JENNY ALPHA

Le Serenade du Muguet


 6月に入り鬱陶しい梅雨が始まりますね。そんな気持ちを跳ね返すのに、こんなアルバムはどうでしょうか? 98歳でアルバムデビューを果たした奇跡の大型新人?ジェニー・アルファの<鈴蘭のセレナーデ>がそのアルバムです。

 98歳でデビューアルバム?と聞いて驚いた方、きっと大した事無いなと思った方も一度聴いてみて下さい。 その確かな歌唱、リズム感はとても98歳とは思えない筈です。

 ジェニー・アルファを知らない方の為に、少し彼女について話しましょう。 詳しくはライナー・ノーツを見ていただきたいのですが、ここでは簡単に少しだけ。

 1910年4月10日フランス領のマルチニック島で生まれ彼女は、まさに現在99歳。このアルバムは昨年 (2008年)5月の録音ですから、録音当時は98歳という事になりますね。彼女は裕福な、 そして教養のある家に生まれたからか、教鞭をとりたいと19歳でパリに出ると、 詩人のロベール・デスノス、画家のアンドレ・ドラン、演劇のジャン・ルイ・バロー、 歌手のシャルル・トレネ等と知り合いになります。 1939年にギメ美術館の秘書になったジェニーは島のカーニバルを題材にした出し物でキャバレーに出演します。 丁度そこに来ていたパテレコードの関係者が感激し彼女に目を付けSPレコードを録音します。 その後、美術史家のジャック・デゼールと結婚、しかし数年後の1942年、ジャックと死別。 再び第二次世界大戦後パリに出て詩人ノエル・ヴィヤールと再婚し歌手としてカリビアンショーを主催、 全国を巡演するようになります。1953年には再びパテレコードが彼女の歌を録音(その内の2曲がこのアルバムに収録) しますが、その後50年以上、彼女は録音の機会に恵まれませんでしたが、その間も演劇や歌手として細々ではありますが、 芸能活動を続けていたのです。2000年にジャズフェスティバルに出演していたピアニストのダヴィッド・ ファクールの演奏に感激し、彼と知り合った事から彼のアルバム<ジャズ・オン・ビギンVol.2> にゲストヴォーカルで参加しますが、その時の録音があまりにも素晴らしかったために、 今回の彼女名義のアルバム録音の話が持ち上がり、2008年5月にファクールのトリオにマルチニック島出身の歌手 トニー・シャスール、フランソワ・アルディーの息子、トマ・デュトロン、サキソフォン奏者の グザヴィエ・リシャルドーなどが加わった楽団をバックに彼女は8曲を録音します。 それが今回紹介するアルバム<鈴蘭のセレナーデ>なのです。このアルバムは本国フランスでは2008年10月にリリースされ、 プレス各誌に絶賛されたのです。

 それでは紹介していきましょう。

 最初の声を聴いた瞬間の驚き。この優しさ、美しさ。とても98歳だとは思えないくらい美しい彼女の自作#1。 現在マルチニック島で人気の歌手、トニー・シャスールとの共演#2。別録音とは思えないほどピッタリ息が合っています。 軽く踊りだしそうな#3。バックの演奏がとってもシャレている#4。ファクールの流れる様なピアノの演奏が秀逸です。 サン・ピエールというマルチニック昔の首府で歌われていたという民謡、#5、#6、#7。 楽しそうな情景が浮かんできます。このサン・ピエールは火山の大噴火で100年ちょっと前に壊滅したという事ですが、 壊滅する前の町の様子を見たくなりました。ジャングルを想わせる演奏にのってジェニー自身の作った寓話を彼女が語る#8。 男の子と猫の物語です。お婆さんが小さな子供に語り掛けている姿が目に浮かびますね。これからの2曲は、 先にも記したように、1953年1月15日にフランスのパテ・レコードにクラリネット奏者のシルヴィオ・ シオビュの楽団と録音したものです。彼女の作品#9。#1と同曲ですが、その若々しい歌声に今とは違った驚きを感じます。 #4と同曲の#10。哀愁を帯びた歌声と演奏がとても素晴らしいじゃありませんか。 

如何でしたか? カリブ海の風を感じませんか?とても98歳の時に録音したとは考えられないほどしっかりとした歌声とリズム感でしたね。
アルバムの番号は、FCPCD6316でオルターポップから発売されています。ワールドミュージックのコーナーに行ってみて下さい。 なお、彼女の最新映像をDailymotionで見る事ができますので、興味のある方はアクセスしてみて下さい。

2009.6.6