IRENE KRAL

ANGEL EYES・Live In TOKYO


 暖かな日が続くようになりました。春本番です。今回紹介するアルバムは、 このコーナー#16で一度紹介したことのあるアイリーン・クラールが来日公演時に残したライヴの完全版、 <エンジェル・アイズ〜ライヴ・イン・東京>です。

 前回は彼女についてあまり詳しく述べませんでしたので、ここで少し彼女を紹介してみたいと思います。

 1932年アメリカのシカゴで生まれた彼女は、おしどりデュオで有名なジャッキー&ロイのロイ・クラールの妹で、 彼女がピアノを習い始めた高校時代に、 その兄の紹介でジェイ・バークハート楽団で歌い出したのがプロになるきっかけになりました。高校卒業後は、 チャビー・ジャクソンやウディー・ハーマンのバンドで歌い1955年にソロ歌手として独立、 メナード・ファーガスンやスタン・ケントン、ハーブ・ポメロイ、 アル・コーン等の楽団で唄った後ロス・アンジェルスに移って、シェリー・マン、ジュニア・マンスといった楽団と共演し、 アルバムも数枚残しています。その後は暫く主婦業に専念したいましたが、 1970年代初めに再びウディー・ハーマンのバンドで唄った時に、その所属ピアニスト、 アラン・ブロードベントと知り合った事を切っ掛けに復帰。 1974年には彼とのデュエット作でこのコーナー#16で紹介した<Where Is Love?〜恋の行方>を録音、日本を始め、 ア メリカでも話題となり日本ではスウィング・ジャーナルのヴォーカル賞を獲得、 アメリカでもグラミー賞にノミネートされました。その後、1977年に録音した<Kral Space>が再びグラミー賞にノミネート、 同年 7月、来日して今回紹介するアルバムを録音、翌月には再びアラン・ブロードベントとの デュエット・アルバム<Gentle Rain>を録音しますが、数年来患っていた乳癌の為、1978年8月15日 に帰らぬ人となったのです。

 今回のアルバムは、以前レコードで発売されていたものに、 2日間の東京公演で唄った全曲を重ならないように収録したものです。彼女のクールな語り口が春の季節にピッタリとします。 それでは、紹介していきましょう。

軽快な前奏と拍手に続いて登場するアイリーン。ミュージカル<晴れた日に永遠が見える> のテーマソング#1をスウィングして唄います。続いてマット・デニス作の#2をしっとりと。やっぱりバラッドは巧いです。 ボサノヴァの名曲#3。これも言葉の一つ一つがはっきりしていて聴く者を納得させますね。お気楽な歌詞が付いている#4。 指を鳴らしてしまいます。コール・ポーターの隠れた名曲#5。淋しすぎます。でも分かりますよね、その気持ち。 恋人が傍にいてくれると気分は春。でも、去ってしまうと死にたいほど哀しくなるって事。あなたにもそんな経験があるのでは? 来日時のコンサートではこの曲で幕を開けた#6。スティーヴィー・ワンダーの名曲ですね。 太陽がサンサンと光り輝いていると言った歌唱です。まるで逆をいく#7。 やっと忘れたと思った昔の恋人と偶然に出くわしてしまって、再び落ち込んでしまうといった曲。まあ、 何とも言えなく哀しくなります。スローなテンポのボサノヴァで唄う#8。このまま眠ってしまいそうです。 スウィンギーに唄う#9。最後がお洒落ですね。「ロマンチック」。この言葉がピッタリな#10。お酒が美味しいですね。 コンサート初日のアンコール曲だった#11。快調にスウィングして素敵です。稲葉国光のベースがいい味を出している#12。 歌詞が面白い#13。変な歌です。惜しくも今年2月に亡くなったブロッサム・ディアリー。彼女の作品#14。 アラン・ブロードベントのピアノとデュオでしっとりと聴かせます。ホッとしますね。再びアランとのデュオで贈る#15。 説得力のあるアイリーンの唄に涙がこぼれてきそうです。 このコーナー#16で紹介したアイリーンのカムバック・アルバムのタイトルにもなっている#16。前半はピアノとのデュオ、 後半はベースとドラムが入ったトリオで唄われますが、とても素晴らしい出来です。ライヴとは思いませんね。 しっとりとした後はリズミックな#17をどうぞ。アランのピアノが乗ってます。 アン・バートンを初めとしてバラッドが得意な歌手に歌われる事の多い#18。アイリーンの本領発揮です。 日本で唯一アカデミーの助演女優賞を獲得している今は亡きナンシー・梅木。彼女の主演したミュージカル <フラワー・ドラム・ソング>で歌われる#19。軽快な伴奏と共にアイリーンも楽しそうです。 アランとのデュオでメドレーを唄う#20。このアルバム最後の#21は、演奏者を紹介した後にミュージカル <ショー・ボート>からのナンバーを軽快に唄います。そして幕。彼女の生の歌声に接する事が出来たのもこれが最後でした。 この後1年少しで彼女は帰らぬ人となったのです。

 如何でしたか?とても素晴らしいアルバムでしたね。ライヴ会場にいるような錯覚に陥りました。
 アルバムの番号は、MZCF-1186でMUZAK.INC.から出ています。ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。

2009.4.12