THE MANHATTAN TRANSFER

the chick corea songbook


 急に寒さがきたと思ったらまた過ごし易い気候になったりと秋の気温は目まぐるしく変わりますね。さて、 長いこと活躍し続けるのは大変なものですが、コーラス・グループといえばこのマンハッタン・トランスファー の右に出るグループはいないのではないでしょうか。彼らが今のメンバーになってから30年を過ぎた今年(2009年) に発表したのは、何とジャズ界の大物、チック・コリアのソングブックです。 今年も残すところ2ヶ月という所で凄い話題作が登場しました。

 今更言うまでもありませんが、マンハッタン・トランスファーについて少し述べておきましょう。

 1969年にティム・ハウザーを中心に結成されたこのグループはキャピトル・レコードにアルバムを残しますが、 1971年に解散してしまいます。翌72年、ローレル・マッセーと知り合ったティムは、ジャニス・シーゲル、 アラン・ポールを加えて1973年にグループを再結成します。翌74年からパフォーマンスを開始するのですが、 そのステージを観たベッド・ミドラーが彼らを認めて1975年にアトランティック・レーベルと契約し、 アルバム<The Manhattan Transfer>で再デビューします。 群を抜くコーラステクニックで初めはヨーロッパで人気を博します。所が1978年、メンバーのひとり、 ローレル・マッセーが自動車事故にあって離脱してしまいます。 すぐさまオーディションを行なって選ばれたのがシェリル・ベンティーンでした。 これでメンバーが今と同じになったのですが、79年に発売した<エクステンションズ>というアルバムの中から <トワイライト・ゾーン/トワイライト・トーン>が全米でヒット、 同じアルバムに入っていたウェザー・リポートの<バードランド> のヴォーカリーズ版が話題になりグラミー賞にノミネートわれます。そして1981年、 ついにグラミー賞を獲得すると人気は不動のものになったのです。今回発売になった新作は、ジャズ、 フュージョンの世界で大活躍するチック・コリアの作品を集めて歌っています。 2009年に発売されたジャズ系のアルバムでは大きな話題作になる事は間違いありません。

 それでは紹介していきましょう。

 アフリカの森をイメージさせる音で始まった#1。このアルバムのためにチック・コリアが作曲した新作です。 1970年代にチックが作っていたフュージョンバンド、<リターン・トゥー・フォーエヴァー>の時を連想させる素敵な曲です。 この曲、作詞もチック本人が担当しています。ロドリーゴの<アランフェス協奏曲>を#3の前奏として用いた#2。 そしてそれに続く#3は前述リターン・トゥー・フォーエヴァーの作品<ライト・アズ・ア・フェザー>の収録されたもの。 その時のアップテンポに比べると大分テンポを落として表現しています。 歌詞はこの作品に初めて詞を付けたアル・ジャローのものをベースにしています。 こんなに難しい曲をコーラスにしてしまうなんて、何て素晴らしいのでしょうか。1978年発表の<フレンズ>から#4。 これぞマントラってな感じの曲です。これも<フレンズ>からの#5。ちょっと変わった曲ですが、 これもコーラスにしてしまう凄さが驚きですね。#6は前出<ライト・アズ・ア・フェザー>に入っていた曲。 出だしはいかにもマンハッタン・トランスファーっぽくて彼らに書かれたオリジナルのようですね。 #7はリターン・トゥー・フォーエヴァー時代の曲。宇宙の広さを感じさせるメロディーです。 ティム・ハウザーが子供と共に作詞しています。 #8はリターン・トゥー・フォーエヴァーに参加していたフローラ・プリムがチック作曲のインストルメンタルを ネヴィル・ポッターに作詞してもらい歌った曲。短い曲ですが、歌詞の内容も濃く、終わり方もとてもお洒落です。 シェリル・ベンティーンとジャニス・シーゲルが詞を書いた#9。 同じメロディーの上に違うメロディーを重ねていくといったちょっと変わった曲です。それにも増して変わって聴こえる#10。 アルバム<妖精>に入っていた曲ですが、妖精が飛び回っている様子があなたにも見えますか? チックの父親に捧げたアルバム、<マイ・スパニッシュ・ハート>に入っていた曲#11。 ジャニス・シーゲルがチックの両親に捧げて歌詞を書きました。ダンスをする両親が目に見える様ですね。 素敵なラテン・ナンバーです。アルバム最後の#12はこのアルバムの最初の曲のロング・ヴァージョン。 始めからず〜と聴いているとコンサートに行っているみたいな錯角に陥るアルバムです。

 如何でしたか?とても素晴らしいアルバムでした。ヒットは難しいかもしれませんが、 マンハッタン・トランスファーの代表作に間違いなくなるでしょう。
 アルバムの番号ですが、KICJ569でキングレコードから出ています。ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみて下さい。

2009.11.8