ANN BURTON

BLUE BURTON



年の経つのは早いものです。アン・バートンの訃報を聞いたのが198 9年も師走を向かえようとしていた時なので、もう12年近くになるので すね。彼女の事を知らない方のために、ここで、ちょっと彼女について紹 介してみたいと思います。
1933年にオランダのアムステルダムで生まれた彼女のキャリアは1 955年(なんと、筆者が生まれた年であります)がスタートとなるとい うので、それほど早いスタートだとは言えません。最初の頃は、ドリス・ デイの様な唄を唄っていたといいます。しかし、ある仕事でビリー・ホリ デイの《ファイン・アンド・メロウ》を演奏する機会に恵まれた事から、 その事情は一転します。ビリー・ホリデイに傾倒していった彼女は、ヨー ロッパから北アフリカの陸・空軍の基地にあるクラブで唄っていた時に、 そこに出演している歌手の多くが黒人で、彼らこそが本物の唄を唄ってい る事に気づくのです。そして、このことが後の彼女の唄のスタイルを決め る重要ポイントとなったのです。説得力があり、温かみのある彼女の声は 、特に我々日本人の心に受け入れられるには十二分だったのかもしれませ ん。
その後、何度も来日し、日本でも数枚レコードを吹き込んでいます。そ んな事から、彼女は日本を第二の故郷と思っていた様です。1987年に 久々の来日をした後、《Everything Happens》というアルバムを録 音して、これからの活躍がまだまだ期待されていた矢先に、ガンで帰らぬ 人となってしまったのです。とても残念でしたが、彼女の歌声はこうしてCD やレコードで聴く事が出来ます。何時までも彼女の歌声を聴く事のできる 我々は、なんと幸せな事でしょうか。それではこのアルバム、《ブルー・ バートン》を紹介していきましょう。

ローズ・マーフィーが得意にしていた#1は、ヴァースから唄います。 このアルバムで伴奏を受け持トリオのリーダーでピアニストのルイス・ヴ ァン・ダイクのブルージーなピアノがとても光ります。キャロル・キング の隠れた名曲#2。セカンド・コーラスでの軽いスウィング感がたまりま せん。ロジャース & ハートの#3は、地味ながら説得力を 必要とする難曲です。心の広かった彼氏と別れた後の後悔を唄ったもので すが、アン・バートンの唄はもの淋しげで抱きしめたくなりますね。カー メン・マックレイもよく唄っていました。また、サックスのオブリガード がほど良い効果を上げています。ガーシュインの#4は、これもまたヴァ ースから唄われますが、とてもリラックスしていて体が軽く動いてしまい ます。演奏もとても素晴らしいですね。
重いベースの音で入る#5はビング・クロスビーのヒット曲。これ以上 は落とせない程のゆっくりしたテンポで唄うアンの巧みさが光ります。付 き合っている内に変ってしまった恋人に対して唄われる#6は皆さんにも 経験がありそうな内容です。よく歌詞を聴いて下さい。ちょっと、相手の 観察力が怖くなりませんか?フランスのサッシャ・ディステルが作った# 7はトニー・ベネットでお馴染み。夜のバーでグラスを傾けたくなる様な 雰囲気です。これもそんな雰囲気を感じさせる#8。もうお酒が欲しくな っちゃいますね。そしてLPの時にはラストになっている#9。ご存 じ、ボビー・ヘブの大ヒット曲。この様な曲を見事に唄いこなしている彼 女は流石です。
さて、これからの2曲はこのCDだけのスペシャル・トラック。ア ン・バートンの未発表トラックは無いものだと思われていたのですが、何 と、これからの2曲が見つかったのです。とてもブルージーに迫る#10 。彼女が敬愛してほかならないビリー・ホリデイの#11。いずれのトラ ックも素晴らしい出来なのですが、やはり、オリジナル盤に入らなかった のが解るような気がします。しかし、単なるボーナス・トラックとしては 勿体無い位の出来である事は間違いないでしょう。

如何でしたでしょうか。アン・バートンの世界にどっぷりと浸かって頂 けたのではないかと思います。
CDの番号は 496791 2で、SMM(Sony Music Media )から出ています。(輸入盤)なお、国内盤には#10、#11のトラッ クは入っていませんので注意して下さいね。ジャズ・ヴォーカルのコーナ ーに行って下さい。