AUDREY MORRIS

Bistro Ballads


 クリスマスにクリスマスソングだけじゃね、っていうあなた。前回のジョセフ・ウィリアムズに続いて紹介するのは、 しっとりとした夜を演出するオードリー・モリスの<ビストロ・バラッズ>です。

 このアルバム、実はLP時代に数万円で取引されていた、いわば<幻のアルバム>だったんです。実は、 そういう私も20年ほど前に数万円で手に入れたのですが、今回限定盤としてCD発売され、嬉しくもあり、 悲しくもありといった心境です。しかも¥1000。私と同じ想いをしている方はまだまだいるんでしょうね。
 しかし、このアルバムを紹介できるのは大変嬉しいことです。何しろ作品が大変素晴らしいのです。 何時聴いても飽きのこないこのアルバム。<ビストロ・バラッズ>って言うタイトルもとてもお洒落ですね。

 このアルバムの主人公、オードリー・モリスについて少しお話しておきましょう。
 彼女の生まれた年ははっきりとしませんが、 ジャズの人名辞典などによるとどうやら1920年代前半アメリカはシカゴ生まれのようです。6歳の頃よりピアノを習い始め、 第二次世界大戦後はシカゴのクラブで弾き語りをしていました。1955年(どうでも良い事なのですが、 この年は私の生まれ年なのです)、シカゴのミスター・ケリーズという有名なライブハウス に出演していた彼女をたまたま聴いたXレーベルのジミー・ヒアリーが気に入って契約し、このアルバムが完成しました。 翌年にはベツレヘム・レーベルより<ザ・ヴォイス・オブ・オードリー・モリス>を発売、 ロスやラス・ヴェガスでの仕事を経て、シカゴの<ロンドン・ハウス>でレギュラーとして活躍していました。 その後は育児など家事に専念していましたが、1980年代にカムバックして、自身のレーベル<ファンシー・フェア>から、 <アフター・ソウツ>と<フィルム・ノワール>という2枚のアルバムを発売しています。

 それでは紹介していきましょう。

 優しいピアノの音に続いて優しい歌声が優しく語りかける#1。アルバムのスタートから心休まる感じがします。 ミルドレッド・ベイリーが歌って有名な#2。ビリー・ホリデイの十八番、#3。 その語り口に恋人に去られた苦しい気持ちが良く表れていますね。 縒りを戻すっていうほど大げさではないかもしれませんが、喧嘩した後の仲直りの歌#4。 英語の表現てお洒落だと思いません?#5は離れ離れにされてしまった恋人を花にたとえて歌った曲。 オードリーの押さえた歌唱がその哀しみを想像させます。ガーシュイン兄弟の作品#6。ちょっと変わった曲調ですね。 ナンシー・ウィルソンのドラマチックな歌で有名な#7。解説には「なんともかわいい歌」と書いてありますが、 とんでもない。浮気をしている夫を見てしまった妻が帰ってきた夫をジワジワと問い詰めると言った、 と〜っても怖い歌なんです。カーメン・マックレイほどではないにしろ、はっきりとしたディクションで切なく歌う#8。 みなさんは涙が乾くほど泣いた事がありますか?オードリーの歌は、 歌詞がはっきりと分かるので感情がこちらに伝わり易いですね。4月を歌った曲では、<April in Paris>が有名ですが、 #9は4月1日の歌です。最近はこの日の習慣もなくなりつつありますが、ちょっと寂しいですね。 アルバム最後の#10はヴァースから歌った珍しいヴァージョンです。ちょっとした恋の遊び心。 その終わりを歌ったこの曲は多くの女性歌手が取り上げていました。オードリーは物語をドラマチックに語っています。

 如何でしたか?クリスマスの夜には少し淋し過ぎるかもしれませんが、 しっとりと夜を過ごすにはとてもピッタリなアルバムだと思います。全曲にわたってピアノを弾いているのは、 勿論オードリー・モリス本人です。ピアノも中々素敵でしたね。
 アルバムの番号は、BVCJ38153でBMG JAPANから出ています。ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。 ただし、限定商品なので、売り切れの場合もあることを承知して下さいね。

2007.12.22