KAD ACHOURI

lettre a marianne



 梅雨時期、嫌な季節です。雨の続く日々は、昼はコーヒーや紅茶、 夜はお酒を飲みながら部屋でゆっくりしたいものです。そんな時にピッタリなアルバムを紹介しましょう。 キャド・アシュリのニュー・アルバム<マリアンヌへの手紙>です。

 おそらくこのサイトをご覧になっている多くの方がこのキャド・アシュリを知らないと思います。しかし、 彼はこれからの音楽を担っていくと言う点で特にヨーロッパでは重要な人物の一人と言っても過言ではないでしょう。

 そこで少し彼の経歴を紹介したいと思います。
 1969年にアルジェリア人の移民2世として南フランスのマザメという町に生まれた彼は高校から大学時代まで テニス選手として活躍していましたが、音楽の夢を捨てられず トゥールーズの音楽院に転入し音楽を学んでいきます。卒業後はスペインのバルセロナに移住。 ジャズ・ピアノを学びながら5年間を過ごし、93年にはロンドンに移住します。 そこでバー・ピアニストとして働いている間に曲を書き溜め99年にラテン・ハウスの曲でシングル・デビュー。 2001年にナターシャ・アトラスのアルバムに曲を提供してから注目を集め、翌2002年、 アルバム<リベルテ>でソロ・デビュー。05年にはセカンド・アルバム<ソシエテ>を発表。 その洗練されたサウンドが注目を集めました。07年には西サハラのバンド、<ティリス>のアルバム・ プロデュースも手掛けています。そして昨年発表されたのが3枚目のアルバム<マリアンヌへの手紙>です。 ちょっとメランコリックでお洒落なこのアルバム。早速紹介していきましょう。

 淋しげなイントロで始まる#1。切ない恋心を唄った曲でバンドネオンの響きが哀愁を誘いますね。 アルバムのタイトル曲#2。フランスという国に対する移民の気持ちが唄われます。ジプシー音楽っぽい#3。 演奏が二人の別れを暗示するような#4。ランボーの詩にキャドが曲を付けた#5。 戦いに倒れた兵士の姿が眼に浮かびます。演奏も詩を表現していて素晴らしいですね。 フルートが印象的に使われる#6。自分の父親を含めた移民一世が新しい世の中に溶け込むために費やした時間。 彼らに愛を込めて唄う#7。ボリス・ビアンの詩に曲を付けた#8。 語りで始まる冒頭の部分が強烈なインパクトを与えてくれます。体が思わず動いてしまう#9。 キャズの娘を唄った#10。愛情が溢れていますね。かつてのシャンソンの匂いがする#11。 個人的には大好きな曲です。#12はインストルメンタルで。正しくこれはジャズですね。アルバムの最後、 #13は大きなテーマ、何故こんなに愛し合わない世界になっているの?という疑問を私達に投げかけます。 タイトルの<マリアンヌへの手紙>の内容は、実はこの#13 の詩だったんじゃぁないのかなと思ったりしました。

 如何でしたか?ちょっとメランコリックでアンニュイ。梅雨の時期、 部屋で何気なく聴いているにはピッタリのアルバムでした。
 アルバムの番号は、OMCX1242でオーマガトキレーベル、コロンビアから発売になっています。 ワールドミュージック、シャンソンのコーナーに行ってみて下さい。

2010.6.19