BILLY STRITCH

BILLY STRITCH



数年前、ライザ・ミネリが来日した時に、そのショーの一つのコーナー を担当したピアニストがいました。彼は粋なピアノを弾き、また唄も披露 していましたが、その時のライザ・ミネリの紹介がただならね絶賛の言葉 だったので、どの様なパフォーマンスを見せてくれるのかと思っていたの ですが、蓋を開けてみると、やはりアメリカには無名だけど実力のある人 が沢山いるんだな、と言う事をまざまざと見せられた、と言う次第だった のです。それが今回紹介するビリー・ストリッチその人です。
テキサスに生まれた彼は、5歳の時にはすでに耳から聴いたモーツァル トをピアノで弾く事が出来たといいます。そして隣家のジュークボックス で聴いたグレンミラーがポピュラー・ミュージックへの道を切り開いてい きます。そして、13歳でビル・エヴァンス、オスカー・ピーターソン等 のジャズ ピアノに洗礼され、同時に、メル・トーメ、マーク・マ ーフィー等のヴォーカル・スタイルを学んだのです。そして、早くも15 歳で、コール・ポーターの曲で構成されたショーを片田舎のクラブで披露 しています。18歳の時に請け負ったマリリン・メイの仕事をきっかけに 20歳で《モンゴメリー・プラント・アンド ・ストリッチ》とい うヴォーカル・グループを結成してニュー・ヨークに進出。アルゴンキン ・ホテルに出演する機会を獲ます。その1年後、彼に大きな仕事が舞い込 みます。ライザ・ミネリがラジオ・シティー・ホールで行なうショー、《 ステッピン・アウト》のヴォーカル・アレンジメントを担当する事になっ たのです。そして、ついに1991年CDデビューをこのアルバムで 果たしたのでした。それでは紹介していきましょう。

サンバのリズムと共に唄われる#1はC・ポーターの曲とA・C ・ジョビンの曲のメドレーですが、まるで一つの曲の様です。ワン・コー ラス目をベースとのデュエットで聴かせる#2。ラウンジで聴いている様 な感じで、とてもお洒落です。エキゾチックなピアノのリズムで始まる# 3。スキャットの所ではまるでメル・トーメと間違えてしまいそうです。 サイ・コールマンの作ったバラッドの小品#4。ここではマーク・マーフ ィーの影響がうかがえます。弾き語りでチョッピリ不安定な唄い方もまた 魅力的ですね。軽いボサノヴァのリズムで進む#5のメドレーもまた、一 つの曲にしか聞こえません。やはりアレンジが上手なのでしょう。
小粋にせまる#6。#7のメドレーでは違った種類の料理をうまく混ぜ 合わせたという感じがします。バック・ヴォーカルも担当した#8。マン ハッタン・トランスファーばりのコーラスで心地よいですね。詩をしっか り伝えている#9。演奏も素敵です。ヴァースから唄う#10はエセル・ ウォーターの得意曲でした。
ライザ・ミネリがゲストで参加している#11。これもメドレーですが 、息もピッタリの名演です。ライザが彼の才能を本当に認めているからこ そ出来る技なんでしょうね。雨の上がった森の中をさまよっている感じの #12。とても気持良くて、このまま眠りそうな感じです。ピアノのみの #13。彼の基本はやはりピアノなんだと改めて考えさせられました。そ して、アルバムの最後はパーッと陽気な#14です。

如何でしたか?アルバム全体が一つのショーを構成しているかの様でし た。是非一度聴いてみてください。CD番号は5215 で、 DRG レコードから出ています。輸入盤しかありません。見つからない場合 もあると思いますが、悪しからず。ジャズ・ヴォーカルのコーナーに行っ てみて下さい。