OMARA PORTUONDO

GRACIAS


 映画<ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ>が公開されて一躍その名を馳せたオマーラ・ポルトゥオンド。 このコーナーでは#32で一度紹介しています。今年 78歳の彼女が前作<愛の花> 以来4年振りに新作を発表してくれました。この新作、 本当に素敵な仕上がりで傑作と言っても間違いないでしょう。

 前回彼女を紹介した(このコーナー#32)時、私は彼女がどんなに素晴らしい歌手かを言いたいばかりに、 彼女の経歴を書き忘れてしまいました。そこで、今回改めて彼女について少し触れておきたいと思います。

 1930年、キューバの首都ハバナで、白人の母親と当時野球選手だった黒人の父親との間に生まれたオマーラは、 15歳でダンサーとして世界3大ナイトクラブのひとつ、ハバナにある<トロピカーナ>で芸能界デビューします。 その後、歌手としてデビューしますが、その時に付けられて彼女のニックネームが<フィーリンの恋人>でした。 フィーリンというのは、 それまであったキューバの音楽にジャズの要素を加えて作られた当時の新しいキューバ歌謡です。 1952年、彼女は数年前に亡くなったエレーナ・ブルケ(このコーナー#142で紹介) らと共に4人のコーラスグループ<カルテート・ラス・アイダ>を結成します。このグループで1967年まで活躍、 同時にソロとしても活動していましたが、キューバ革命のため外部の音楽文化、 特にアメリカの音楽がキューバに入らなかったために、 フィーリン以降の新しい音楽の波がキューバには訪れなかったのも手伝って、 オマーラが広く世界に知られる事はあまりなかったのです。しかし、 1995年にキューバを訪れたアメリカの作曲家で歌手、 プロデューサーのライ・クーダーがオマーラと出合った事で事情は一転します。 キューバにいるベテランの音楽家を追ったドキュメント、<ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ> が世界的に大ヒット。オマーラも世界的に注目される事となったのです。そして4年振りに今回のアルバム、 <グラシアス>を発表するに至ります。

 それでは、早速紹介していきましょう。

 アカペラで始まる#1。今年(2008年)亡くなったフランスの偉大な歌手、アンリ・サルバドールの作品。 平和な風が流れている様な雰囲気が気持ちをリラックスさせてくれます。この曲で彼女を聴いた事がない人も、 きっとファンになってしまうでしょう。ちょっと寂しげな曲、#2。<アディオス> という言葉を聞くと何となく淋しく感じてしまいますね。ブラジルのシコ・ブアルキの代表作、#3。 ここでは、彼と歌の共演をしています。彼女が1974年に一度録音したことのある#4。 「シャンソンは3分間のドラマ」だと言いますが、ここでのオマーラの歌唱は、まさにドラマチック。 胸にジーンときますね。素晴らしい歌唱です。このコーナー#32で彼女を紹介した時の共演者、ギター奏者、 マルティン・ロハスの作品#5。ここではこのアルバムのプロデュースも担当している スワミ・ジュニオルが7弦ギターの伴奏でオマーラの歌を引き立てています。先ほども言いましたが、 オマーラとコーラスグループを結成していたエレーナ・ブルケ。彼女の代表曲であった#6。 彼女の追悼としてこの曲を歌ったとオマーラは語っています。このコーナーでかつて紹介した エレーナ・ブルケのアルバムの中でもこの曲を聴く事ができます(このコーナー#142)。 #6同様、パブロ・ミラネースの作品#7。 シンプルな演奏が曲の素晴らしさとオマーラの歌の素晴らしさを後押ししていますね。 #8はクラベスというキューバ独自の堅い木の棒を叩いてリズムをとる楽器だけを伴奏にして彼女の孫と歌っています。 オマーラが長いこと録音したかった曲だと言っている#9。流石に熱唱です。 アルバムのタイトルにもなっている#10。サンバのリズムで歌われるこの曲は、 作曲のホルへ・ドレクスレルがオマーラの為に書き下ろした新曲。彼とのデュエットも楽しそうに聴こえますね。 オマーラの息子、アリエール・ヒメネスの作品#11。ラテンフュージョン<イラケレ> で活躍したピアニストのチューチョ・バルデスのピアノに乗せてしっとりと歌っています。 こういったバラッド系の歌は本当に素晴らしいのひと言です。懐かしいシャンソン、 またはボレロといった感じの#12。う〜む、言葉を失ってしまうくらい素敵です。アルバム最後の#13は、 彼女の母親がとても好きだったというエリセオ・グレネの作品。 リチャード・ボナがアフリカンなアレンジでこの歌の世界を作っています。アルバムが終わったかと思ったら、 最後に#8の一節がでてきましたね。これで本当にアルバムは終わりです。

 如何でしたか?本当に素晴らしいアルバムでした。このアルバム、 ライナーやケースにオマーラのかつてのアルバムジャケットや写真、新聞の記事などが載っていて、 それもまた楽しめます。
 アルバムの番号は、輸入盤がMON 010でmontunoから、 国内盤はライス・レコードからHMR−783で出ています。ワールド・ミュージック、 キューバ音楽のコーナーに行ってみて下さい。

2008.11.9