RACHEL GOULD & CHET BAKER

all blues


 例年になく寒い冬が終わり春がもうそこまでやってきています。今回紹介するアルバムは、 そんな春の宵にピッタリです。レイチェル・グールドのヴォーカル、 チェット・ベイカーのトランペットできかせる<オール・ブルース>を紹介しましょう。

 アルバムを紹介する前に、このアルバムの主役、レイチェル・グールドと チェット・ベイカーについて少し触れておきたいと思います。

 まずレイチェル・ゴールドですが、彼女の名前はおそらく聞いたことが無い方も多いでしょう。 オランダのシンガーで、ドイツのフュージョングループ、NAMAZ(ナマスと発音します。 また日本にも同名のグループがありますが無関係です。こちらはナマズと発音します)の ヴォーカリストとして1981 年のアルバムに参加していますが、あまり詳しく彼女については分かりません。 ただ、このアルバムを録音した時(1979年)には若干26歳だったことははっきりしています。また、 2000年代に入っても活動は続けていて2004年にイギリスはPhilologyレーベルから<Finally>、 2007 年に同じくイギリスのCaligolaレーベルから<No More Fire>というアルバムを発売しています。
 一方のチェット・ベイカーについてはもう書くことはないでしょう。アメリカはオクラホマ州の生まれ (1929年)でハイスクール時代からトランペットを始め、第二次世界大戦後は軍楽隊に所属していました。 1952年にジェリー・マリガン率いるカルテットに参加した事で脚光を浴びることになり、 ウエスト・コーストを代表するトランペッターになりましたが、 1960年代からはドラッグ中毒で逮捕されるなど休業状態になっています。 1973年には復帰してヨーロッパを中心に活躍を続けていましたが、1988年5月13日、 オランダで滞在していたホテルの窓から転落して58歳の生涯を終えました。 未だにそれが事故か自殺かがはっきりしていない最期でした。彼はトランペットが本業ですが、 その中世的な声にも人気があり、1954年に録音した<チェット・ベイカー・シングス> は今もってベストセラーを続けるという人気です。

 このアルバムは2枚のLPから新たに1枚のCDとして作られたものです。 前半#1〜#7までがこのアルバムのタイトルでもある<all blues>から、 後半の#8〜#13のボーナストラックが同 じメンバーで同時期に録音された<Rendez Vous> というアルバムからになっています。それでは紹介していきましょう。

 レイチェルのアルトの声が私達をグッと引き寄せる#1。チェットのトランペットは勿論の事、 バックの演奏陣がとても素晴らしいですね。超有名曲の#2ですが、チェットのトランペットが冴え渡ってます。 主旋律でこの曲を覚えている方は途中まで気が付かないかもしれませんね。夕暮れの情景が目に浮かびます。 前奏なしでいきなりレイチェルとベースとのデュオで始まる#3。ボロディンの作曲した曲を真似たと評判? だったミュージカル<キスメット>からのナンバーですが、 レイチェルの気だるい歌い方がピッタリだと思いませんか?セロニアス・モンクの難解曲#4。 これまでのヴォーカル・ヴァージョンではカーメン・マックレイが歌った物がやはり最高だと思いますが、 このレイチェルも中々やりますね。チェットの怪しげなスキャットが全体に流れる#5。 やはり独特の雰囲気を持っていますね。コール・ポーターの#6はフランク・シナトラで有名ですが、 レイチェルのスウィンウグしている歌唱も素敵です。オリジナルでの最期のナンバー#7は、 ボッサ・ノーヴァのリズムにのせておくります。夕陽が沈んでいくようなチェットのトランペット。 リズムに溶けていきそうなレイチェルのスキャット。ボーっとして何も考えたくなくなります。 チェットのトランペットを始め、演奏陣がノリノリな#8。それとは打って変わってダークなトーンになる#9。 もうニヤニヤしちゃいます。チェットの奏でるトランペットが夢の世界に連れて行ってくれそうな#10。 このアルバム全体を通してギターを弾いているジャン・ポール・フローレンスの作った#11。 トニー・マンのドラムが光りますね。オリジナルアルバムには未収録だった#12。 #2と聴き比べてみるのも面白いかもしれません。最後の#13は#5と同じ曲。しかし演奏は違います。 こちらにはチェットのスキャットがありませんが、さて、みなさんはどちらがお好みでしょうか。

 如何でしたか?春の宵にピッタリでしょう。グラスを傾けてどうぞ聴いて下さいね。勿論、 ペンギンでも遅い時間にかけたいと思っていますので、ペンギンでグラスを傾ける、と言うのも・・・(笑)。
 アルバムの番号は、LXCY−6248でセレスト有限会社から出ています。ジャズか、 ジャズヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。

2008.3.16