Keith Jarrett

The Melody At Night,With You



なんで今さら、なんて思わないで下さい。梅雨時の今だからお薦めする んですから。
キース・ジャレットは、もう説明する事もない位に世界的な名声を得て いる人です。70年代初頭はあのマイルス・デイヴィス・グループの一員 として大きな注目を集めましたが、その後、世界各地でピアノ・ソロ・コ ンサートを開き、他のピアニストにはないピアノ・ソロの世界を作り上げ ました。その彼が今世紀最後の年に素敵な作品を送り出してくれました。 この作品で注目されなければならないのは、今までのキース・ジャレッ トのソロに見られる感覚的な音の作り方ではなく、あくまでもスタンダー ドをスタンダードな手法で作り上げている事です。それはまるでビル・エ ヴァンスのピアノ・ソロ・アルバム<alone>の様に。勿論、言うま でもなく楽曲に対するアプローチの仕方は違いますが。それでは紹介して いきましょう。

#1はガーシュインの書いた傑作オペラ、<ポーギーとベス>からのナ ンバー。静かなアプローチから次第に高まっていく感情の波を感じとる事 が出来ます。この1曲でキースの世界を自分の世界に引き込めたのではな いでしょうか?デューク・エリントンの#2。エリントン楽団では当時の 専属歌手、アイヴィー・アンダーソンが唄って大いにヒットしましたが、 このブルージーなバラッドの表現も「素晴らしい」の一言に尽きますね。 彼の唸る様な声も聴く事が出来ます。
オスカー・ハマーステインとジェローム・カーンの#3。ガーシュイン のミュージカル<オー・ケイ>からの#4。<やさしい伴侶を>の邦題で も有名ですが、その通り、見守ってくれている誰かに捧げている様な演奏 です。トラディショナルからの#5。オスカー・レヴァントの曲とキース のオリジナルのメドレーで綴る#6。まるで過去の何かを精算しているか の様に聞こえるのは私だけでしょうか?キースのオリジナル曲にレヴァン トの曲が挿入されているアレンジも見事です。
アーサー・シュワルツの#7では哀しくて、そしてやるせない気持がよ く表れています。サミー・カーンとニコラス・ブロスキーの#8には少し 明るい兆しが見え始めます。そして再びトラディショナルからの#9では 「悟り」の胸中を告白するかの様な語り口で聴く者の心をとらえます。明 日を感じさせる表現ですね。そして#10でこのアルバムは静かにおわり ます。

如何でしたか?何故この梅雨時にこのアルバムをお薦めしたのかが分っ て頂けたと思います。<外ではしとしとと雨が降っている。誰も居ない部 屋で間接照明の灯がゆらゆらと揺れている。そして、キースのこのアルバ ムが流れている。>こんなシテュエーションにピッタリだとは思いません か?また、気持を落ち着けるにも最適なアルバムだと思います。どうぞ聴 いてみて下さいね。ジャズのピアノのコーナーに置いてあります。


CDナンバーは ECM1675 547949ー2 です。