Denise Jannah

The madness of our love



今回紹介する歌姫、デニス・ジャンナについては、おそらくほとんどの 方が聞いた事がないかもしれません。しかし、ヨーロッパではノースシー ・ジャズ・フェスティバルに参加しているし、ここ数年の間には世界ツア ーも計画されるなど隠れた実力派の歌手として知る人ぞ知る存在なのです。
彼女は南米のスリナムという小さな国の出身です。それからヨーロッパ に渡ってきた経緯については資料がないので判らないのですが、およそ1 0年位前からオランダを中心に歌っている様です。そしてそのキャリアの 中には、先にあげたノース・シー・ジャズ・フェスティバルをはじめ、フ ィンランド のポリ・ジャズ・フェスティバル等に出演し、聴衆の 大喝采を浴びたのでした。また、オランダの女王やアメリカのクリントン 大統領の前で歌声を披露した事もあったのです。1993年には彼女のセ カンド・アルバム、<A Heart Full of Music>でオランダのグラミ ー賞ともいえる、エジソン賞を獲得したのでした。このアルバムはタイム レス レーベルより発売になっていますが、ピアニストのサイラス ・チェスナットやドラマーのビリー・ハートが参加していると聞いている のでどんなに素晴らしかったかが想像できます。
彼女についての前置きはこれくらいにしてこのCDの紹介を始めま しょう。

いきなりジャズっている#1。このアルバムの音楽監督でもあり、ピア ニストのバート・ヴァン・デン・ブリンクのアレンジが特に素晴らしく、 彼女の実力の程を知ってもらうのには最高のオープニングとなりました。 ゆったりスウィングする#2は彼女の作詞、作曲です。セロニアス・モン クの有名曲#3は今までに聴いた事のないテンポで進みます。#4は映画 <サンド・オブ・ミュージック>でお馴染みの曲。この曲の場合、いろい ろな歌手が言葉で遊びますが、ジャンナの場合は歌詞では遊ばずに音で遊 んでいます。
このアルバムのタイトルにもなっている#5は#2と同様彼女の作品。 作曲の能力も光ります。アップテンポでぐいぐい押しまくる#6。バック のトリオ演奏も乗ってますね。軽いボサ・タッチの#7はジョニー・マン デルのアカデミー賞曲、<いそしぎ>の邦題でも良く知られていますが、 ここではミレイユ・マチューなどに詩を提供しているエディー・マルネの フランス語詩で唄っています。
映画の主題歌2曲のメドレーで綴る#8は簡単に恋に落ちてしまう自分 とそんな自分を反省しながら恋の素晴らしさを唄っている2つの曲を上手 にアレンジして聴かせます。ベースとドラムスのどこかアフリカンなアレ ンジが興味を惹く#9。このアルバムでは3曲目となる彼女自身の作品# 10。素晴らしいです。#11を聴いてドキッとしている方は40代以上 でしょうか?昔は良くストリップ・ショーや映画、TVでの怪しい場 面に使われていましたが、如何でしょう。#8と同様、ここでのアレンジ は彼女が行なっています。本当に作詞、作曲、アレンジそして、歌唱と素 晴らしい才能です。生徒が先生に恋の手ほどきを迫るといった面白い曲# 12でアルバムは幕を閉じます。

如何でしたか?彼女の実力にノックアウトされた方も多いのではないで しょうか。それから最後に一言。このアルバムは彼女の才能を余すところ なく伝えているのですが、もう一つの魅力が、ロブ・ベッカーの撮った彼 女の写真です。思わず手を伸ばしてしまいそうになるジャケットの写真を 始め、彼女の顔をとても魅力的に写しています。


なお、今のところ日本発売はなさそうなので、当分の間は輸入盤で楽し んで下さい。CDのナンバーは Blue Note の7243 5 22642 2 3です。