Alice Ricciardi

Comes Love


 ソメイヨシノも殆ど散ってしまいましたが、本当の春はこれからが本番です。 といっても朝晩はまだ冷え込む事も多くありそうですね。昼間の暖かさが嘘のように寒い夜、 こんなアルバムを部屋で聴いてみては如何でしょうか。イタリア・ブルーノートから出た新星、 アリーチャ・リチャルディのデビューアルバム<カムズ・ラヴ>です。

 アリーチャ・リチャルディと聞いても全く分からない方も多いと思います。 ここで少し彼女についてお話しましょう。と言ってもあまり資料が無く私自身もあまり分かりません。 そこで、分かる範囲で紹介したいと思います。

 正確な生年月日は分かりませんが、イタリアのミラノで1970年代後半に生まれていると思われます。 7歳の時に音楽を接するようになった彼女は、ジョゼッペ・ベルディ音楽学校でヴァイオリンとピアノを学びます。 ジャズヴォーカルを学びだしたのは1995年の事。この時一緒に学んだのが、 このコーナーでも以前紹介したことのあるロバータ・ガンバリーニでした。 1999年に卒業すると2000年には奨学金を得てマスター・ クラスに進学すると同時にミラノのいくつかの公立音楽学校でジャズヴォーカルを教える傍ら クラシックやジャズの演奏会に参加して今日に至っています。影響を受けた人物は、ビリー、 カーメン、エラ、といったジャズ歌手をはじめ、アーマッド・ジャマル、ホレス・シルバー、 マイルス・デイビス、チェット・ベーカーなどの器楽奏者からジョアン・ジルベルト、 エリス・レジーナといったブラジル系のアーチストまで多岐に渡っています。 今月以降もイタリア各地でライヴの予定がビッシリ詰まっている事からも、現地での人気の程が窺えます。

 それではアルバムの中身を紹介していきましょう。

 伴奏無しでいきなり始める#1。タイトル曲だけあって彼女の世界に引き込まれます。 これだけ聴いただけで大物新人だとお分かり頂けると思います。とても新人とは思えませんね。 デイブ・ブルーベックの作品#2。リラックスしてお酒が美味しくなりそうです。彼女が尊敬してやまないカーメン・ マックレイの十八番(おはこ)#3。エコライフが言われている今にピッタリの歌です。 それにしてもカーメンの影響が諸に出ているナンバーでした。ガーシュイン兄弟が映画 <ゴールドウィン・フォリーズ>のために作った曲#4.エラ・フィツジェラルドのお気に入りでした。 とても気持ちの良いスウィング感でこちらもいつの間にか指で調子を取ったりしてます。 #5は失恋から早く立ち直って再スタートしたいという前向きなバラッド。 皆さんにも心当たりがあるんではないでしょうか?クラブで聴きたい、とても落ち着いたナンバーです。 素晴らしいですね。超アップなテンポで進む#6。やはり只者ではありません。技巧的にも完璧です。 ミュージカル映画のために書かれた#7。 短調で始まって長調で終わるといったテクニックのある歌手や演奏家に好まれそうな曲ですね。 「あなたを失ったらどうしたら良いか分からなくなってしまうけど、傍に居てくれたら幸せなの」 という内容的には単純なものでした。ワルツのリズムが心地よい#8。ちょっと怪しい雰囲気が漂う#9。 万華鏡を見ている感じがしませんか?幻が現われた様に始まる#10。あまり歌われる事がありませんが、 ブランデイを傾けながら聴いていると本当に昨日までの事が幻の様に思えてきます。 哀しみを予兆するかのような前奏で始まる#11。何気なく歌っているようでちゃんと語っている所が素晴らしいですね。 普段はバラッドで歌われる事の多い#12。しかし、ここではアップテンポで進んで行きます。 失恋から立ち直って、これから自分自身の道を行くと言った内容にはピッタリですね。アルバム最後の#13は、 彼女の母国語であるイタリア語で歌っています。全くイタリア語が分からない私には歌詞の意味が分かりませんが、 ちょっと曲が<Fly to the moon>に似ている恋の歌らしい気がします。

 如何でしたか?デビューとは思えない素晴らしい歌唱でしたね。全体を通して聴いていると、 相当カーメン・マックレイの影響が強いと感じました。ディクションがしっかりしていて聴き易く、 CDを聴いているというより、どこかのクラブでグラスを傾けながら聴いているという錯覚に陥ります。 ペンギンでグラスを傾けながら聴くにはまさにピッタリですね。(笑)
 アルバムの番号は、50999-512842-2-0でブルーノート・レーベル、EMIから出ています。 ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。今のところ国内発売の予定はありませんので輸入盤でお楽しみ下さいね。

2008.4.6