Francois Le Roux

Les Feuilles Mortes



ジョセフ・コスマと言ってもあまり知っている人はいないと思いますが 、<枯葉>といったら、あ〜、と思い出す方が多いのではないでしょうか 。彼はその<枯葉>の作曲家としてあまりにも有名ですが、この<枯葉> が彼の名声を<枯葉>だけのものに留まらせてしまった感があります。元 々はクラシック畑の人だなんてほとんどの人が知らないのは至極当然の事 かもしれません。そのコスマの残した功績の数々を有名なものからそうで ないものまで、フランス歌曲の全てをレパートリーとしているバリトン歌 手のル・ルーがジェフ・コーエンのピアノ、マシュー・ハントのクラリネ ット、そして、メンバー・オブ・マトリックス・アンサンブルの面々の協 力の下に作ったのが今回紹介するこのアルバムです。

物悲しいチェロの音で始まる#1はこのアルバムのタイトルにもなって いる有名曲。バースから唄われるこの曲は映画<夜の門>でイヴ・モンタ ンが口ずさんでいたものだったのですが、こんなに広まるとはコスマ自身 も思っていなかったようです。レイモン・クノーが今でも現役で活躍して いるサン・ジェルマン・デ・プレのミューズ、ジュリエット・グレコの為 に捧げた詩に曲を付けた#2。この曲はムルージの持ち唄としても有名で す。アコーディオンのリズムが楽しげな#3。でもこの詩、とっても怖い んです。そしてとても風刺が効いているんですね。なにしろサルトルの作 詞なんですから。
#4〜#13までは<いともやすやすと>という歌曲でトリスタン・ツ ァラの作詞。この辺りを聴くと彼がクラシック畑の人だという事が解るん じゃありませんか?最後は芝居の様に台詞で終わります。#14〜#16 は<ロボット・ダンス>というピアノ曲。サロン音楽風の#17〜#20 。フランシス・カルコの書いた4つの詩のメドレーである#21。このア ルバムの一つのハイライトとでも言えるル・ルーの歌唱の#22。ジャッ ク・プレヴェールの詩がとても魅力的です。フランス語って本当に美しい な、と思ってしまいますよ。#23〜#28までは再びコスマのピアノ曲 です。これは<ゲットーの歌>という題がついていますが、ゲットーとは ユダヤ人の居住地区の事です。当然のごとく彼はユダヤ人だったことで色 々な苦難を強いられる事となったのですが、この組曲の中でも大きくその 影響が出ています。ル・ルーの表現力が素晴らしい#29。ドイツ語の# 30は私がこのアルバムの中で最も好きなナンバーかもしれません。
アニエス・カプリが創唱して後にイヴ・モンタンで大ヒットした#31 。力強い#32はその名の通り、レジスタンス運動への讃歌です。
#33〜#35は組曲<海の歌>。テオドール・プリヴィエの詩をよく聴 いて下さい。感動します。哀愁漂う#36はヴォーカリーズで唄われます 。そして無伴奏で唄われる#37。このアルバム最後の曲は、これも<枯 葉>と同じく映画<夜の門>の中で使われていましたが、このように聴い てくると、なんと文学的な詩が多い事だと考えさせられます。ル・ルーの 歌唱やコーエンのピアノも見事だったのですが、じっくりと詩を聴いても らいたいアルバムだなと思うのです。

如何でしたか?更けゆく秋にピッタリのアルバムだとは思いませんか?
アルバムの番号は UCCD 1003 で、DECCAレーベルでビクター から出ています。捜す時はクラシックの声楽のコーナーに行ってみて下さ い。