MICHAEL FEINSTEIN & CHEYENNE JACKSON

The Power of Two



 暑い夏がやっと終わって一気に秋の様相。ホッとしている方も多いのではないでしょうか? ちょっと落ち着いてグラスでも傾けたいと思っている方も多いでしょう。 そんな方にお勧めのアルバムを紹介しましょう。このコーナー#22、#38に続いて3度目の登場、 マイケル・ファインステインとブロードウェイで活躍するシェイン・ジャクソンの共演アルバム、 <ザ・パワー・オブ・トゥー>がそのアルバムです。

 彼らを知らない方のために、少しここで紹介してみましょう。

 マイケル・ファインステインはアメリカ・オハイオ州コロンバスの生まれ。5歳でピアノを始め、 高校卒業時には既に地元のピアノ・バーで働き始めていました。20歳の時に ロス・アンジェルスに移住しますが、そこでジョージ・ガーシュインの兄、 アイラ・ガーシュインと知り合い弾き語りに目覚めると同時にガーシュイン 兄弟の未発表の曲の管理を数年に亘り任せられるようになります。 1986年に実質的には2枚目のアルバムとなる<Pure Gershuwin>を録音。同年、ニュー・ヨークにあるホテル、 アルゴンキンでの ライヴ録音でアルバムデビューし、今までに25枚以上のアルバムをリリースしています。 アメリカの名曲を次々にアルバムに残している彼には、「ミスター・アメリカン・ソング」 と言う愛称まであるのです。またマンハッタンのパーク・アヴェニュー60丁目付近にある リージェンシー・ホテル内のナイトクラブ<Feinstein's at the Regency>のオーナーでもあります。
 一方のシェイン・ジャクソンはブロードウェイで今最も輝くスターの一人です。 2002年にニュー・ヨークに出てミュージカル<モダン・ミリー>でデビュー。その後、<アイーダ> を経てこの11月に日本でも上演予定のオフ・ブロードウェイ・ミュージカル<アルター・ボーイズ> でオリジナルのマシュー役を演じ注目を集めます。2004年にはブロードウェイでミュージカル <オール・シュック・アップ>のチャド役で多くの賞にノミネート。2005年には映画<Curiosity> でスクリーン・デビュー。2007年には再びブロードウェイに戻って<ザナドゥー> でドラマディスク賞にノミネート。 2009年にはこのアルバムを録音し、 マイケルとのジョイント・コンサートを行ないました。丁度1年前にオープンしたブロードウェイ・ミュージカル <フィニアンの虹>のリバイバルで主人公の少女と恋に落ちる青年を好演。 来年にはHBOで全米に放送されて大人気の<Curb Your Enthusiasm>がオンエアされる予定で す。

 二人ともアメリカでは絶大な人気を誇っているのが良く分かりますね。それでは早速聴いていきましょう。

 1989年にオープンしトニー賞を獲得したミュージカル<シティー・オブ・エンジェルス>からの#1。 「あなたがいなかったら・・・」という何やら意味ありげなオープニ ングです。 1927年に発表され今でも多くの歌手に歌われている#2。二人の息もピッタリです。 丁度今、青山の円形劇場で上演されている戸田恵子主演のオフ・ブロードウェイ・ミュージカル <今の私をカバンにつめて>。そのメイン・テーマとでも言える#3。 1981年に雪村いづみ主演で上演された時には<旅立て女たち>というタイトルでしたが、 その時の雪村いづみの熱演が今でも頭を過ぎります。ここではマイケルがしっとりと歌います。 1937年の映画<A Damsel in Distress>の中で使われ多くの歌手に取り上げられ た#4。 シェインのモダンな歌い方がいいですね。シェイクスピアの戯曲<じゃじゃ馬馴らし> を基にして出来たミュージカル<Kiss Me Kate>。その中で最大にヒットした曲#5。 マイケルが 軽くスウィングして歌います。#6はシェインが今年1月までブロードウェイで出演していた <フィニアンの虹>から。勿論シェインが歌います。軽いボッサのリズムでマイケルが歌う#7。 1969年のニュー・ヨーク、クリストファー・ストリートで起こった所謂<ストーン・ウォール事件> の後に書かれた曲で、ゲイのカミング・アウト・ソングとしても有名です。 がらっと雰囲気が変って豪快にスウィングするシェインの歌#8。デューク・エリントンと ビリー・ストレイトホーン・コンビの作品ですが、感想で彼らの他の曲を入れたり、 スキャットで盛り上げるシェインが恰好いいですね。このアルバムのタイトルになっている#9。 カントリー・タッチの曲が心地よいです。ファッツ・ウォーラーやクレオ・レインの名唱が今でも思い出される #10。マイケルがノリノリでシャウトしています。しっとりとシェインが歌う#11。 ホーギー・カーマイケルの曲とデューク・エリントンの曲のメドレーですが、 一つの曲の様に聞こえるアレンジが素晴らしいですね。勿論、シェインの歌は言うまでもありません。 ミュージカル<王様と私>の中で歌われる#12。しかし、この曲を男性二人で歌われると・・・、 ですね。何と相性のいい二人なんだろうと歌う#13。#1とのメドレーで締め括ります。 アンコールのクレジットで追加されている最初の#14は、1968年にエルヴィス・プレスリーが放った スマッシュ・ヒット。アルバム死後の#15はガーシュウィンのミュージカル<オーケイ>からのスタンダード。 シェインが詞を噛み締める様に歌っています。「誰かが自分を見守ってくれている」という意味の曲ですが、 このアルバムを聴いていると益々意味深に聴こえます。素晴らしい歌唱でした。

 如何でしたか?一つのショーを観ている様なアルバムでした。二人は昨年(2009年) にこのアルバムをコンセプトにしたライヴを行なっていますが、今月(2010年10月29日)、 カーネギー・ホールで1日限りのコンサートを再演します。行けないのがとても残念ですが、 何時かこの二人のショーを観たいなと思ったのは、このアルバムを聴いた、 あなたも一緒なのではないでしょうか?
 アルバムの番号は、HCD-2504 でHarbinger Recordsより発売されています。ジャズ・ヴォーカルの コーナーに行ってみて下さい。

2010.10.9