Edith Piaf

AT CARNEGIE HALL、1957



今年の夏は酷暑でした。ここに来てようやく秋を感じる様になりましたね。秋と言えばシャンソン。 今回紹介するのは、今でもフランスでは人気が衰えない没後 47年になるエディット・ピアフのアルバムです。 彼女が1957年にアメリカはニュー・ヨークにある音楽の殿堂、カーネギー・ホールで行なったライブを収録した <アット・カーネギー・ホール、1957>です。

シャンソン好きな人や、50歳以上の人は、一度は聞いた事がある彼女の名前。 日本でも彼女の歌を今は亡き越路吹雪さんがリサイタルで何度も取り上げたほか、 美輪明宏さんもその生涯を舞台化していますし、外国でも芝居の題材になっています。 ミュージカルもウエストエンドやブロードウェイで上演されています。最近では、 彼女の生涯を映画化した作品の中で、エディット・ピアフを演じたマリアン・コティアールが アカデミー賞の主演女優賞を獲得したので、映画好きな若い方なら知っているかもしれませんね。 しかし、殆どの若い方は知らないと思います。そこで、彼女について少し紹介しておきましょう。

彼女は1915年12月19日にパリにあるトノン病院で産まれました。 (もう一つパリの路上で産まれたという説もありますが、こちらは虚構のようです。) 幼い頃から大道で父親とともに芸をして貧しい生活を送っていましたが、 父親が病で倒れると彼女は路上で歌って生活をする事となるのです。その後、 腹違いの妹を連れて町で歌い続けている時に、ナイトクラブのオーナー、 ルイ・ルプレが彼女の才能を見込んで店のステージに立たす事となり、 モーム・ピアフの芸名でプロとして歌い始めるのです。しかし、1936年、そのルプレが何者かに射殺され、 その嫌疑がピアフの身に降りかかったのです。 釈放されてからもあれこれと嫌疑をかけられ意気消沈していた彼女はクラブで歌う事をさけ、 映画館や軍港で歌うようになりました。そんな時、偶然にも作詞家で歌手のレイモン・アッソ と出合ったことから彼女の運が上向きになっていきます。徹底的に日常生活の常識から彼女を鍛え上げた アッソの力添いで1937年には<ア・べ・セ>という劇場に出演する事が決定し、 芸名もエディット・ピアフに変えて再スタートを切ります。そして、翌年劇場<ボビノ>に出演した時には、 その名声を確固たるものにしていたのです。なかでもジャン・コクトーが彼女を絶賛し、 その賛美は彼女の死まで続くのです。イヴ・モンタン、ジャック・ピルス、ジョルジュ・ムスタキ、 シャルル・デュモン、そして最後の恋人テオ・サラポと浮名を流したピアフですが、 やはり最愛の恋人はプロボクサーのマルセル・セルダンだったのは間違いありません。<青のシャンソン> <愛の賛歌>の2曲は彼に捧げられた曲として有名ですね。 アルコール依存症が原因で幾度も地獄を見た彼女は1963年の10月10日、ついに帰らぬ人となってしまったのです。 同日その知らせを受け取ったジャン・コクトーも心臓麻痺でこの世を去っています。 彼女は幾度かアメリカに演奏旅行に行っていますが、今回紹介するライブはニュー・ヨークの カーネギー・ホールで1957年に行なったものです。
それでは紹介していきましょう。

まずはDisc-1から。大きな拍手で迎えられて歌う#1。とても力強い声でその魅力に惹きつけられます。 この曲はレ・コンパニオン・ドゥ・ラ・シャンソンという9人組のコーラスグループ と吹き込んだ曲としても有名です。ジャック・ピルスと新婚の頃、二人で出た映画<パリ繁盛> の中で歌われた#2。作曲はジルベール・べコーです。英語で歌う#3。 アメリカ公演に懸ける意欲が見られますね。このライブの時には新曲だった#4。 日本人のシャンソン歌手にも多く取り上げられている#5。シャンソンは一話のドラマと言われますが、 彼女の歌っている風景が見えるような気がします。#6は彼女のビッグヒットの一つ。水夫と女の物語です。 英語で歌っているので歌詞をちゃんと聴いてみて下さい。これも大ヒットした#7。 終わり方がコメディー・チックですね。ピアフを語るときに必ずと言っていいほど登場する曲#8。 ジャクリーヌ・フランソワのヒット曲でもありますね。 イヴ・モンタンと恋仲だった時に彼を推薦して出演させた映画<夜の門>の中でモンタンが歌った#9。 勿論モンタンのヒット曲ですが、アメリカで人気があった事からピアフもこのライブで取り上げたのでしょう。 最初はフランス語で、後半は英語で歌っています。Disc-1の最後#10は。 そのモンタンと共演した映画の挿入歌。実際には結婚しなかった二人ですが、 この映画の中ではめでたく結婚するのです。最後に流れるのが結婚行進曲というのもオシャレですね。
それではDisc-2を紹介していきましょう。バックのコーラスが印象に残る#1。 ワルツのリズムが感動を増長させる#2。ジャック・ピルスとの結婚にインスパイアされた曲#3。 一人の小男を歌った#4。とても味があります。オートバイの男を歌った#5。とても勇ましいですね。 フランス語と英語を交えて歌う#6。メリー・ゴー・ランドを恋に喩えて歌っています。 とてもシャンソンぽいと思いませんか?テレグラフで送られてくる通信の思い出。ず〜っと昔の淡い恋。 通信音が印象的な#7。ピアフの数ある代表曲の中でも特にと言ったらこの一曲でしょう。 #8はある一人のアコーディオニストを歌ったドラマチックな歌です。 そしてシャンソン好きな人なら誰でも知っている#9。ここでは英語で披露しています。 ある道化師の最後のパフォーマンスを歌った#10。サーカス小屋の中にいる気分にしてくれます。 日本に最初に紹介されたシャンソンで彼女の最大のヒット曲#11。後半は英語で歌っていますが、 やっぱり英語はちょっと合いません。 そしてアルバム最後の#12は天国の門の前にいる罪深い人々を歌った歌です。 この歌でカーネギー・ホールのコンサートは幕を閉じます。なんとも意味深い終わり方ですね。 ブラボーの声が後を絶ちません。

如何でしたか?本当にコンサート会場にいるような錯覚に陥っていまいましたね。 ピアフの声もとても良く出ていて最高のパフォーマンスを披露したに違いありません。 やはり秋にはシャンソンが似合いますね。
アルバムの番号は、FVDD069でFANTASTIC VOYAGEレーベルから出ています。 シャンソンのコーナーに行ってみてください。


2010.10.23