RADKA TONEFF

FAIRYTALES


何と綺麗なジャケットデザインでしょうか。このジャケットと同様、今 回紹介するラドカ・トネフの《フェアリーテイルズ》も大変美しいアルバ ムです。
ラドカ・トネフと言っても、多くの人が知らない事でしょう。ここで少 し彼女のプロフィールを紹介しておきましょう。1952年ノルウェイ生 まれの彼女はピアノ教師を目指してオスロ音楽学校でピアノを専攻してい たのですが、同時に地元のバンドに誘われて、ロック・ヴォーカルを経験 しています。その後、当時ノルウェイのジャズ・シーンで注目されていた バルケ兄弟と出会った事でジャズに傾倒していきます。そして、1972 年、彼女にとってのファースト・アルバム《ウィンター・ポエム》を発表 、79年にはセカンド・アルバム《イット・ドント・カム・イージー》が 評判になって、その年のベスト・シンガーに選出されています。そして8 2年の2月にスティーヴ・ドブロゴスのピアノとのデュオという形で吹き 込まれたのが今回紹介する《フェアリーテイルズ》です。それでは紹介し ていきましょう。

透明な世界が見えてくる#1。ウィンダムヒル・レーベルがリリースし ていたソロピアノの世界を彷彿させるスティーヴのピアノ。彼の弾くピア ノがとても印象深い#2。クルト・ワイル作の#3では、ラドカの不安定 とも感じられる音程が唄の世界を広げています。このアルバムのピアニス ト、ドブロゴス作曲の#4。自作だけあって流石に伴奏のこつを知ってい ますね。とても素敵なサポートです。唯一79年の11月に録音されてい る#5ですが、アルバム全体の雰囲気を壊す事なく進んで行きます。
風変わりな曲を更に暗くした印象のある#6。間奏のピアノが泣けます ね。ブロッサム・ディアリーの#7ではまるでラドカが弾き語っている様 な感じです。彼女のオリジナル#8では、静かながら強いメッセージを感 じます。俳優として有名なダッドリー・ムーアが、かつてピアニストだっ た事を知っている人はどの位いるでしょうか?その彼の作曲した#9は、 とてもミステリアスな雰囲気が漂います。この曲はダッドリーとクレオ・ レインのデュオアルバムでも印象に残る佳曲でした。そして、アルバム最 後の#10は、女性詩人、エミリー・ディキンソンが書いた詩にピアノの ドブロゴズが作曲したもの。振り返ると誰もいない、自分の足跡だけ残る 風景が、ず〜と地平線の彼方まで続いている様な感じを受けます。
如何でしたか?彼女はこのアルバムを録音した年に、アーネット・ピー コックという歌手のコンサートを聴きに行って、自宅に戻った後、自殺し てしまいます。そこで何を感じとったのか私たちには分りませんが、この アルバムの何処かにその秘密が隠れているかもしれませんね。雨の続く梅 雨の夜更けに、一人の部屋で、少しヴォリュームをあげて聴いてみては如 何でしょうか。
CD番号は ODIN NJ 4003-2 でノルウェイのODINレコードか ら出ています。輸入盤ですが、4〜5年前に東京エムプラスという会社が 国内盤として輸入販売した事があるので、CDショップの担当者に聞 いてみると分るかもしれません。ジャズヴォーカルのコーナーに行ってみ て下さい。