Christiane Legrand

Nul ne sait〜誰も知らない


 何だか本格的に秋を感じる様になりました。今回は、こんな季節にピッタリのアルバムを紹介しましょう。 今も映画音楽やジャズ畑で活躍し続けるミシェル・ルグランの実姉、 クリスチャンヌ・ルグランがトリオ名義で発表した<Nul ne sait〜誰も知らない>です。

 クリスチャンヌ・ルグランは先にも言いましたようにミシェル・ルグランの実の姉。しかし、 よほどの音楽好きで無い限り彼女個人の名前は有名ではありません。しかし、 ジャズやクラシックのバッハが好きな方は彼女の所属していたグループの名前を一度は聞いた事も有るはずです。 彼女をここで少し紹介してみましょう。

 1930年8月21日生まれと言う事ですから今年78歳。4歳でピアノを始めると音楽全般に興味を持ち始め、 10代で歌手のバック・コーラスを担当するようになります。1950年、<フィリッピン> というヴォーカル・デュオを結成してデビュー。1954年にはブロッサム・ディアリーも所属していた <ザ・ブルー・スターズ>でアルバム<バードランドの子守唄>を発表。その後、 クインシー・ジョーンズの提案によって作られたグループ<レ・ドゥーブル・シス>に参加、そして、 1961年、彼女の名前を一躍有名にした<スウィングル・シンガーズ>を結成、アルバム <ジャズ・セバスチャン・バッハ>の世界的な大ヒットを記録しました。1961年〜73年の解散まで在籍し、 その間、ソロでもアルバムを発表しています。そのスウィングル・シンガーズ在籍時に 3度来日しており、 昨年(2007年)には弟のミシェル・ルグランのコンサートで再び来日、現在も音楽学校で指導する傍ら、 映画音楽でも活躍中です。そして今年2008年の10月には再来日してコンサートを行なう予定です。
 今回紹介するアルバム<Nul ne sait〜誰も知らない> は1989年に彼女がトリオ名義で発売したアルバムの再発で、彼女のヴォーカルとスキャット、 パトリス・ぺリエラスのピアノ、 マルク・ミシェル・ル・べヴィヨンのベースで作られた演奏は大変スリリングで素敵なアルバムとなりました。

 それでは紹介していきましょう。

 ディジー・ガレスピーの超難曲#1。フランス語のタイトルが<空飛ぶ絨毯> という様にアラビアンナイトの世界に入ったような感じがします。始めから衝撃が走りますね。 素晴らしいオープニングです。前編スキャットで歌われる#2。ジェットコースターの様です。 打って変わってタイトルにもなっている#3は美しいバラッド。文学的な詩を十分に堪能して下さい。 このアルバムでベースを担当しているマルク・ミシェルの作曲した#4。マルクのベース、 パトリス・ぺリエラスのキーボードとクリスティアンヌのヴォーカルが正にトリオです。 チック・コリア作曲の#5。スペイン風のこの曲、とても難しい曲ですが難なく仕上げています。 歌詞もチック・コリアに対する尊敬の念が表れていていいですね。 ちょっとクラシックの現代音楽を思わせる#6。曲の運び方、詩の内容、本当に芸術を感じますね。 素晴らしいのひと言です。これも超難曲の#7。彼女の声が完全に楽器として表現されています。 #4、#5と共に2部構成の曲になていますが、3曲とも1部と2部とのコントラストが鮮明で、 かつ全体を崩していないスムーズさ。技術が光ります。 このアルバムの中では一番ジャズっぽい雰囲気のするラスト#8。曲の最後もお洒落ですね。

 如何でしたか?とっても素晴らしいアルバムでした。この声を聴いて何処かで聞いた事があると思った方、 鋭いですね。40年以上前に日本でも大ヒットしたミュージカル映画、<シェルブールの雨傘> でカトリーヌ・ドヌーブが演じたジュヌビエーヴの母親役の歌の吹き替えが彼女でした。 因みにドヌーヴの歌の吹き替えは日本でも有名なダニエル・リカーリでした。
 先にも言いましたが、彼女の来日公演がこの秋、東京六本木にある<ビルボード・ライヴ・トウキョウ> で行なわれます。日程は10月28,29の二日間です。彼女の生の声を聴くチャンスです。 どうぞ足をお運び下さいね。
 アルバムの番号は、VICP-64393でヴィクターエンタテイメントから発売になっています。 ジャズヴォーカルかフレンチのコーナーに行ってみてください。

2008.9.28