Cecile McLorin Salvant

Cecile



 梅雨に入る前のこの時期、何かと落ち着かない感じがしませんか? そんな時にホッとするアルバムが届きました。昨年(2010年)、新人ジャズプレイヤーの登竜門、 セロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションのヴォーカル部門で優勝した セシル・マクロリン・サルヴァントのデビュー・アルバム<セシル>がそのアルバムです。

 セロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションはジャズ界で最も権威のある コンテストです。年ごとに部門が変わり、昨年はヴォーカルの年でした。今までも、 このコーナーでも紹介したことのあるジェーン・モハイト、ロバータ・ガンバりーニなどが受賞しています。 そのコンペで優勝したのですからその実力はお墨付き。 ちょっとジャケットを見ただけでは手が伸びないかもしれませんが、是非聴いて頂きたいアーチストです。

 デビュー・アルバムですから、セシル・マクロリン・サルヴァントを知らない方が殆どだと思います。 彼女を少し紹介してみましょう。

 現在21歳のセシルはアメリカのマイアミでハイチ人の父親とフランス人の母親の間に生まれピアノを5歳で、 合唱を8歳で始めマイアミ大学ではヴォーカルのレッスンを受けています。 大学時代にジャズクラブなどで歌いだし、2007年にはコーラル・リーフ大学院で学士号を取るために学び、 現在もフランスのアクサン・プロヴァンス芸術学校で学んでいる現役の学生です。その彼女が2010年、 セロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションで優勝し、 2009年11月と2010年1月に録音されたこのアルバムでデビューすることになったのです。 先ほども言いましたように、ジャケットを見ると手が伸びないかもしれません。しかし、 一度聴いてください。聴いて良かったと思うのは間違いないでしょう。

 それでは紹介していきましょう。

 アコースティック・ギターの伴奏で始まる#1。多くの歌手がカヴァーしている曲。 途中のサックスとの掛け合いを聴いているととても現役の大学生だとは思えませんね。とてもお洒落な#2。 アーヴィング・バーリンの代表作の一つ、#3。スウィング感も抜群ですね。 デューク・エリントン楽団の専属歌手だったアイヴィー・アンダーソンが放った大ヒット曲の#4。 ちょっとビリー・ホリデイを想わせるブルージーな歌唱です。サラ・ヴォーン並みの低音が気になる#5。 このコーナーでも紹介した事のあるロレス・アレキサンドリア始め女性歌手が多く取り上げる#6。 しっとりとして良いですね。軽いスウィングが心地よい#7。ブルースの女王、 ベッシー・スミスの十八番だった#8。良きアメリカの時代が目に浮かぶ様です。 バラッド調にヴァースから歌い出しアップで歌うコーラス部分。もうベテラン歌手かと思わせるような#9。 伴奏陣もノリノリで良いですね。オフ・ブロードウェイのミュージカルで晩年のビリー・ ホリデイが行なったジャズクラブでの一夜を扱った<レディ・デイ>。 そのオープニングに使われた彼女の曲#10。今でも日本版<レディ・デイ> を演じたちあきなおみの気怠い声が耳に残っていますが、セシルの大人びた声もとても素敵です。 丁度今リヴァイヴァル公演がブロードウェイで始まったばかりのミュージカル<エニシング・ゴーズ> からの#11。ミュージカルで歌われるテンポとは全く違ったテンポで歌っています。 アルバム最後の#12は今から100年近く前の曲ですが、今だに多くの歌手が取り上げている名曲です。 ゆったりとしたヴァースからスウィングするコーラスへと、正にベストの歌唱ではないでしょうか。

 如何でしたか?きっと聴いて良かったと思って頂けたと思います。 既に大物の雰囲気があると思うのですが如何でしょうか。アルバムの番号は、 AGIPー3504でAGATEレーベルから出ています。ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行ってみてください。

2011.5.29