 男性歌手が歌って当然と言えば当然です。歌を聴いていると、マイケルがとてもいい男だと言うのが分かりますね。 さて、#14はとても貴重な録音です。1977年、ニューオリンズのジャズフェスティヴァルで行なわれたエラのステージにスティーヴィー・ ワンダーが特別参加。その時に録音されたのがこの#14。オリジナルアルバムの最後を飾るのに相応しい物となりました。 エラもスティーヴィーも、そしてお客さんもとても楽しそうです。映像を見たくなってしまいますね。 国内盤にはこの後に2曲ボーナストラックが付いています。特に#15は必聴です。若干12歳のニッキ・ ヤノフスキーがエラ並のスキャットで歌いまくるからです。まさに怪物と言っても過言ではないでしょう。 本当に12歳かと思うと末恐ろしいですね。もう一曲の#16は、エラが1959年に録音した音源に小西康陽がリミックスし、 吉田哲人がプログラミングとミックスを施したものにaikoが参加したもの。今の時代、良いのか悪いのか、 何でも出来てしまうのが怖い感じもしますが・・・。

 如何だったでしょうか?とても素敵なアルバムでした。多くの歌手から今でも尊敬されているエラ。 彼女を賞賛するには言葉が足りません。生のステージを観ることは出来ませんが、彼女の歌声は永遠です。 次は生誕100歳のお祝いアルバムが出ることでしょう。
 アルバムjの番号は、UCCVー1097でヴァーヴ・レーベル、ユニヴァーサル・クラシック&ジャズから出ています。 ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみてください。

2007.6.24